私を虐げた人には絶望を ~貧乏令嬢は悪魔と呼ばれる侯爵様と契約結婚する~

香木陽灯

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披露宴までに

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 パーティーの翌日以降、クラウスとティルはこれまで以上に忙しそうだった。

「ティル、昨日渡した書類の用意は出来てるか?」
「バッチリだよ」
「なら送付しておいてくれ」
「はーい。あ、さっき大臣から顔を出せって連絡が来てたよ」
「またか……後で連絡すると伝えておけ」
「オッケー」

 披露宴が一ヶ月後に迫っている。その準備だと言っていたけれど、それにしても慌ただしい。
 食事の時も、いつも何かの打ち合わせをしながら食べていた。

「カレン、披露宴用の衣装を用意しといてくれ。今回は俺の分も頼む」
「え? あ、はい。分かりました」
「あとで僕がカタログ渡すからねー」
「はい、ありがとうございます」

 珍しく言い渡された仕事に、少し嬉しくなる。少しくらいは信頼されたのかもしれない。

 (でもすぐ終わりそうね。選んだら、お屋敷さんに用意してもらうんだから)

 もう少し役に立ちたい。断られるだろうけど、一応聞いてみよう。 

「あの、その他に私にやれる事ってありますか? 私はまだ時間に余裕があるので、やれることがあれば仰ってください」
「そうだな……」

 思案しているクラウスの横から、ティルが元気よく身を乗り出した。

「そうだ! カレンってダンスは踊れる? ワルツだけで良いんだけど」
「え? ダンスは……学校へは通えてなかったので、全然。というか実技系は全く……」

 なぜ急にダンスの話が出るのだろうか。嫌な予感がする……。

「じゃあ練習しよっか! 僕が指導してあげるー」
「え? ど、どうしてですか?」
「決まってるじゃん。披露宴で踊るからだよ!」
「えぇっ?!」

 嫌な予感は的中。
 ティルがにこにこ顔で提案してきたのは、仕事よりも骨が折れそうな内容だった。

(ダンス……この間のパーティーで踊っている人達を初めて見たけれど、あんなの出来る気がしない)

 皆が打ち合わせもなしに、曲に合わせて優雅に踊っていた光景を思い出す。

(あれをやれと? あと一ヶ月で?)

 無理ですと断ろうとした時、クラウスが口を開いた。

「そんなもの練習する必要はないだろ。俺が操って適当に踊らせてやるから」

 さも当然のように言われた言葉に、なんとも言えない気分になった。
 
「それはちょっと……身体を操られるのは良くないというか……」
「嫌なのか? カレンの善し悪しの判断基準は難しいな」

 私の反応が意外だったのか、クラウスは解せないといった様子だった。

「感覚的な問題っていうか、上手く説明出来ないですけど、あまり気分の良いものではないかと……」

 私とクラウスのやり取りを聞いていたティルが、楽しそうに間に入ってきた。

「ほらー! クラウス様に操られたくないなら、ちゃーんと練習しないとね」
「……分かりました。あと一ヶ月で上達するか分かりませんが、やってみます」
「心配するな。下手だったら操ってやるから」
「い、いえ! 全力で頑張りますっ!」

 練習するか、操られるか、二つに一つならやるしかない。
 私は家事にドレスの選定、そしてダンスの練習が仕事になった。



 翌日からティル指導の下、ダンスの練習が始まった。
 相手役には、クラウスと同じ身長の動くマネキン人形が使われることになった。

「僕だとクラウス様と身長が違い過ぎるから、練習にならないでしょ」

 という理由だった。

「1・2・3・1・2・3……タイミング、ズレてるよー」
「はいっ」
「歩幅を相手に合わせようとし過ぎ。もっと自然に足を運んで」
「はい……」

 ティルの指導は的確だった。
 お手本として見せてもらった女性役も、とても優雅で美しかった。

「なんでティルは踊れるのですか?」
「僕、こう見えてカレンよりずーっと長生きだからね! 色々なスキルがあるわけよ」

 休憩の間、へたり込みながら訪ねると、得意気な顔で答えてくれた。

「長生きって、何歳なんですか?」
「えへへ、ナイショー! でも、クラウス様よりは下だよ」

(そっか、悪魔って人間とは生きている時間が違うんだ。あれ? クラウスって一体何歳なの?)

 可愛らしく笑うティルは、どう見ても私より年下に見える。私より少し年上に見えるクラウスは、実はものすごく年上なのかもしれない。

「はい、休憩終わり―! 練習再開しまーす!」
「はい、お願いしますね。ティル先生」
 
 ティルは本当に指導が上手だった。
 時には雑談しながら、私が無理しすぎないように調節してくれている。
 忙しそうなのに、嫌な顔一つせずに毎日練習に付き合ってくれた。

(ティルの指導を無駄にしないためにも、絶対踊れるようになろう!)



 ティルの丁寧な指導のおかげで、二週間を過ぎる頃にはなんとか形になってきた。
 最初のうちは全身筋肉痛になっていたのに、最近ではだいぶ身体が慣れて痛むことはなくなっていた。
 
(この調子なら披露宴に間に合いそうね。本当に良かったわ……。あ、そうだ、部屋に戻ったらストレッチを忘れないようにしないと)

 練習を終えて自室に戻ろうとした時、向かいからクラウスがやって来た。
 クラウスは私を見つけると、何かを差し出してきた。

「カレン、お前宛の手紙だ」
「え?」

 クラウスが持っていたのは父からの手紙だった。
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