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2.辺境での暮らし
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クリーニア辺境区リタシュ村は王都から馬車で五日間かかる場所にあった。
山々に囲まれ自然豊かな地だ。
(以前はギャンブルが流行っていた地なのよね。…お父様がお義母様と会ったのは、カジノだったらしいし。今は禁止されてしまって、鉱山産業がメインらしいけど)
安い貸し馬車を降りると、カタリーナは地図で指し示された家へと向かった。
「ここね。……これは、ずいぶんと古い屋敷ね」
辺境の外れにぽつんと建っていたその家は、まるで納屋のような小さな建物だった。
長い間、放置されていたせいで屋敷の周辺を草木が覆っている。
「でも井戸もあるし、雨風しのげる屋根もある。よく見ると畑っぽいところもある。結構敷地が広いじゃない」
背丈ほどの草木をかき分けて屋敷に入ると、意外と中は荒れていなかった。
「うーん、掃除すれば住めそうね」
最近は伯爵家の屋根裏部屋に押し込まれていたカタリーナにとっては、こちらの方が広くて住みやすそうだった。
「よっしゃ、やりましょうか!」
カタリーナは細い腕をまくると、家の掃除を始めた。
一人で暮らし始めて一週間。
ようやく人の住める家らしくなってきた。
小さな家はピカピカに磨き上げられ、小さなテーブルとイス、ベッドが置かれている。
村の人々から譲り受けた物ばかりだ。
『突然すみません。何かお困りのことがあればお手伝いさせてくれませんか? その代わり、草刈り鎌をお借りしたいのですが……』
カタリーナは村の一軒一軒を回り、必要な物を借りていった。
最初は訝しがっていた住民たちも、カタリーナが地道に家の整備をしているのだと気づくと、協力してくれた。
『あそこのボロ屋に住むのかい? 荒れ果てていて、困っていたんだよ。何でも必要な道具は言っておくれ』
『あれ、家だったのかい? 中には何にも家具がないだろう。これを持っていきな。無いよりマシさ』
カタリーナは彼らの好意に感謝した。
外れにある荒れ地が整備されるのは村にとっても喜ばしいことだった。
放っておくと、山から飢えた魔獣が下りてきてしまう要因になってしまうのだから。
『日が暮れたら、絶対に外に出るんじゃないよ』
『家が整うまでは、宿を使ったって良いからね』
『はい、ありがとうございます!』
そうして気がつくと、近隣住民と仲が深まっていたのだった。
毎日誰かの家の手伝いをして、食料などを少し分けてもらう。
それがカタリーナの日課になっていった。
―――
「よし、とりあえず朝食を食べようかな」
ぐっすり眠ったカタリーナは伸びをすると、庭へと向かった。
庭には小さな畑があり、野菜たちが青々と育っている。
雑草に混じって芋やハーブなどが生き残っていたのだ。カタリーナはそれらを植え直し、手入れをしていた。
(結構高価なハーブが雑草に混じっていて驚いたもの)
ここで暮らすにあたって食料が一番の課題だったが、この野菜たちがカタリーナを救ってくれたのだ。
「この辺はもう食べられるかなー」
適当に野菜を収穫すると、井戸水で軽く洗って部屋へと戻る。
簡単なスープを作ると、家中に美味しそうな香りが広がった。
「いただきまーす」
お隣からもらったパンとともに食べると、じんわりとお腹が満たされていく。
(これでお肉があればなぁ……)
けれど贅沢は言えない。冷えきった食べ残ししかなかった頃よりずっといい。
お腹いっぱい食べられるだけでも至福なのだから。
ガリガリだった身体にも少しだけ筋肉がついていた。
「よしっ! 今日は洗濯もして、後でお向かいの家にお手伝いにでも行こう」
そうしてカタリーナは仕事を始めたのだった。
村での手伝いを終えて帰ってきた頃にはすっかり日が暮れていた。
夕食分の野菜を収穫しようと畑に向かう。
(あら……なにかいる? 人?)
カタリーナは足を止めた。
井戸のそばに人影があったのだ。
片足を引きずっているその人影は井戸を覗き込んでいた。
「その井戸水、そのまま飲まない方が良いわ」
思わずカタリーナが声をかけると、人影がゆっくりとこちらを向いた。
山々に囲まれ自然豊かな地だ。
(以前はギャンブルが流行っていた地なのよね。…お父様がお義母様と会ったのは、カジノだったらしいし。今は禁止されてしまって、鉱山産業がメインらしいけど)
安い貸し馬車を降りると、カタリーナは地図で指し示された家へと向かった。
「ここね。……これは、ずいぶんと古い屋敷ね」
辺境の外れにぽつんと建っていたその家は、まるで納屋のような小さな建物だった。
長い間、放置されていたせいで屋敷の周辺を草木が覆っている。
「でも井戸もあるし、雨風しのげる屋根もある。よく見ると畑っぽいところもある。結構敷地が広いじゃない」
背丈ほどの草木をかき分けて屋敷に入ると、意外と中は荒れていなかった。
「うーん、掃除すれば住めそうね」
最近は伯爵家の屋根裏部屋に押し込まれていたカタリーナにとっては、こちらの方が広くて住みやすそうだった。
「よっしゃ、やりましょうか!」
カタリーナは細い腕をまくると、家の掃除を始めた。
一人で暮らし始めて一週間。
ようやく人の住める家らしくなってきた。
小さな家はピカピカに磨き上げられ、小さなテーブルとイス、ベッドが置かれている。
村の人々から譲り受けた物ばかりだ。
『突然すみません。何かお困りのことがあればお手伝いさせてくれませんか? その代わり、草刈り鎌をお借りしたいのですが……』
カタリーナは村の一軒一軒を回り、必要な物を借りていった。
最初は訝しがっていた住民たちも、カタリーナが地道に家の整備をしているのだと気づくと、協力してくれた。
『あそこのボロ屋に住むのかい? 荒れ果てていて、困っていたんだよ。何でも必要な道具は言っておくれ』
『あれ、家だったのかい? 中には何にも家具がないだろう。これを持っていきな。無いよりマシさ』
カタリーナは彼らの好意に感謝した。
外れにある荒れ地が整備されるのは村にとっても喜ばしいことだった。
放っておくと、山から飢えた魔獣が下りてきてしまう要因になってしまうのだから。
『日が暮れたら、絶対に外に出るんじゃないよ』
『家が整うまでは、宿を使ったって良いからね』
『はい、ありがとうございます!』
そうして気がつくと、近隣住民と仲が深まっていたのだった。
毎日誰かの家の手伝いをして、食料などを少し分けてもらう。
それがカタリーナの日課になっていった。
―――
「よし、とりあえず朝食を食べようかな」
ぐっすり眠ったカタリーナは伸びをすると、庭へと向かった。
庭には小さな畑があり、野菜たちが青々と育っている。
雑草に混じって芋やハーブなどが生き残っていたのだ。カタリーナはそれらを植え直し、手入れをしていた。
(結構高価なハーブが雑草に混じっていて驚いたもの)
ここで暮らすにあたって食料が一番の課題だったが、この野菜たちがカタリーナを救ってくれたのだ。
「この辺はもう食べられるかなー」
適当に野菜を収穫すると、井戸水で軽く洗って部屋へと戻る。
簡単なスープを作ると、家中に美味しそうな香りが広がった。
「いただきまーす」
お隣からもらったパンとともに食べると、じんわりとお腹が満たされていく。
(これでお肉があればなぁ……)
けれど贅沢は言えない。冷えきった食べ残ししかなかった頃よりずっといい。
お腹いっぱい食べられるだけでも至福なのだから。
ガリガリだった身体にも少しだけ筋肉がついていた。
「よしっ! 今日は洗濯もして、後でお向かいの家にお手伝いにでも行こう」
そうしてカタリーナは仕事を始めたのだった。
村での手伝いを終えて帰ってきた頃にはすっかり日が暮れていた。
夕食分の野菜を収穫しようと畑に向かう。
(あら……なにかいる? 人?)
カタリーナは足を止めた。
井戸のそばに人影があったのだ。
片足を引きずっているその人影は井戸を覗き込んでいた。
「その井戸水、そのまま飲まない方が良いわ」
思わずカタリーナが声をかけると、人影がゆっくりとこちらを向いた。
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