愛されSubは尽くしたい

リミル

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愛されSubは尽くしたい

あの夜を求めて1

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──なにが……何がいけなかったんだろう。

あの日以来、頭も心も空っぽのまま、汐は普段と変わらない日常を送っていた。深見の影を追いかけるように、サロンへ行く回数を増やしたが、結局会えなかった。ずるをして島長に聞いてみたものの、「うちは厳しいから個人情報に関わることは教えられない」と返ってきた。

深見にもう一度会って話をしたい。彼のことを何も知らない汐は、連日サロンへと通い詰めていた。

「深見さんとは上手くいったのー?」

にやにやと上機嫌な島長は、無遠慮に聞いてくる。

「別にぃー? 上手くいってますけど?」

ブルーキュラソーで染まったライチカクテルをちびちびと口に含みながら、汐は唇を尖らせた。いつものようにカウンターへ座り、相手を待つ。今まで汐のほうから相手を探すことなどしなかったが、入り口から新しい人が出入りする度に、顔はいちいちそちらを向いてしまう。

「なーんだ。俺もちょっと狙ってたのに」

手練手管に男と上手く恋愛をこなしている、友人の呟きを聞いて、背筋が縮み上がる思いがした。

「瑞希が入る隙間もないくらい、ラブラブだから」
「へぇ。それは残念。深見さんお金持ちそうだから、俺のこと可愛がってくれるかなぁ、って思ってたんだけど。何か、そういう人じゃないよね。本気で相手探しに来てそうだったし」

──じゃあ、やっぱりフリーってことじゃん。

恋人や家庭、プレイのパートナーを別に置く人もいるが、汐が求めているのは、恋人兼パートナーだ。違う人間二人と上手く付き合える器量はない。

「だってこの前も僕のことしか見てなかったし。瑞希のことは眼中にないよ」
「それ聞いたらもっと燃えるなぁ」

牽制のつもりが、逆に島長のやる気を後押ししてしまう形になってしまった。細く長い金髪の前髪から、鷹の目のようにぎらりと覗く。

「まあ、ここはDomとSubの出会い場だし、汐のほうに分があるけどさ。外でばったり会ったりしたら、分かんないかもよ?」
「な……っ。ないから! 絶対にないっ!」

男好きな友人はどんな手を使ってでも、深見を落としにいきそうだ。グラスを磨く手つきは、汐にはない色気を漂わせている。

「誠吾さんを汚したりしたら、お前なんか絶交だからな!」
「えー、友情より恋愛を取るの? 薄情なやつめ」

何とでも言え。汐はクラッカーを噛み砕きながら、島長を睨んだ。

「ところでエッチはしたの?」

思わぬ質問に、汐はぶっと吹き出す。ここで狼狽えたら、ますます島長の思うツボだ。カクテルをぐっと飲み干し、汐は答える。

「そんなの、もうやりまくりだから! 誠吾さんめちゃくちゃ上手で……」
「本当ぉ? 言っとくけど、お互い出すだけじゃないからね。ちゃんと挿れるまでがエッチだから」
「い、言われなくても、知ってるけど!?」

出会いの夜には、島長の言うような関係まで漕ぎ着けていない。身体の中に入ったアルコールと率直な内容の会話に、汐の肌はどこも真っ赤だった。実践経験こそないものの、島長やネットから拾った話で、おおよそどんなことをするのかは想像出来る。汐も島長も恋愛対象は男で、どちらからともなくカミングアウトした。その頃はまだ高校生だったし、相手は自然と自分達より年上ばかりになった。

「何か安心したぁ。汐も俺の知らない間に大人になってるんだね。このままずーっと処女のままかと……」
「は……は!? し、処女じゃないから! 一応それなりに経験してる……っ」
「あはは。そういうことにしといてあげる」
「それなりって言ってるだろっ。瑞希みたいに誰とでもするようなビッチじゃないんですー!」

偽装してみても、島長には全てお見通しのようで。汐は悔し紛れに友人の恋愛遍歴をなじった。

「汐みたいにこじらせるよりはマシだと思うけど? 大学生って誰でもそういうもんじゃん」
「……誰でもパパ活すんの?」
「俺、その呼び方きらーい。素敵な場所に連れていってもらって、美味しいご飯食べさせてもらってるんだし。援交とは違うから」

あっけらかんと言う。親に何でも言えば買い与えてくれる環境は、周りとは違うものだと、汐も大人になるにつれ分かってきたつもりだった。遊ぶお金欲しさだけが目的ではないと島長は強調する。ご馳走になるだけでなく、別途で現金をもらっていることを、汐は知っている。

高校のときは黒髪で、優等生のような見た目。実際に頭もいいし、友人がたくさんいた。

「疑似恋愛、みたいな? 本命じゃないし、他に相手がいるけど、恋愛したいときあるじゃん。人肌寂しいみたいな。俺もパパのこと好きだし、パパも俺のこと好きだから」
「……別に、否定する訳じゃないけど。危なそうだから心配してる」

関係は羨ましく思わない。ただ、自由にあれこれと出来る島長が、まだ大人になりきれていない自分よりも広い世界を見ていて、焦るときがある。

「俺はヘマしないから心配すんなー」

眩しく笑う島長に、汐も癒やされた。
家庭での居場所がない汐にとっては、学校やここが休息の場だ。休日に家族サービスをしたり、お小遣いをやったり。汐にそうするのがいつも紗那の前だから、何だか点数稼ぎに使われている気がする。そんなことしたって、本当の父親にはなれないのに。

──瑞希に貢ぐ奴らも捨てられたくないとか、振り向いて欲しいとか。そんな感じなのかなぁ。

そう思うと、創一の存在がますます気持ち悪くなる。汐は財布を取り出すと、この間もらった一万円札をニ枚、テーブルの上へ置いた。

「え、どうしたの」
「チップだよ。誠吾さん来なかったら今日一緒に遊びに行こう」
「汐の奢りで? 俺、友達とお金の貸し借りはしない主義なんだけど……」
「いーじゃん。別にいらないお金だからいいよ」

いらないお金というなら、道端にでも捨てればいいのに。それが出来ないあたり、自分はやっぱり小心者だ。

「仕事上がったらクラブでも行こうよ。で、電車なくなるからビジホに泊まる。二人で二万はちょっと足りないかもだけど、カードもあるし」

ジュースでも奢ってあげる、みたいな軽さで共犯にさせたい。汐が必死に誘うも、島長の反応は渋かった。

「やだぁ。俺の一晩はそんなに安くないよ? もっと熱っぽく口説いてくれなきゃ、誘われた気しないなー」
「何それ。瑞希とエッチなことする訳ないじゃん」
「汐可愛いから、俺は余裕で出来ちゃうけどなー。……冗談。本気にした?」
「まさか。だってお前のストライクゾーン年上じゃん」
「俺、性欲強いからどうなるか分かんないかもよ? じゃあ、深見さん来なかったら付き合ってあげる」
「やったぁ!」

深見が来ても来なくても、これからの夜は楽しい。連敗続きだったから、実のところ落ち込んでいたのだ。容姿の整っている汐は、サロンではちょっとした有名人で、声をかけられない日はない。しかし、先日騒ぎを起こし、深見とプレイルームに入る様子を見られてから、誘いがゼロの日もある。傍から見れば、自分と深見は上手くいっていると思われているのだろう。

行きずりのDomとのプレイの後では、一週間と経たずに身体は疼いてくるが、いつものような不快感はない。深見とのプレイ、そして強烈なGlareが汐の体調を安定させている。
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