十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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鬼の首39

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 普通。慌てもしない。恐怖もしていない。ただ、淡々と、それは日常みたいに。不満をこぼすどうしようもない奴の話をただ聞いているみたいに。たまに、行き過ぎた言葉を諭すように。

「祥子はさ、性格悪いくせに、それを偽悪的にふるまって『実はそうじゃないんだよ』と思わせようとするからよくないんだよ。ずっと」

 またぴたり、と浅井の体が止まった。あり得ない言葉をいわれたように。あるいは、図星を突かれたように。
 啓一郎は、竹中という人間が、浅井祥子という人間に対して愚痴を言ったり心配したりしているのを見たことはあるが――ここまではっきりと、貶めるような言葉をはっきり本人にいうところを見たことがない。それは、付き合いが浅いからかもしれない。が、そういうような人間には思えなかった。だから、言われたわけじゃない啓一郎すらちょっとぎょっとして竹中を凝視してしまう。

「性格悪いだろ。知ってるし、ずっとそう思って友達やってたよ。言葉が悪いとかじゃあなくて、もっと、根本的なもの。
だから――俺を近くに置いて安心していたかったんだろ。それすら、性格の悪さの発露だもんな。自分より下を見ると安心する気持ちを持ってたかったって理由と、特別じゃないけど自分のものを奪われるのはいい気持ちがしないから、くらいなのに酷く強い独占欲。でも近くにいる見下している奴が、人気者になりすぎたり滑稽じゃなくなったりするのは嫌だからそういう存在であるように」
『う、うるさい! 違う。違う! 私は性格悪くなんてない。ない! お前だろ、お前がもともとできなくて、馬鹿なんだろ! だってそうしなきゃ、そばにいなかったくせに、なにもできなかったくせに逃げたくせに、逃げてどうしようもないのに戻ってきたりする恥知らずのくせにっ……』

 支離滅裂になっていくそれは、啓一郎に対してと同じようで違う。どちらかといえば、それは個人向けの――ありきたりな喧嘩のようなヒステリーであるようにしか見えない。怒りだけではない。恥ずかしさとか、見るからに、そういうものを覆い隠したいからこそでもあるものだった。
 浅井のその姿に、どこか誤魔化したい子供を啓一郎は幻視する。

「怖がりで、寂しがりで、自尊心がやけに高くて、内側がどろどろで醜いといっていいレベルだ。そして、そんな自分を何より認めたくない。見つかりたくない。見せたくない――だから、そんなふうにまでなった。なれる力を持ってたのが、そもそもの間違いだったんだろうなぁ」

 浅井は、竹中のただ吐かれたため息に、びくりとするような反応を見せる。
 姿だけで見れば、滑稽さを感じるだろう。

「ある意味不幸だったのは、自分のそれが醜いし嫌なものだと思ってしまう事だったのかもしれないね。
助けてくれた人に、何より感謝しなきゃいけない、そうじゃなくても、負の感情を向けるべじゃないという事はわかっていて、そう思えず――まず、とても嫉妬とか殺してやりたいような気持を抱いたんだろう自分を認めてあげられずに蓋をしちゃったのが、間違いだったんだ」
『だって、だって、がっかりするじゃんかぁ。離れていくじゃんかぁ……だって、いなかったじゃんかぁ……どうして私の前にこなかったのに、代子には来るんだよぉ。どうして、私にできなくてあの程度の奴にできるっていうんだよ、変えていくんだよぉ。ずるいじゃんかぁ、そんなの、ずるいじゃんか!』

 爆発。つつかれたことでか、それに呼応するように啓一郎には見えてなかったが、竹中には見えていたらしい不満が噴出すると同時に、現実にも感情によるものか、ただ制御すらできなくなっているだけかびりびりとした衝撃があたりを走り回る。

 啓一郎の皮膚がぴりつく。そして頭から押さえつけられるような感覚に、四方八方に引っ張られる感覚。優秀な肉体を持つ啓一郎でも吐きたいほど気持ちが悪くなってくるそれ。堪えるようにいったん下を向いて唾を吐き出して、気合を入れてて立て直す。そして、思わず耐えきれないだろうと心配して竹中を見ると、想像通り耐えきれなかったか吐しゃ物が口の端から漏れ出ているようだ。それでも、倒れもせず、まっすぐ浅井から目をそらさず立っていた。こんなことは、取るに足らない、気にもしていないというように。

『可愛くて? 汚いものに触れてもそうならなくて? 人間不信じみてみてても心根では信用したいという気持ちをもってて? そうであっても好かれて、であって、成就して?
私みたいのも、信用しちゃって?』

 圧力が増す。
 竹中の膝が意思に反して耐えきれなかったががくりと折れる。
 啓一郎は、慌てて何とか近寄ると、気持ち等など考える余裕なく自然とそれを支えていた。一瞬だけ、目が合う。その顔は苦笑していた。

「ごめんよ。ごめん」

 小さく呟かれた言葉は、啓一郎に向けてだろう。
 それ以外、言える言葉がないというようだった。

『馬鹿にしてるのか。馬鹿にしてんのか!?』

 もう、視線は戻されている。ただ、支えているくらいしかできない。

『私を、馬鹿に!? 馬鹿女だろうが、よっぽど! いっつもそうだ、お前も、周りも! あいつみたいなのが好かれて、好まれて、囲まれて、幸せの切符をつかみやすいようにできてるっ。私みたいのは、私とか、そういうのはっ、いつだって貧乏くじだ。切符を得る、そのチャンスさえ提示されないっ』

 浅井の崩れる速度が増しているように見える。
 それは無茶をしているからだろうか。それとも既定路線なのだろうか。

『あぁ、そうだ。そうだよ! 羨んで、嫉妬した。憎んだ。そうだよ。何が悪いの? 何が悪いわけ? 見せつけるみたいにきらきらしちゃってさぁ……そう思って、八つ当たって! 言い訳しながら貶めることの? 何が悪いってんだよっ! 結局、全部乗り越えちゃってさぁ! じゃあ、いいだろ!』

 その浅井が、開き直ったか、怒りで全てを誤魔化すことにしたか、ヘドロのような感情を隠しもせずに吐き出しながらどすどすと苛立ちをアピールするように近づいてきていた。
 離れよう――とその意思を伝えるように竹中を引っ張ろうとするが、竹中は視線はそらさぬまま首を振った。それでも、如実に伝わる。動かない、そのつもりはない、と。
 どうしてか、危険なのはわかっているし、そうしたほうがいいとも思うのに、無理やり動かすことはできなかった。

 を。
 遮っては、いけないと思ってしまったのだ。友人であるのに。ここにいるから、当事者であるはずなのに。ここには3人しかいないのに。そう、思ってしまったのだ。

 啓一郎は、もう感情がどういう方向を向いているのかもわからなくなっていた。余裕もなく、鹿状況に、もはや不自然を感じることもない。

『そんな、そんな汚い自分を認めたくない事の、何が悪いってんだぁっ! あぁ!? 綺麗であろうとして何が悪い。私だってそうありたいって、綺麗になろうとして、そうだって思う事の何が悪いんだよ……そうなるはずだった。そうなるはずだった! 何もかも、そうなるはずだったんだっ! 綺麗に収まるはずだったんだっ。間違ってるってんなら、間違ってたっていうんなら、どうすりゃよかったのか言ってみろぉぉぉっ!』

 興奮したからか、ぼろぼろとより自壊の激しくなった、しかし人という生き物を殺すにはいまだ容易い暴力が感情のままに、大きく振り上げられて――

「言えばよかった。嫉妬してます。悔しくて仕方ないしムカついたりもしますって」

 振り下ろされる前に、その言葉で、停止した。
 思わぬ言葉を言われたのか、すとんと振りかぶられた浅井のその腕が切れたように落ち、理解できないという調子で後ずさりさえしている。
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