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クリア:雨宮 啓一郎(ダンジョン:修羅求道鬼ヶ島 掲示板ネーム:おっさん)1
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やけにわざとらしい白の空間。
体を見回す。変わった所はない――いや。
(内に鬼は依然として、いる。体は――特に変わったとは感じないが――なぜ服だけ……これは元の世界の服か? 見覚えがある。確かに俺の……だとは思うが。ダンジョン製のものを取り上げた?)
スキル等も当たり前のように使えない。
(ダンジョン限定の代物だった? いや、よく考えればスキルうんぬんは使ってなかったな、最後の方)
鬼の力のほうが断然強かったというのもあるが――もしかしたら、その時点で使えないことを察していたのかもしれないと思った。
その時点でいえばアイテムボックス的なものだけは残っていたことは確かであるが。
(まぁ、いい。さして魅力を感じていたわけでもないしな。戻るのであればアイテムボックスやアイテムはあったほうがいいんだろうが……)
ふと、その白い空間に人が見えた。
どうやらそれは、こちらに手を振っているようだった。
しっかり視界にとらえれば、啓一郎に見覚えのある人物。
「……そうか」
憤りはしなかった。
驚愕も少なかった。
どこかでわかっていたかもしれない。
近かったからだろうか、と啓一郎は思う。
思えば最初からそうだったのだ。
思い出せばどうしてか、尊重しなければ、というような思いが湧いていたのだと。小さな友人であり、子供のように思っているような存在の近くにあるにはあまりに年の離れた存在に対して、警戒心があまりに薄かった。
ありえただろうか。そんなことが。
失い続けた時代の啓一郎からして。束の間、という言い訳をしていても情は誤魔化せないくらいに移っていたのに。
縋りつく存在等とか、天秤のように救世主がどうこうとは考えていなかったとはいえ。
啓一郎はそれを、年下で子供で、更にどこか年齢に対しても幼い様子である人間に対する庇護のような心だと思っていたが――
「おめでとう、先生さん!」
ただ、『少年』と、よく呼び掛けていた存在。
自らの教え子であり、年の離れた友人のような子供のようなそういう風に思っていた存在を通して知り合い、少々話したり遊んだりもしていた少年。いる時はいつも楽しそうだった。何か啓一郎等の知っている人間に悪戯されてもほとんど怒ったりすることもなく、もし怒りはしてもそれは極々小さなものでしかないような、そういうゆるやかな、悪く言えば少し間の抜けてぼんやりとしたような印象を抱く少年だった。
そんな少年が、目の前にいる。
「クリアできて本当に良かった! 家族にも会えて喜んでもらえて良かった!」
その顔はいつも通りだ。知ったままの表情だった。
つまり、悪意の欠片もない。笑顔。
何か悪い事をしたのだ等とは考えていない顔。
祝福の顔。
いい事があってよかったね――というような。それこそ共に進めているゲームをクリアしたことを祝福する程度の――
(いや、いつも以上に祝ってくれているな、これは)
それでも。
それでも、そこには常人なら違和感が湧くだろう。
何せ、クリアして訪れた先にいるのだ。
啓一郎でなくとも、怪しむだろう。
あぁ、こいつが黒幕で、自分たちをさらってきたのか、だとか。
そう思われて不思議ではない。実際そうだという確信は啓一郎にはあるが、そういうことではない。
もし罪悪感等あれば、このような登場の仕方をしないのだ。
相手は悪く思ってないし、相手にも自分がしたことを悪く思われることなんてない。
そういう考えの元でなければ、でてきて本心から祝いはしないだろう。そうできはしないのだ。
「喜んでもらえるかと選んでつくった掲示板でも、なんかちょっとキャラ違ったように見えたりしたけど楽しそうに見えたし――」
(いっそ、待ってましたとばかりに反応を見るために、煽るために出てくるような――そういうものであったなら)
簡単に、恨むことも憎むことも怒る事さえできただろうに、と。
現実、今の啓一郎の心にはそれらはあっても小さいものでしかない。余韻が残っている、ということは大きく影響しているがそれよりも――哀れさ、のようなものがあった。
知り合ったものについては、どうしても甘くなるという面があることもあって、哀れにしか思えなかったのだ。
どこかずれている存在だとは思っていた。
それが、誰かと接することで少しも矯正されなかったというだろうことが、悲しくもある。
「……というか、なんでツールとして選んだのが掲示板だったんだい?」
「……? あぁ、あれ? だって君たちから教わったものじゃないか。あったら面白いかなぁって。盛り上がるんでしょ、そういうの。直接連絡はダメって言われたけど、あれくらいならいいかなって思ってお……僕がつけたんだ」
(お……? 俺? 僕に言いなおさなくとも、別に俺でいいと思うが……あぁいや、変に素直な奴だったからな、キャラ付、みたいなやつもジョークで教えた気がするし……それか?)
「あぁ……軽いネットリテラシー的なものと一緒に教えた気がするな、確かに。ゲーム教えたついでに」
「そうそう。参加はほとんどしなかったけど、割と楽しかったから。いいかなぁって」
なんでもない口調で話しかける啓一郎に、少年は戸惑うようなことはなかった。それが当然だ、というか。そうすることに不自然はないのだ、という調子で普通に会話する。
ずれたままの証明だった。啓一郎が抱いた印象の通りのようだった。
これまでの過程は、ちっとも自分たちの関係には影響しないと思っているのだ――いや、影響するなんてことを考えてもいないのだろう。
そして、確認するまでもなかったが、これで確定した。
少なくとも、ただいるわけではない。攫う、にも、作るなり用意するにも、関わっている。他がいるのも天秤時点で分かっていたが、確定だろう。
溜息をつきたくなる。
「でも実名というか……個人情報漏らせない縛りはここではあまり意味なかったというか……どっちかというと、嫌がらせみたいになってたようだが」
「なんで!?」
こんな状況で掲示板、というのは助かった部分は大きいが煽りか何かと思っていたが――実装した人物がずれているからだったのか、と啓一郎は納得した。
あれやこれやの、意味を感じないような規制だったりなんたりも。
特に理解しないまま、教えられたように使っていたのだろう。だから、妙だったのだ。
「うーん。ダメだったのかなぁ? もうちょっと考えないとなのかな? 他のが悪乗りみたいにもっとSNSっぽいのいれよーみたいなのいってたの止めたりしたんだけど、しない方が良かったのかなぁ……」
異常な状況で、日常を演じる。
ここまでのずれがあるとは、さすがに啓一郎も想像の外。
曰くの完成体とは、ここまで外れたものなのだろうか――と改めてこの状態で考えて、背筋に嫌な汗をかく。
「……なぁ、少年」
「なんだい先生」
「俺を、帰してくれないか。元の場所に」
そういうと、笑いの表情が落ちる。
無表情になったという訳ではない、そこにあるのは――困惑だ。どうしてそんなことを言うのか理解できない、というのが隠すこともなく前面に押し出されている表情だった。
そして、少し慌ててすらいる。
「な、なんで……?」
「何でも何も、そうしたいからだよ。できるんだろう?」
「できるかできないかっていったら、それはできるよもちろん……でも……」
力関係は、鬼の力を得ている今なら啓一郎が一応人間という枠に収まったような矛盾した状態で弱体化しているようなものであっても、大きくは差はないだろうと啓一郎は考えている。
少なくとも、ダメージが通らないようなことはない確信があった。ちゃんと、殺せる存在として啓一郎は見ることができてる、と。
だから、力の差は関係なかった。差があるからではない。
関係なく、まるで子供に教えるような口調で啓一郎は喋っている。
怒らせないようにしているわけでもなければ、下手に出ているわけでもなかった。
「会えてよかった。ちゃんと推薦が機能して本当に良かったと思ってたんだ……あっちにするつもりはなかったけど、どうしようもなくて……それでもちゃんと条件と準備があるタイプの枠に、可能性がなるべく高くなるやつにだけは強引にでも通して、先生ならきっとたどり着けるだろう……できるって信じてて……」
推薦。
その言葉に――自分はやはり狙って連れてこられたのだともわかる。そして、自分よりもひどい状況があふれていたのだろう事も。だからこそ、クソゲというものにあの数しか残っていないかったのかもしれない、と。啓一郎のように『あちらが整えたらしい状況』でさえ、そうできなかっただけということもありうるけれど。
どちらにせよ、わかったところでなんだという話だったが。
体を見回す。変わった所はない――いや。
(内に鬼は依然として、いる。体は――特に変わったとは感じないが――なぜ服だけ……これは元の世界の服か? 見覚えがある。確かに俺の……だとは思うが。ダンジョン製のものを取り上げた?)
スキル等も当たり前のように使えない。
(ダンジョン限定の代物だった? いや、よく考えればスキルうんぬんは使ってなかったな、最後の方)
鬼の力のほうが断然強かったというのもあるが――もしかしたら、その時点で使えないことを察していたのかもしれないと思った。
その時点でいえばアイテムボックス的なものだけは残っていたことは確かであるが。
(まぁ、いい。さして魅力を感じていたわけでもないしな。戻るのであればアイテムボックスやアイテムはあったほうがいいんだろうが……)
ふと、その白い空間に人が見えた。
どうやらそれは、こちらに手を振っているようだった。
しっかり視界にとらえれば、啓一郎に見覚えのある人物。
「……そうか」
憤りはしなかった。
驚愕も少なかった。
どこかでわかっていたかもしれない。
近かったからだろうか、と啓一郎は思う。
思えば最初からそうだったのだ。
思い出せばどうしてか、尊重しなければ、というような思いが湧いていたのだと。小さな友人であり、子供のように思っているような存在の近くにあるにはあまりに年の離れた存在に対して、警戒心があまりに薄かった。
ありえただろうか。そんなことが。
失い続けた時代の啓一郎からして。束の間、という言い訳をしていても情は誤魔化せないくらいに移っていたのに。
縋りつく存在等とか、天秤のように救世主がどうこうとは考えていなかったとはいえ。
啓一郎はそれを、年下で子供で、更にどこか年齢に対しても幼い様子である人間に対する庇護のような心だと思っていたが――
「おめでとう、先生さん!」
ただ、『少年』と、よく呼び掛けていた存在。
自らの教え子であり、年の離れた友人のような子供のようなそういう風に思っていた存在を通して知り合い、少々話したり遊んだりもしていた少年。いる時はいつも楽しそうだった。何か啓一郎等の知っている人間に悪戯されてもほとんど怒ったりすることもなく、もし怒りはしてもそれは極々小さなものでしかないような、そういうゆるやかな、悪く言えば少し間の抜けてぼんやりとしたような印象を抱く少年だった。
そんな少年が、目の前にいる。
「クリアできて本当に良かった! 家族にも会えて喜んでもらえて良かった!」
その顔はいつも通りだ。知ったままの表情だった。
つまり、悪意の欠片もない。笑顔。
何か悪い事をしたのだ等とは考えていない顔。
祝福の顔。
いい事があってよかったね――というような。それこそ共に進めているゲームをクリアしたことを祝福する程度の――
(いや、いつも以上に祝ってくれているな、これは)
それでも。
それでも、そこには常人なら違和感が湧くだろう。
何せ、クリアして訪れた先にいるのだ。
啓一郎でなくとも、怪しむだろう。
あぁ、こいつが黒幕で、自分たちをさらってきたのか、だとか。
そう思われて不思議ではない。実際そうだという確信は啓一郎にはあるが、そういうことではない。
もし罪悪感等あれば、このような登場の仕方をしないのだ。
相手は悪く思ってないし、相手にも自分がしたことを悪く思われることなんてない。
そういう考えの元でなければ、でてきて本心から祝いはしないだろう。そうできはしないのだ。
「喜んでもらえるかと選んでつくった掲示板でも、なんかちょっとキャラ違ったように見えたりしたけど楽しそうに見えたし――」
(いっそ、待ってましたとばかりに反応を見るために、煽るために出てくるような――そういうものであったなら)
簡単に、恨むことも憎むことも怒る事さえできただろうに、と。
現実、今の啓一郎の心にはそれらはあっても小さいものでしかない。余韻が残っている、ということは大きく影響しているがそれよりも――哀れさ、のようなものがあった。
知り合ったものについては、どうしても甘くなるという面があることもあって、哀れにしか思えなかったのだ。
どこかずれている存在だとは思っていた。
それが、誰かと接することで少しも矯正されなかったというだろうことが、悲しくもある。
「……というか、なんでツールとして選んだのが掲示板だったんだい?」
「……? あぁ、あれ? だって君たちから教わったものじゃないか。あったら面白いかなぁって。盛り上がるんでしょ、そういうの。直接連絡はダメって言われたけど、あれくらいならいいかなって思ってお……僕がつけたんだ」
(お……? 俺? 僕に言いなおさなくとも、別に俺でいいと思うが……あぁいや、変に素直な奴だったからな、キャラ付、みたいなやつもジョークで教えた気がするし……それか?)
「あぁ……軽いネットリテラシー的なものと一緒に教えた気がするな、確かに。ゲーム教えたついでに」
「そうそう。参加はほとんどしなかったけど、割と楽しかったから。いいかなぁって」
なんでもない口調で話しかける啓一郎に、少年は戸惑うようなことはなかった。それが当然だ、というか。そうすることに不自然はないのだ、という調子で普通に会話する。
ずれたままの証明だった。啓一郎が抱いた印象の通りのようだった。
これまでの過程は、ちっとも自分たちの関係には影響しないと思っているのだ――いや、影響するなんてことを考えてもいないのだろう。
そして、確認するまでもなかったが、これで確定した。
少なくとも、ただいるわけではない。攫う、にも、作るなり用意するにも、関わっている。他がいるのも天秤時点で分かっていたが、確定だろう。
溜息をつきたくなる。
「でも実名というか……個人情報漏らせない縛りはここではあまり意味なかったというか……どっちかというと、嫌がらせみたいになってたようだが」
「なんで!?」
こんな状況で掲示板、というのは助かった部分は大きいが煽りか何かと思っていたが――実装した人物がずれているからだったのか、と啓一郎は納得した。
あれやこれやの、意味を感じないような規制だったりなんたりも。
特に理解しないまま、教えられたように使っていたのだろう。だから、妙だったのだ。
「うーん。ダメだったのかなぁ? もうちょっと考えないとなのかな? 他のが悪乗りみたいにもっとSNSっぽいのいれよーみたいなのいってたの止めたりしたんだけど、しない方が良かったのかなぁ……」
異常な状況で、日常を演じる。
ここまでのずれがあるとは、さすがに啓一郎も想像の外。
曰くの完成体とは、ここまで外れたものなのだろうか――と改めてこの状態で考えて、背筋に嫌な汗をかく。
「……なぁ、少年」
「なんだい先生」
「俺を、帰してくれないか。元の場所に」
そういうと、笑いの表情が落ちる。
無表情になったという訳ではない、そこにあるのは――困惑だ。どうしてそんなことを言うのか理解できない、というのが隠すこともなく前面に押し出されている表情だった。
そして、少し慌ててすらいる。
「な、なんで……?」
「何でも何も、そうしたいからだよ。できるんだろう?」
「できるかできないかっていったら、それはできるよもちろん……でも……」
力関係は、鬼の力を得ている今なら啓一郎が一応人間という枠に収まったような矛盾した状態で弱体化しているようなものであっても、大きくは差はないだろうと啓一郎は考えている。
少なくとも、ダメージが通らないようなことはない確信があった。ちゃんと、殺せる存在として啓一郎は見ることができてる、と。
だから、力の差は関係なかった。差があるからではない。
関係なく、まるで子供に教えるような口調で啓一郎は喋っている。
怒らせないようにしているわけでもなければ、下手に出ているわけでもなかった。
「会えてよかった。ちゃんと推薦が機能して本当に良かったと思ってたんだ……あっちにするつもりはなかったけど、どうしようもなくて……それでもちゃんと条件と準備があるタイプの枠に、可能性がなるべく高くなるやつにだけは強引にでも通して、先生ならきっとたどり着けるだろう……できるって信じてて……」
推薦。
その言葉に――自分はやはり狙って連れてこられたのだともわかる。そして、自分よりもひどい状況があふれていたのだろう事も。だからこそ、クソゲというものにあの数しか残っていないかったのかもしれない、と。啓一郎のように『あちらが整えたらしい状況』でさえ、そうできなかっただけということもありうるけれど。
どちらにせよ、わかったところでなんだという話だったが。
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