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愛されSubは尽くしたい(最終章)
Color1
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……────。
今日がColorを選びに行く日だというのに、深見は目に見えて落ち込んでいる。何でも、親族との顔合わせと旅行の日取りが重なるらしく、深見は泣く泣く旅行のほうをキャンセルした。人気のリゾートホテルは、会社の優待枠で直近の予約でも入り込むことが出来たが、キャンセル料は馬鹿にならない。しかし、深見が嘆いているのは金銭面ではなく、汐とのプライベートの時間が削られた件のようだ。
「誠吾さんのご両親とか親戚さんの都合もあるし、仕方ないよー……」
「汐君すまない……昔から派手好きな家で祝い事が好きなんだ。元子役というのもほとんどの親族は知っているし、騒がれるとは思うがどうか気を悪くしないでくれるか」
「あ、うん。それは大丈夫、です。というか、すっごく持ち上げられてるみたいだけど、僕のほうこそがっかりさせたらごめんなさい」
十五年経った今は子役時代の愛くるしさは消え、見た目がちょっと垢抜けている普通の大学生だ。成人はしているものの、親の庇護下でまだまだ自立しているとも言えない。
深見の話では、ホテルのバンケットホールを借りてパートナーの発表を行うというのだ。待ち遠しい気持ちよりも粗相をしないかという心配のほうが大きい。
高級なラグジュアリーブランドのショップが並ぶ通りは、男女のカップルだらけで汐は萎縮してしまう。もちろん同性同士のDomとSubのパートナーシップも珍しいことではないが、そもそも第二性を持っている数自体が希少だ。隣を歩いていると、時々深見の手の甲と自分のものが触れ、その度に意識していないよう他人に見せるのに必死だった。
「よかったら手を繋がないか」
「え、でも」
周りの視線が気になる。困惑して返事の遅れた汐に、深見は恋人らしい行為を強要することはなかった。自分のプライドを守るばかりで、深見を傷つけているような気がした。汐は恐る恐る深見の空いている右手を取った。
「……誠吾さんを好きな気持ち。他人に遠慮しているのはもったいないと思ったので」
白昼の舗装路の上で、汐は深見に視線を傾けながら堂々と歩いた。灰茶色の瞳が汐を包み込むように、甘く蕩けている。Glareは出ていないのに、奥深い色の瞳を見つめていると幸せな気分になる。
「え、天使……くん」
二人の空間を裂くように、声が割って入る。名前を呼ぶ彼女が誰なのか分からなくて、汐は数秒顔を見つめ返した。彼女の視線は汐とは逸れていて、繋いだ手のほうへ注がれている。
明らかに異質なものを見るような顔をしており、汐もそれに対して敵意を込め、無言で睨んだ。それでも、繋いだ手は離さなかった。
「石井[イシイ]……だよね。瑞希と仲よかった」
「あ……うん、そう。覚えててくれたんだ。あの、少しだけ天使君と二人で話したい……んだけど」
「何でいきなり?」
「へ、変な意味じゃないよっ。天使君に謝りたいことがあって」
石井は伺いを立てるように、深見の顔と汐とを交互に見ている。謝りたいなんて汐を連れ出す口実かもしれない。子役時代のことを目の前で勝手に検索されたこともあり、彼女への好感度はマイナスだった。そんな事情など知らず、深見は「行ってきたら」と、汐に耳打ちする。
深見に促されなければ、どう考えても裏がありそうな石井の誘いに乗ることもなかった。一本外れた通りで立ち話なら、と汐はしぶしぶ了承した。
車止めに腰掛けた汐は、ついさっきの選択を取り消したくなっていた。足元でしゃがみ、石井はぐずぐずと泣き始めたからだ。
「……ねえ、話すことないなら帰っていい? 別に学校で話してもいいよ。秘密にしておいて、って強要する権利もないし」
「ちがっ……そんなつもり、ない。あたし、天使君にすごく酷いことした……ごめんなさい」
扱いに困り、汐は呆れたように空を見上げていた。交友関係が派手で広い島長の隣にいるせいか、汐も同類のように扱われる。島長なら同じ目線にしゃがんで、頭でも撫でてやるのだろうか。正解が分からない。ただ突っ立っているだけで、何もしない汐は傍から見れば薄情者以外の何物でもないだろう。
緩く羽織ったシャーリングシャツが、地面に擦れて汚れている。
「だから、何? 子役だってバラしたこと? 慣れてるからいいよ。酷いとか思ってない」
「ち、違う。……冗談で、島長君と付き合ってんの、って言ったこと」
「……は?」
──何それ。謝ること?
腑に落ちなくて、汐は不機嫌全開の短い返答をしてしまう。汐の気を悪くしたと思ったのか、石井は薄い肩をびくりとさせた。
「天使君が気にしてるなら……それもごめん」
「……こっちは何とも思ってないのに、謝られると気味悪い」
うん、いいよ。で返せば早く深見の元へ帰られるのに、大人気ない。そもそも大事な日に水を差してきたのは相手からだし、汐は全く悪びれなかった。石井は汐の子供じみた態度にもめげず、必死に言葉を取り纏めていた。
今日がColorを選びに行く日だというのに、深見は目に見えて落ち込んでいる。何でも、親族との顔合わせと旅行の日取りが重なるらしく、深見は泣く泣く旅行のほうをキャンセルした。人気のリゾートホテルは、会社の優待枠で直近の予約でも入り込むことが出来たが、キャンセル料は馬鹿にならない。しかし、深見が嘆いているのは金銭面ではなく、汐とのプライベートの時間が削られた件のようだ。
「誠吾さんのご両親とか親戚さんの都合もあるし、仕方ないよー……」
「汐君すまない……昔から派手好きな家で祝い事が好きなんだ。元子役というのもほとんどの親族は知っているし、騒がれるとは思うがどうか気を悪くしないでくれるか」
「あ、うん。それは大丈夫、です。というか、すっごく持ち上げられてるみたいだけど、僕のほうこそがっかりさせたらごめんなさい」
十五年経った今は子役時代の愛くるしさは消え、見た目がちょっと垢抜けている普通の大学生だ。成人はしているものの、親の庇護下でまだまだ自立しているとも言えない。
深見の話では、ホテルのバンケットホールを借りてパートナーの発表を行うというのだ。待ち遠しい気持ちよりも粗相をしないかという心配のほうが大きい。
高級なラグジュアリーブランドのショップが並ぶ通りは、男女のカップルだらけで汐は萎縮してしまう。もちろん同性同士のDomとSubのパートナーシップも珍しいことではないが、そもそも第二性を持っている数自体が希少だ。隣を歩いていると、時々深見の手の甲と自分のものが触れ、その度に意識していないよう他人に見せるのに必死だった。
「よかったら手を繋がないか」
「え、でも」
周りの視線が気になる。困惑して返事の遅れた汐に、深見は恋人らしい行為を強要することはなかった。自分のプライドを守るばかりで、深見を傷つけているような気がした。汐は恐る恐る深見の空いている右手を取った。
「……誠吾さんを好きな気持ち。他人に遠慮しているのはもったいないと思ったので」
白昼の舗装路の上で、汐は深見に視線を傾けながら堂々と歩いた。灰茶色の瞳が汐を包み込むように、甘く蕩けている。Glareは出ていないのに、奥深い色の瞳を見つめていると幸せな気分になる。
「え、天使……くん」
二人の空間を裂くように、声が割って入る。名前を呼ぶ彼女が誰なのか分からなくて、汐は数秒顔を見つめ返した。彼女の視線は汐とは逸れていて、繋いだ手のほうへ注がれている。
明らかに異質なものを見るような顔をしており、汐もそれに対して敵意を込め、無言で睨んだ。それでも、繋いだ手は離さなかった。
「石井[イシイ]……だよね。瑞希と仲よかった」
「あ……うん、そう。覚えててくれたんだ。あの、少しだけ天使君と二人で話したい……んだけど」
「何でいきなり?」
「へ、変な意味じゃないよっ。天使君に謝りたいことがあって」
石井は伺いを立てるように、深見の顔と汐とを交互に見ている。謝りたいなんて汐を連れ出す口実かもしれない。子役時代のことを目の前で勝手に検索されたこともあり、彼女への好感度はマイナスだった。そんな事情など知らず、深見は「行ってきたら」と、汐に耳打ちする。
深見に促されなければ、どう考えても裏がありそうな石井の誘いに乗ることもなかった。一本外れた通りで立ち話なら、と汐はしぶしぶ了承した。
車止めに腰掛けた汐は、ついさっきの選択を取り消したくなっていた。足元でしゃがみ、石井はぐずぐずと泣き始めたからだ。
「……ねえ、話すことないなら帰っていい? 別に学校で話してもいいよ。秘密にしておいて、って強要する権利もないし」
「ちがっ……そんなつもり、ない。あたし、天使君にすごく酷いことした……ごめんなさい」
扱いに困り、汐は呆れたように空を見上げていた。交友関係が派手で広い島長の隣にいるせいか、汐も同類のように扱われる。島長なら同じ目線にしゃがんで、頭でも撫でてやるのだろうか。正解が分からない。ただ突っ立っているだけで、何もしない汐は傍から見れば薄情者以外の何物でもないだろう。
緩く羽織ったシャーリングシャツが、地面に擦れて汚れている。
「だから、何? 子役だってバラしたこと? 慣れてるからいいよ。酷いとか思ってない」
「ち、違う。……冗談で、島長君と付き合ってんの、って言ったこと」
「……は?」
──何それ。謝ること?
腑に落ちなくて、汐は不機嫌全開の短い返答をしてしまう。汐の気を悪くしたと思ったのか、石井は薄い肩をびくりとさせた。
「天使君が気にしてるなら……それもごめん」
「……こっちは何とも思ってないのに、謝られると気味悪い」
うん、いいよ。で返せば早く深見の元へ帰られるのに、大人気ない。そもそも大事な日に水を差してきたのは相手からだし、汐は全く悪びれなかった。石井は汐の子供じみた態度にもめげず、必死に言葉を取り纏めていた。
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