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鬼の首27
しおりを挟む「さて」
軽く、ご説明させていただきたく思います。
そう言われて本上が竹中に話したのは、まさしくカルトの思想といったもの。
『近く滅びが訪れる、その滅びを回避できるものを生み出していこう』
というのが本当の目的であるらしい。
『次の世代の』うんたらというのは表向きそれを伝えられない者たちへのものらしい。
「何故俺にと聞いてもいいですか」
「夢を見たのでしょう? 夢に告げられたものは、今まで100の確率で何かしらの『力』を覚醒させられるのです」
「そしてね、私たちは力を持っている人を増やしていきたいんですよ。少しだって『あの恐ろしいもの』を回避できる可能性は上げたいんだから」
ふと、疑問が湧く。
覚醒とは、夢の通り力を得ることなのであろうが、滅びとはなんだろうか。
眉唾な話だ。具体的ではない。そんなもの、見たこともないくせに。
そういう話のはずなのだが――蒲原はまるで見てきたように言っている。思い込みにしては――言っているその顔は青く血の気が引き、本当に怯えているように見えるのだ。本上も、それを知っている風であった。
「あぁ、別に直接見たってわけじゃないですよ。私も、本上さんもそうだけど、この組織の誰一人たりとも、それをしっかり見れるってわけでも見れたってわけでもない」
「……俺、そんなにわかりやすい顔してましたか?」
思っただけのことに答えが返ってきて動揺してしまう。
そんな竹中を見て、ふふ、と少し和んだように蒲原は笑った。
「同胞になろうとしている人をからかうものではありませんよ」
「いやぁ、なんか、反応が新鮮で――まぁあれですよ。私は、わかりやすく超能力って感じの力に覚醒してますよって話です」
「……心が読めるとか、そういう風なのですか?」
竹中の発言に、照れたように蒲原は頭をかく。
「いや、そんなに強くないんですよ。まだ鍛えている最中でして。ようやく表層の感情の種類くらいはってところです。疑問や疑念の感情からの推測ってだけですね」
「……鍛えて上がるものなんですかね、その、超能力ってのは」
「上がるみたいですよ。私も最初の頃よりずっと精度が増してきましたし――いやまぁ、私も近く覚醒した口なのでまだまだ成長したというよりはようやっと馴染んでるって感じですけど。強いものなら今の私でも割と内容まで聞こえたりするんですけどね。なので嘘か本当か見てたのは私です。弱いので時間がかかりましてすみません」
本心でその行為が悪いとは思っていないのだろう、本上に比べて蒲原の謝罪は特に心がこもっていないことが感情を読み取る能力などなくともわかるような謝罪である。
能力が使える自分が誇らしく、自慢なのだろうなと竹中は感じた。
恐らくは、そうでないものを見下してもいるのだろうと。
なんとか、それに嫌悪感等を覚えないように努力するも、笑いが深まったところから読み取られているのだろうと思うと、イラッとするのは止められなかった。
自分の意思で妖怪でいうサトリもどきの力を使って読んでますと悪びれずにいれるのはある種の才能だ、と別方向に皮肉気ではあるが感心する感情にスライドさせる。
それで首を思わずといった調子で捻ったところから、本当に時間でもかけなければ表しか読めないのかもしれにない様子だ。
(心理学やらカウンセラーの知識でもありゃ、同じことできる人がいそうな程度の力って考えれば腹も立たないか)
「申し訳ありません。その、少し見覚醒の同胞の発見にはしゃいでしまっているようでして。変わって謝罪致します」
「……いえ」
変わって本上は蒲原よりもわかりにくいままだ。
にこやかで、今も苦笑するように、申し訳なさそうには見える。
「さて、ではもったいぶっていても仕方ありません。さっそく、覚醒なさりますか?」
「というより、そんな簡単にできるものなんですか? というか、契約書とか、料金とか」
何か要求されるのは確定だろうと思っていた竹中としては、何も言われずに進もうとするのは逆に怪しさを覚える。
タダより高い物はない。
こんな怪しげなものなのだ、むしろタダとみせかけて何かしら不利益がある場合すらある。
「えぇ、夢で告げられた人間であることが確定していれば、それはもう引っ張り上げるだけの話ですので――あぁ、対価に何かをいただくということはありませんよ。もちろん、我々の仲間になっていただければうれしく思いますが」
「……何故です? それで、貴方たちになんの得? 俺が言うのも変な話ではありますけど」
「確かに。はたから見れば怪しいでしょう。我々は覚醒した人間を今は増やすことを目的としているのですよ。数はうたねば当たらない。そもそも当たる弾の用意があるかどうかもわからないんです。いちいち条件を指定してその可能性を潰すわけにはいかないのですよ。先ほどいったことに、何1つ嘘はないのです。我々は滅びを回避したい。その人間が我々の仲間でなくとも構わないんです」
本上がじっと竹中を見る。
そして、表情を消した。
今までとのギャップなのか、それだけで空恐ろしく見える。
しかし、仮面をはいだような状態であることは間違いない。
素が見える。
嘘ではないのだ、と伝えるように。
「私たちは勇者になりたいんじゃないんです。ただ、生き残りたい、その確率を高くしたいだけなんですよ。ぶっちゃけてしまえば誰が救ってもいい。無関係なところで救われましたで全然かまわない。もてはやしてでも、怖いものから逃げたいってだけなんです」
その震えと顔色は先ほどの蒲原の再現のように。
それはそれが演技ならもうどうしようもないというくらい、本当に怯え切っている景色だ。
竹中は、いったい具体的には知らない、わからない様子なのにそこまで怖がるものとはいったい何なのだろうかとさすがに気になってくる。カルトの妄想というには少し大げさすぎるとも。
怖がりたいのかというとそうではないが、本上のような大人と、図太そうな蒲原が同じように怖がる具体的でない何かというものが『滅び』という一言でまとめると陳腐なように思えてしまうからだった。
怪しげな陰謀論を信じ込み、誰かれ構わず敵対して噛みつく類の人間にも思えなくて、冷静に狂ったことを言っているように見えるのだ。全部が本当だとは思えないし思いたくもないが、信じるのであれば、本気でこの団体というか集団というものは利益なくただ来るべき何かに対応しているだけということだ。具体的にはなにもわからないのに。
意味が分からな過ぎる。価値観がわからない。
感情とその行動が理解できなさすぎるから、もうサイコパスの集団のように思えてくるのだ。
表向きを取り繕う理性があることが逆に危険団体めいていると感じる。今はそうだが、転べばなんでもするという雰囲気が。
竹中も自分なりに結構な決断と心構えできたつもりではあったが、実際聞いて目にして、己がそのちぐはぐに見える一員になるのかもしれないと実感してしまうと、何か少し別の恐怖が増してくる。これと関わっていることで色々解決しても結果的に現実社会的に死ぬんじゃないかという。
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