辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯

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6.お礼の肉

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 窓の外から聞こえる小鳥のさえずりと、眩しいほどの朝日に起こされた。
 カタリーナはゆっくりと目を開け、自分がシーツを握りしめていることに気づく。昨夜の悪夢はぼんやりとしか覚えていなかった。

「んーよく寝た」

 いつもより日が高い。寝過ぎたようだ。こんなに深く眠れたのはいつ以来だろうか。
 ふと部屋の隅に視線をやる。
 そこには昨日、カタリーナが整えた藁の寝床があった。
 しかしそこにあるはずの大きな影はいない。使い古された毛布だけが丁寧に畳まれて置かれていた。

(あ……。やっぱり、もう行っちゃったのかしら)

 胸の奥に、ぽっかりと小さな穴が開いたような感覚。
 彼はこの村の住人ではない。怪我の手当を終え、一夜の宿を貸したのだから、夜明けとともに去っていくのは当然のこと。

 分かっていたはずなのに、一人に戻った部屋は少しだけ広く感じられた。

「……さて! いつまでも寝ていられないわね。畑の様子を見に行かなくちゃ」

 カタリーナは自分を鼓舞するように頬を叩くと、パタパタと身支度を整えて外へ飛び出した。
 昨夜の雨を含んだ空気は澄み渡り、濡れた土の匂いが鼻をくすぐる。井戸で顔を洗い、しゃっきりと目を覚ましてから、家の裏手にある小さな畑へと向かった。

 すると、そこには信じられない光景が広がっていた。

「……え?」

 トントン、という規則正しい乾いた音が響いている。
 そこにはギルがいたのだ。
 彼は上着を脱ぎ、白いシャツの袖をまくり上げて、手際よく木材を組み合わせていた。彼が作業しているのは、昨日の雨風で少し傾きかけていた畑の柵だ。

「ギル!? いたの……? それに、何してるのよ。怪我はもう大丈夫なの?」

 カタリーナの声にギルは手を止めてゆっくりと振り返った。
 朝の光を浴びた金色の瞳が、少しだけ眩しそうに細められる。

「ようやく起きたか。ずいぶん遅くまで寝てるんだな」
「う、うるさいわね。……それより、その柵!」
「昨日の雨で地盤が緩んでいた。このままでは魔獣どころか、野うさぎにさえ畑を荒らされる。……手当と飯の礼だ」

 ギルが顎で示した先には、以前よりもずっと頑丈に補強された柵が続いていた。
 慣れない手つきではない。彼の手際は驚くほど正確で、無駄がなかった。

「お礼なんて……昨日のスープだけで十分なのに。あなた、本当に変な人ね」

 呆れながらも、カタリーナの心には温かい灯がともる。
 去ってしまったと思った人が、自分のために汗を流してくれている。

 これまで一方的に搾取されるだけだったカタリーナにとって、それは魔法のような出来事だった。

「……それと、これだ」

 ギルはそばに置いてあった大きな葉に包まれた何かをカタリーナに差し出した。

「何これ?」
「今朝、森の入り口で見つけた。あんな食事だけだと足りないだろう?」

 カタリーナが恐る恐る葉を広げると、そこには綺麗に処理された野鳥の肉があった。

「肉……! 本物の、お肉!!」

 カタリーナの瞳がこれ以上ないほどキラキラと輝いた。
 辺境に来てからというもの、食事のメインは常に野菜だった。村の人たちからチーズやパンを分けてもらうこともあったが、肉は貴重品だ。
 ましてや、これほど新鮮で立派な肉を手にする機会なんて一度もなかった。

「すごいわ、ギル! 脚を怪我しているのにこれを獲ったの!? 魔法使いか何かなの!?」
「……ただの狩りだ。これくらい、動ければ造作もない」

 興奮して詰め寄るカタリーナに、ギルがわずかに後ずさる。
 彼は彼女のあまりに素直な、そして眩しいほどの笑顔を気まずそうに眺めていた。

「これで、豪華な食事が作れるわ! 今夜はご馳走よ、ギル!」
「ああ。……楽しみにしている」

 カタリーナの歓喜の声に、ギルはふいと顔を背けた。彼の耳の端が少しだけ赤くなっている。

(もしかして、照れてる?)

 昨夜の悪夢が嘘のように、カタリーナの心は晴れやかだった。

「さあ、そうと決まれば準備をしなくちゃ! ギル、あなたも無理をしないで、終わったらすぐ中に入ってね!」

 カタリーナは肉を大事に抱えて、スキップしながら家へと戻っていく。
 その後ろ姿を、ギルは金色の瞳でじっと見つめていた。
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