辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯

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1.捨てられた令嬢

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「一体何度メアリーを泣かせる気だ。そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」

 クルーゲ伯爵家に怒号が響く。
 怒鳴られたカタリーナは父である伯爵をじっと見つめながら、びしょ濡れの髪の毛をかき分けたて立ち上がる。
 痩せ細った手には亡き母の唯一の形見が握られていた。

 メアリーに無理やり奪い取られ、床に転がった真珠のブレスレット。それを拾おうとしたカタリーナの頭から、真っ赤なワインが容赦なく降り注いだのだ。

「誤解です。メアリーがお母様の形見のブレスレットを取ろうとするから、止めただけです。そうしたら私に向かってワインを……」
「お父様ぁ、お母様ぁ。お姉様が意地悪したんです。あんまり怖い顔で怒鳴るから、思わずワインを放してしまったんです。ごめんなさいっ……!」

 しくしくと泣きながら伯爵に抱きつくのは、義妹のメアリー。
 三年前に再婚した伯爵が夫人とともに、どこからか連れてきたのだ。


 ―――


『今日からお前の母親と妹だ』
『わぁ……! カタリーナです。よろしくお願いします』

 幼い頃に母を亡くしたカタリーナにとって、家族が増えるのは嬉しいことだった。
 だからカタリーナは喜んで二人を受け入れた。

 けれど、幸せは長くは続かなかった。

『この家にあるのは、お姉様のドレスばかり! 私は今まで一着も持っていなかったのに』
『私も欲しい! お姉様と同じ物……ううん、お姉様のが欲しいのよ』

 そう言ってメアリーはことあるごとにカタリーナの物を奪っていった。

 その上、伯爵夫人である義母はメアリーをたしなめるどころか、常にメアリーの肩をもった。

『あぁ、可哀想なメアリー……。今まで苦労させた分、幸せにおなりなさい。カタリーナ、あなたも姉ならば分かるわよね?』
『カタリーナ、もっと妹には優しくしなさい! アクセサリーくらい貸してあげなさいよ』

 父である伯爵は、伯爵夫人に夢中なようで、徐々にカタリーナへの興味を失っていた。

『カタリーナ、親の言うことは聞くものだ』
『メアリーを虐げたそうだな。何が気に食わないのか知らないが、貴族らしくあれ』

 そうしてカタリーナは一つずつ、奪われていったのだ。
 気がつけば、クルーゲ家にカタリーナの居場所はなくなっていた。
 その上、食事すらまともに与えられなくなっていった。


 もう成人を迎えるというのに、カタリーナは社交界デビューすることもなく、ガリガリの身体で使用人同然の生活を強いられていた。


 ―――

(私を追い出したら、幸せな家族の完成だものね)

 カタリーナは頭を下げながらため息をついた。これ以上反論したって無駄だとよく分かっていた。

「これ以上家庭の和を乱すなら、出ていくんだ」

 伯爵が再びカタリーナに告げる。
 すると伯爵夫人が「そうだわ」と手を叩いた。

「クリーニア辺境区に私たちが以前住んでいた家があるじゃない? あそこで暮らしたら良いと思うの。カタリーナは少し一人で落ち着く必要があるでしょう?」

 名案だと言わんばかりに口角を上げる夫人。
 それを聞いてメアリーも目を輝かせた。

「お母様、名案ですわ! あそこはとーっても静かで、過ごしやすい所ですし、お姉様にピッタリ!」

 メアリーの含みのある言い方を気にもせず、伯爵は頷いた。

「うむ……そうだな。カタリーナ、お前はこの家を出るんだ。そして別邸の管理を命じよう」

 カタリーナは表情を変えず、一礼をした。

「お父様が命じるなら、そのようにいたします」

 そうしてカタリーナは辺境の地で一人暮らしをすることになったのだ。

(あの人たちと離れて暮らせる? それって最高じゃない! 自由万歳!)
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