私を虐げた人には絶望を ~貧乏令嬢は悪魔と呼ばれる侯爵様と契約結婚する~

香木陽灯

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披露宴の始まり

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 披露宴当日、私とクラウスは白で統一された衣装に身を包んでいた。
 ダンス練習の合間に選定したもので、割とベーシックなデザインだ。

(ちょっと無難すぎるかもしれないけれど、このデザインなら誰からも文句をつけられないはず)

 本当はクラウスに事前に相談して選びたかったが、それは叶わなかった。

(食事の時以外に会いに行くのが……何となく気まずかったんだもの)

 クラウスの顔を見ると手紙のことや、手を握られたことが頭をよぎってしまう。それで胸がざわついて、相談できなかったのだ。
 気がついたら前日になっていたし、前日も前日で、伺う機会を失っていた。

「クラウス、何の相談もなくこの衣装にしてしまいましたけれど、問題ありませんか?」
「特に問題はない。良いセンスをしている」
「良かった……ありがとうございます」

 目の前の扉を開ければ、披露宴の会場だ。

(今日は波乱の一日になりそうね)

 心を落ち着けようと胸に手を当てて深呼吸をする。

「大丈夫か?」

 クラウスが私の方を向いて目を覗き込んだ。表情からは分からなかったけれど、心配してくれているのだと感じた。

「はい、大丈夫です!」

 元気に返事をしたのだが、クラウスはまだ何か言いたげだ。

「私、何か変ですか?」
「いや……ティルに、人間の女は結婚が一大行事だと聞いた。式もなく、披露宴ですら内容に口を挟めなかったのだから、言いたいことくらいあるだろう。恨み言くらいなら聞くぞ」

 クラウスから出た言葉は思いもよらないものだった。

「え? いえ、特には……私は結婚が出来たという事実だけでありがたいですし、家族のことも色々手を回してくださったので感謝しています」
「そうなのか? てっきり不満でもあるのかと」
「無いですよ! 心配してくださったのですか?」
「今ため息をついていたからな」

 どうやら深呼吸がため息に見えたようだ。
 勘違いさせるようなことをして申し訳ないという気持ちと、クラウスが心配してくれたのが嬉しいという気持ちが混ざって、思わず笑ってしまった。

「ふふっ……違いますよ。ちょっとドキドキしたので深呼吸しただけてす。波乱の一日になりそうだなーって」
「そうか、ならいい」

 正面を向きなおすクラウスは、どこかホッとしたような表情に見えた。

(クラウスって無表情だけれど、よく見るとなんとなく気持ちが分かる気がする……。この顔に見慣れたからかしら?)

 こんな綺麗な顔に見慣れるなんて贅沢な話だ。
 じっと見つめていると、クラウスが目だけでこちらを見た。

「今日、味わってみるか?」
「あ……エネルギーの話ですか? 出来るなら味わってみたいですけど、あの靄を直接吸うのはちょっと考えものというか、微妙な感じですね」
「そうなのか? なるほど」

 クラウスが何かを思案していた時、会場内から入場のアナウンスが聞こえてきた。
 
「そろそろ行こう」
「はい」

 クラウスが腕を差し出してきた。私はその腕に自分の手を絡ませる。
 もう入場の時間だ。

「お前の人生を狂わせていた邪魔者を排除してやる。楽しみにしておけ」

 クラウスの声は本当に楽しそうだった。

「クラウスは悪魔というより救世主みたいですね」
「そう見えるか?」
「はい。私を救ってくださったので」

 今度は私がクラウスの目を覗きこんだ。クラウスの瞳はいつものように綺麗な金色だった。

「……そうか。悪くないな」

 そう呟いたクラウスは、さらに楽しそうだった。

「では、お前を虐げていた者たちに絶望を」

 クラウスが呟いたと同時に、会場の扉が開かれた。



「クラウス・モルザン様とカレン夫人のご入場です」

 クラウスと二人で会場に入ると、たくさんの人が祝福してくれた。

「おめでとうございます!」
「まあ、美しい……」
「クラウス様もカレン様も素敵ね」
「素晴らしい披露宴だ!」

 参列者に軽く挨拶しながら、最奥の席に座る。
 会場を見渡してみると、前回のパーティーに出席していた人がほとんどだった。
 ティルも近くの席に座っており、私と目が合うとウインクしてくれた。
 さすがに国王は参加していたなかったが、王家の紋章を胸に付けた紳士が来ている。おそらく代理の使者だろう。

(これは……さすが侯爵家といった感じね。……あれっ? やっぱり来ていない)

 あの人達の姿はどこにもなかった。
 招待状は送らないと言っていたからいないのが当たり前なのだが、このままではクラウス達の食事がなくなってしまう。

「あの、クラウス……」

 クラウスにこっそり確認しようと声を掛けた瞬間、会場の外から何やら大きな声が聞こえてきた。
 声が聞こえてきた来客用の扉に目を向けると、そこが乱暴に開かれたところだった。

「どこまで俺を侮辱すれば気が済むんだ! いい加減にしろ!」

 そこには大声を出している父がいた。
 そしてその後ろには、怒りの表情を浮かべている母と姉もいた。
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