私を虐げた人には絶望を ~貧乏令嬢は悪魔と呼ばれる侯爵様と契約結婚する~

香木陽灯

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呆れた手紙

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「父からの手紙……」
「俺宛に届いた手紙の中に入っていた。読みたくなければ捨てておく」

 父からの手紙なんてロクなものじゃない。
 捨てておいてもらおうか……そう思ったが、父のある言葉を思い出した。

『俺はまだこいつの結婚を認めたわけじゃない。いくら成人したって、親の承認がなければ無効にできるんだぞ!』

 この国では、結婚に対する肉親の力が強い。成人しても結婚には承認が必要だった。

(もし結婚を無効にしようと、司法の力を借りていたらどうしよう。いくらクラウスだって法律には従う必要があるだろうし……)

 ただでさえ忙しいクラウスを、さらに煩わせてしまう。
 そんな内容の手紙ならば、無視するわけにはいかなかった。

「一応読みます」

 クラウスから手紙を受け取って、封筒を眺めてみる。
 宛名には「カレン・リドリー宛」と書かれている。姓をモルザンと書かないあたり、結婚を認めないという意思表示に思えた。

(開けたくない……でも、ちゃんと読まないと)

 手紙に気を取られていると、不思議そうなクラウスの声が聞こえてきた。

「ん? 何かあるのか?」 
「え?」

 不思議そうなクラウスの目線の先を追うと、私の手が彼の服の裾を掴んでいた。

(私、何やってるの?!)

 慌てて手をパッと離す。

「ごめんなさい、何でもないです。お忙しいところ引き止めてすみません」
「いや、構わないが」

 この時、私は本当にどうかしていた。

「……あのっ、やっぱり私が読み終わるまで、ここにいてくださいませんか?」

 こんなことを口走ってしまったのだから。

(本当に私は何言っているのかしら?!)

 ダンス練習で疲れているからかもしれない。さっきから余計な事ばかりしてしまう。

 クラウスは返事をしなかったが、その場に留まってくれている。
 私を見つめている瞳は、温かい金色の光を宿していた。

(待っていてくれるんだ……)

 あまり長い間待たせてはいけない。急いで封を開けて、チラリと手紙を見る。

 そして唖然とした。

「……ごめんなさいやっぱり大丈夫です。何も書いてませんでしたので。お時間いただきありがとうございました。失礼します」

 口早にまくし立てて、クラウスの背中をグイっと押した。
 クラウスは私の様子に何かを勘づいたようだ。笑いを含んだ声でこう言った。

「折角だから口に出して読んでみろ」
「うっ……。あの……はい」

 私が引き止めた以上、断れる訳がなかった。
 諦めて手紙を見る。そして、一度深呼吸をしてから読み始めた。



――――――――――

 あれからなんの連絡も寄越さないとは何様のつもりだ!
 お前の結婚に目をつぶってやろうとしているのに、失礼だとは思わないのか?
 お前から侯爵に金を払うよう伝えておけ。
 金貨500枚と土地100坪で妥協してやる。

 もし我が家のことを公表したら、タダじゃおかないからな!
 お前がどれほど無能か侯爵にバラしてやる!!

――――――――――



「……以上です」
 
 読んでいる間、父のあまりの幼稚さに顔から火が出そうだった。
 司法手続きの話だと思っていたのに、とんだ早とちりだ。単なる暴言のオンパレード。読むだけ無駄だった。
 直接言われると、怒りの迫力もあって多少の脅しになる内容なのかもしれない。けれど、文面にするにはあまりに……稚拙だった。

「……」
「……」
「すみません、忘れてください。私はてっきり結婚を無効にする手続きでもしたのかと思って……」

 沈黙に耐え切れず、バッと頭を下げて懇願した。もう聞かなかったことにしてほしい。

「……ふっ」

 クラウスは笑いが抑えきれないといった様子で、しばらくの間、肩を揺らしていた。

「相変わらず愉快な家族だな。本当にお前とは性格が正反対だ」
「……本当に申し訳ありません。貴重なお時間を無駄にさせてしまいました」
「謝ることはない。実に面白い時間だった。この手紙は俺が預かってもいいか?」
「はい、煮るなり焼くなり好きにしてくださいっ……」

 私はクラウスに手紙を押し付けて、自室まで早足で戻った。



(恥ずかしい……あんなのが親だなんて。もう親の醜態は晒してしまっているけど、あんな手紙の内容を聞かせるなんて嫌すぎるわ!)

「私、なんで引き止めちゃったんだろう。はぁ……」

 あの時、何となく名残惜しかったのだ。
 忙しそうにしているクラウスとは、食事の時にしか顔を合わせない。その時ですらティルと仕事の話をしているので、あまり話すことはなかった。
 ティルとはダンスの練習で一緒に過ごせるけれど、この二週間、クラウスとはまともな会話をしていなかった。

(え? 私、寂しかったってこと? まさかね……)

 よく分からない自分の感情は、一旦置いておこう。
 披露宴まであと二週間。ダンスの課題はまだまだ山積みなのだから。
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