私を虐げた人には絶望を ~貧乏令嬢は悪魔と呼ばれる侯爵様と契約結婚する~

香木陽灯

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お仕事適性

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「ふっ……変わった人間だな。悪魔を前にして驚きもしないとは」
「ね、カレンなら大丈夫そうでしょ? 僕の目に狂いはないんだから」
 
 クラウス様は私のことを支えた状態のまま、面白そうにしている。
 放してほしい気持ちもあったが、それ以上に気になる単語が聞こえた気がした。

「悪魔……? 魔法使いではなく? 本当に突拍子のない夢ね……」

 思わずポツリと漏れた言葉にクラウス様が首を傾げた。

「魔法使い? 夢? ……おいティル、騙して連れてきたのか?」

 クラウス様の言葉にティルがハッとした。
 
「あー! カレンってば、まだ夢だと思ってるの? いい加減気づきなよ。これ、現実!」
「げ、現実? これが?」

(現実なの? 喋る猫の使い魔と瞬間移動と悪魔が? 確かに感覚はリアルだけど……)
 
 感覚がいやにリアルなこと、いつまで経っても目が覚めないこと、確かに夢ではないのかもしれない。
 試しに自分の頬をつねってみた。

「……痛っ! 本当に痛い……現実かも」

 私の行動にティルが少し呆れていた。

「やっと気づいたの? 遅いよー。ここは魔界なんだよ? 移動したときに気づいたと思ってたよ」
「ええっと、申し訳ありません。あまりに現実離れしたことばかり起きたので……」

 ティルに責められて、思わず謝罪の言葉を口にする。

(って、なんで私が謝ってるのかしら? こんなの勘違いして当然じゃない?!)

「それにさ、クラウス様は悪魔だって言ったじゃん。……あれ、言ってないっけ?」
「聞いてませんよ! てっきり魔法使いなのかと」
「魔法なんてあるわけ無いじゃん!」
「夢ならあるかもしれないでしょう?」

 クラウス様は、私とティルのやりとりをしばらく黙って聞いていた。
 そしてため息をつくと、私をそっと放して口を開いた。

「ティルが暴走してここまで連れてこられたのだな。仕方ない……面倒だが元の場所に帰してやる。お前が望むなら今回の記憶も消しておく」

 クラウス様が口にしたのは思わぬ内容だった。
 だけど今帰されるのはごめんだ。

(現実なのでしょう? なら仕事の話も夢じゃないってことだわ。こんなチャンス、逃したくない!)

 悪魔とか魔界とかよく分からないけれど、住み込みで働ける仕事なんて滅多にない。その事実は、この数週間で身にしみていた。
 だからこそ、絶対にここで働きたかった。

「ちょっと待ってください! 確かにティルは暴走気味でしたけど、ここへは私が来たくて来たのです」
「どういうことだ?」

 私の答えが意外だったのか、クラウス様は怪訝な顔をした。

「どうしても住み込みで働きたいのです。ティルは私のそんな事情を知って、働かないかと声を掛けてくださったのです。どうか、雇ってくださいませんか?」
「……俺に雇われることがどういう意味か分かっているのか? 悪魔と契約することになる」

 クラウス様の表情は険しかったけれど、その言葉に冷たさは感じなかった。

(悪魔と契約……すごく怖い響き。でも、これは単なる勘だけど、クラウス様は大丈夫な気がする。本当に私を陥れる気なら、私を帰そうとしないはず)

「構いません。悪魔だろうが天使だろうが、関係ありません。ここで働きたいのです。ティルも私には適性があるって言っていました。是非やらせてください」

 私が頭を下げると、ティルが援護するように口を開いた。

「カレンなら大丈夫だって! この屋敷に入ってもこんなに元気だし、クラウス様とも普通に話してるんだから」

 ティルの発言にクラウス様はしばらく考え込んでいた。

「……お前、身体に異変はないのか?」
「え? はい、特には」
「普通の人間ならば、魔界の空気に長時間耐えられない。ましてこの屋敷の中は、魔力が充満している。人間は数分で意識を失うはずだ」
「そうなのですか? 私は大丈夫ですけれど……」
「お前は実に不思議だが……波長が悪魔に近い、いや俺に近いようだ。だから耐えられるのだろう」

 詳しくは分からないけれど、私は魔界にいても大丈夫ってことらしい。

(これがティルの言っていた適性なの?)

 水晶が反応しただの、波長がどうのと言っていたのは、この事だったのだ。
 
「ねえークラウス様、せっかく僕たちにピッタリな人を連れてきたんだよ? 雇っちゃおうよ」
「お願いします! 私に出来る事はなんでもしますから!」 

 ここまできたら頼み込むしかない。ティルのおねだりに紛れるようにして、必死にお願いをした。
 クラウス様は私の目をじっと見つめていたが、やがて何かを決意したようたった。

「魔界に耐性のある人間の娘か、面白い。カレン、お前が望むのなら雇ってやろう。条件付きでな」
「本当ですか?! ありがとうございます!」

(やったー! ようやく職を手に入れたわ!)

 内心大喜びで、思わず顔がにやけてしまいそうだ。

「やったね、カレン! これから一緒に頑張ろうね」
「ありがとうございます、ティル」

 ティルがぴょんぴょん飛び跳ねながら、私の手にハイタッチをした。
 私も嬉しくて、ティルと手を叩きあった。

 喜びを分かち合っていると、クラウス様の呆れた声が聞こえてきた。

「カレン、まだ話は終わっていない。雇うには条件が二つある」
「えっ……なんでしょう」

(条件……なんだろう? さっきなんでもしますって言っちゃったのに、難しい事だったらどうしよう)

 一抹の不安を抱えながら、私はクラウス様の方を見た。
 クラウス様は私を試すような目つき見ながらこう言った。

「一つは、俺と婚姻を結ぶことだ」
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