十人十色の強制ダンジョン攻略生活

ほんのり雪達磨

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クリア:雨宮 啓一郎(ダンジョン:修羅求道鬼ヶ島 掲示板ネーム:おっさん)2

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「あれも――少しくらいは、わかってるつもりなんだ。せっかく会えたのにどうして? とは思ったけど……大事な人の選択を優先したんでしょ? 選択を叶えたいって気持ちはよくわかるし……終わりは一種の安らぎだ……そうあるべきだと僕も思う……んだから、それはまだわかる」
「……そうか。それは、どうもありがとう。ちゃんと知らない、とは?」
「あっちでの死は、終わりの決断を汚すものだ! あんなのが安らぎなんて誰が認められるもんか!」

 情緒不安定といわれても仕方ないような、唐突の激昂。
 啓一郎は、少年がそこまで怒る光景というものを初めて見た。
 しかしそれより気になるのは――死というものについて。犠牲者たちが、家族が、向かった――向かわせることを選んだ、先。

「どういうことだ?」
「……全ての死は、アレに繋がってるんだ。死ぬ、とは終わりじゃない。魂がアレの元にいって、苦痛を、永遠に思えるような苦痛を、いつの日か終わるまで味わい続ける事なんだよ。終わらせる存在より、どうしようもない存在なんだよ。その場所にどうしたっていく行為なんだ……」
「……なんだって?」

 意味が良く理解できない。
 アレ、とはなんのか。わからないが、いい気配はしてくれない。

「あっちの死は、安らぎじゃない。痛い、苦しい、辛い、悲しい、そういうあらゆる嫌なことが始まる合図に過ぎないんだよっ」
(死ぬ、とは終わりではなくて……永遠に思えるくらいの、苦痛を、味わい続ける……? 終わりよりも、質が悪い……?)

 笑顔で送り出した。
 それが不幸の選択でないつもりで送り出した。

「終わらない。何もできない。一方的にただ慣れることもさせないような苦痛を味わうばかりの存在になるんだ……それを知ってるんだよ」

 ぐ、と顔をしかめてあらゆるものをこらえる。
 怒りだとか悲しみだとか――殺意だとか、後悔だとかを。いつの間にか取り巻くように集まっている鬼の力を意識して霧散させる。素直に散っていくそれは、どこか残念そうに見えた。

(嘘、をいってるわけでない。俺が知らなかっただけで、特別なことじゃあない。いった通りなら、全員が味わう末路だ……むしろ、今日までそうなっていなかったというのなら、俺が恨むのは筋違いだ……だから落ち着こう。そう思って、落ち着くんだ)

 死が単純なる安らぎで終わり、とまでは楽観していなかった。ファンタジーまみれだった世界だ。死後だって色々と幸も不幸もあったりするかもしれないな、というくらいには。
 しかし、苦痛まみれという事も想像の範囲外だったのだ――そんな悪意の塊みたいになっているなんて、誰が想像するというのだろうか。死とは一種の救いである、という価値観を手放しで褒めるようなつもりは啓一郎にはない。だが、死後くらいは安らかであれ、それが続きであれ無であるとしても、というような、そういう気持ちや考えというのは想いがあればそう不思議ではない考えだろう。
 誰が、死ぬことが次の生の苦しみ等を飛び越えて、死ぬことがむしろ最大の苦痛を味わい続ける始まりなどと考えるのだ。
 終わりを告げるものが恐ろしいと感じていたのは、死ぬこと自体が恐ろしいと感じていたからだというのだろうか。その先すら、救いはないのだとどこかで理解しているから生き物は死を恐れるというのか。

 啓一郎はこの世界が地獄めいていると考えたことがなんどもある。
 それが間違いで、今言われていることが真実であるのなら――生きている間だけが天国で、それ以外が地獄のような状況だという事。少なくとも現実という世界は、1秒たりとも隙間なく苦痛が配置されているなんて事は限りなくないだろうから。
 このダンジョンでは、死ぬことを味わうのは常人ならそれだけで発狂するようなものだった。
 システムがそれをサポートしていたが、もしあれを越えるようなものを永遠に味わうとしたのなら。

(俺が、したこととは……)

 縛られる苦痛を共にするよりは、と思った。
 しかし……

(いいや、だからといって)

 言っていることが真であっても、そちらがより優れていることを意味しない。
 どちらかがどうというのは、どうしようもないことだが実際死んでいない以上わからないという事ではある。
 思うしかない。
 啓一郎は、正しいか正しくないかではなく、それでよかったのだと思うしかないのだ。
 深く息を吐いた。

「そうか」

 だから、返す言葉はそれだけ。
 納得してやったことだ。
 知らなかったとはいえ、あの場所、あの時点では。気遣いというよりは――新しいことが知れたからとて、その感情を相手に義理もない、という事。
 ぐじぐじと、もはや悩むことを止めた。
 知った、けれどやることは同じだ。むしろ、より帰るつもりなった。

「なんで? ここなら、その輪から外れることができるんだよ? そういう風に僕らは作った……今のところうまくいってる。全部じゃないけど、うまくいってるんだ。本当は、他の難易度みたいに、あの場所だってそうしたかったんだ……でも、それは現段階じゃリスクが高すぎるって」
(――場所が違う? クソゲと他の難易度の事か? 区切りが違うのか?)

 クソゲ、という場所だけは違和感があるような気がするものは啓一郎以外のも多かった。
 なんというか、保護機能等のシステム効果が薄いというか。しかしそれは、難易度が高いからという答えでうやむやになっていた。知りようがなかった、ともいうが。
 だが言った通り、リスクが高いのだとすれば。

 そもそも、知っていればあれは手に余るものだということがわかる。
 人という存在がどれほどになったとて、爪先の欠片でも御せたなら快挙である。下手をすれば、浸食されかねないし本体が来て全て巻き込まれる可能性もあった。
 だから、いつでも切り離せるようにしていたのかもしれない。
 全体の一部であるように見せて、クソゲという領域だけは最初から別だったと考えれば、どうか。

(難易度という問題ではなく、我々がやらされていたことについてはそもそもそこまで力を注げないか、注いでも意味がなかったか)

 いや。

(そもそも、全員が同じ条件ではないようだからな――その辺は考えるだけ無駄か。実験的にやってるんなら、色々条件は別でやってたんだろうしな、恐らくは。断片情報だけでもクソゲ仲間はそう察していた。実際そうなのだろう。バックアップが手厚いような奴もいたのだろう。薄い奴だけ残っているだけ、か。黙っているだけの可能性もあるが……)

 それも、今更かと考えるのをやめる。
 手は出せないのだから。啓一郎は、帰るのだから。何に気付いても、どうしようもできない。

 そうできること帰れるはなんとなくわかっていた。そう答えられる前にだ。できない、ということを心配はしていなかった。
 そもそも連れてきたのだ、戻すこともできるだろう……というだけの話ではなく――計画的であり、警戒していることが見て取れるからだ。
 恐らく、連れてきた場所は未だ観察されていると。何か起きた時にすぐ返せるようにくらいはしているはずだ、と。

 さらに言えば、終わりをもたらすもの、というものに興味を持っていることも明らかなのだ。警戒ももちろんしているだろうが、興味も見て取れる。だから、こうして啓一郎自身がこんな目に合う羽目にもなっている。
 元の世界といえば、終わりかけているらしい。それが来ている。つまりはそれが訪れてあれこれして終わるまでなんてデータがとれる絶好の機会。
 阿呆じゃない限り――取れるモノはとるだろう。いや、阿呆の所業にしか見えない事をやっているが、それとは別だと啓一郎は思いたい。

 できるという事と、するという事は別である。できるからといって、それをしない――問題が起きていないと帰さない、という可能性はあった。心配するとすればそこにあった。
 だが、ここにいるのが少年だった今の時点で要求すれば最終的には通るだろうと考えられた。だから余分な力も抜けて、冷静でいられる。
 もともと、クリア後のは何かしらの選択肢があるのではないかとは思っていたが――

「……なんで、そんなに帰ろうとするの?」

 死の内容を知ってまで、どうしてそこにいくのかと。
 少年のそれは、隠さない善意と良心からあふれるものだ。
 今まで強いてきた内容が、どうであれ。

「……どうして? どうして、自分からそんな不幸の泥に沈みに行こうとするんだい?」
「――その事実を知ったからといって、それを選ぶことがただ不幸ってわけじゃないのさ、少なくとも俺にはね」

 決断できた。決断したのだ。
 受けた時、もしかしたら想像以上のそれにもしかしたら後悔を絶対にしないとは言い切れない――それでも、不幸ではない。
 帰り、そこに向かった事自体を後悔などしない。不幸とは思わない。
 軽く見過ぎた事にこそ、そうすることはあっても。
 己の覚悟の足りなさに、そう思う事はあっても。
 そう決めて向かった事それ自体には。
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