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7.二人で
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キッチンからパチパチと脂のはぜる小気味よい音と食欲をそそる香ばしい匂いが漂い始める。
カタリーナは鼻歌を交じりに、手際よくフライパンを振っていた。
ギルが獲ってきてくれた野鳥の肉は、彼女の庭で採れた野生のローズマリーとタイム、それに塩で丁寧に味付けされている。
(お肉なんて本当に久しぶり。前に食べたのは……やめよ、思い出したくもないわ。腐りかけた肉のことなんてね)
いつも誰かの食べ残しや腐りかけを食べていた。
けれど今、目の前にあるのは、自分のために用意された贅沢な食材だ。
「よし、完璧! ギルー、準備ができたわよ!」
声をかけると、ちょうど外の作業を終えたギルが戻ってきた。
上着を羽織り直した彼は、部屋に満ちた香りにわずかに鼻を動かし、少し驚いたような顔をした。
「……いい匂いだな」
「でしょ? 私の特製香草焼きよ。さあ、冷めないうちに座って!」
テーブルの上にはこんがりと黄金色に焼き上がった鳥肉と、村の人からもらったチーズ、それに野菜スープが並んでいる。
昨夜決めた「はんぶんこ」のルール通り、二つの皿には均等に料理が分けられていた。
「いただきます!」
カタリーナは待ちきれない様子で肉を一口、口に運んだ。
噛みしめた瞬間、溢れ出す肉汁とハーブの爽やかな香りが口いっぱいに広がる。
「……っ! 美味しい……!!」
あまりの美味しさに、カタリーナは思わず目尻を下げた。ただ「美味しい」というだけではない。誰かに大切にされた証を食べているような、そんな充足感が胸をいっぱいに満たしていく。
ギルも一口食べると、目を見開いてカタリーナを見た。
「……旨いな。野生の鳥肉特有の臭みが全くない。ハーブの使い方が上手いんだな」
「えへへ、褒めても何も出ないわよ。でも、そう言ってもらえると嬉しいわ。庭のあの子たちが役に立って良かった」
食後の冷えた井戸水を飲み干したところで、カタリーナは少しだけ緊張しながら口を開いた。
「ねえ、ギル。提案があるんだけど」
「なんだ」
「……あなたの脚、まだ完治してないでしょう?」
ギルは黙って自分の右脚を視線で追った。傷口は塞がりつつあるが、骨や筋肉の深い部分の痛みはまだ残っているようだった。
「だから……その脚が、完全に元通りになるまで。ここで暮らさない? 怪我人が無理をして森を彷徨って、また倒れられたら困るもの」
カタリーナの言葉に、ギルは金色の瞳を揺らした。
彼は何かを思案するように目を閉じた。
「……俺がいると、食い扶持も増える。お前の生活を圧迫するだけだ」
「何言ってるのよ。今日の柵だって、あなたが直してくれなかったら今頃野うさぎに畑を全滅させられてたわ。それに、お肉だって獲ってきてくれるじゃない? むしろ私の方が助かったのに。それに……」
カタリーナは身を乗り出して、ギルの瞳を真っ直ぐに見つめた。
「私はね、誰かと一緒にご飯を食べるのが、こんなに幸せなことだって知らなかったの。だから、恩返しとかじゃなくて、私があなたにいてほしいの」
カトリーナの率直な言葉にギルは目を見開いた。
彼は再び長い間黙っていたが、ふいに小さくため息をついた。
それは諦めではなく、穏やかなため息だった。
「……分かった。脚が治るまで世話になる。その代わり、力仕事と狩りは俺が請け負う。それでいいか?」
「ええ! 決まりね。よろしく、ギル!」
カタリーナは満面の笑みで、彼の大きな手を両手で包み込んだ。
ギルの手は硬いタコがあり、ゴツゴツとしていて温かかった。彼もまた、戸惑いながらもカタリーナの手を優しく握り返した。
カタリーナは鼻歌を交じりに、手際よくフライパンを振っていた。
ギルが獲ってきてくれた野鳥の肉は、彼女の庭で採れた野生のローズマリーとタイム、それに塩で丁寧に味付けされている。
(お肉なんて本当に久しぶり。前に食べたのは……やめよ、思い出したくもないわ。腐りかけた肉のことなんてね)
いつも誰かの食べ残しや腐りかけを食べていた。
けれど今、目の前にあるのは、自分のために用意された贅沢な食材だ。
「よし、完璧! ギルー、準備ができたわよ!」
声をかけると、ちょうど外の作業を終えたギルが戻ってきた。
上着を羽織り直した彼は、部屋に満ちた香りにわずかに鼻を動かし、少し驚いたような顔をした。
「……いい匂いだな」
「でしょ? 私の特製香草焼きよ。さあ、冷めないうちに座って!」
テーブルの上にはこんがりと黄金色に焼き上がった鳥肉と、村の人からもらったチーズ、それに野菜スープが並んでいる。
昨夜決めた「はんぶんこ」のルール通り、二つの皿には均等に料理が分けられていた。
「いただきます!」
カタリーナは待ちきれない様子で肉を一口、口に運んだ。
噛みしめた瞬間、溢れ出す肉汁とハーブの爽やかな香りが口いっぱいに広がる。
「……っ! 美味しい……!!」
あまりの美味しさに、カタリーナは思わず目尻を下げた。ただ「美味しい」というだけではない。誰かに大切にされた証を食べているような、そんな充足感が胸をいっぱいに満たしていく。
ギルも一口食べると、目を見開いてカタリーナを見た。
「……旨いな。野生の鳥肉特有の臭みが全くない。ハーブの使い方が上手いんだな」
「えへへ、褒めても何も出ないわよ。でも、そう言ってもらえると嬉しいわ。庭のあの子たちが役に立って良かった」
食後の冷えた井戸水を飲み干したところで、カタリーナは少しだけ緊張しながら口を開いた。
「ねえ、ギル。提案があるんだけど」
「なんだ」
「……あなたの脚、まだ完治してないでしょう?」
ギルは黙って自分の右脚を視線で追った。傷口は塞がりつつあるが、骨や筋肉の深い部分の痛みはまだ残っているようだった。
「だから……その脚が、完全に元通りになるまで。ここで暮らさない? 怪我人が無理をして森を彷徨って、また倒れられたら困るもの」
カタリーナの言葉に、ギルは金色の瞳を揺らした。
彼は何かを思案するように目を閉じた。
「……俺がいると、食い扶持も増える。お前の生活を圧迫するだけだ」
「何言ってるのよ。今日の柵だって、あなたが直してくれなかったら今頃野うさぎに畑を全滅させられてたわ。それに、お肉だって獲ってきてくれるじゃない? むしろ私の方が助かったのに。それに……」
カタリーナは身を乗り出して、ギルの瞳を真っ直ぐに見つめた。
「私はね、誰かと一緒にご飯を食べるのが、こんなに幸せなことだって知らなかったの。だから、恩返しとかじゃなくて、私があなたにいてほしいの」
カトリーナの率直な言葉にギルは目を見開いた。
彼は再び長い間黙っていたが、ふいに小さくため息をついた。
それは諦めではなく、穏やかなため息だった。
「……分かった。脚が治るまで世話になる。その代わり、力仕事と狩りは俺が請け負う。それでいいか?」
「ええ! 決まりね。よろしく、ギル!」
カタリーナは満面の笑みで、彼の大きな手を両手で包み込んだ。
ギルの手は硬いタコがあり、ゴツゴツとしていて温かかった。彼もまた、戸惑いながらもカタリーナの手を優しく握り返した。
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