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閑話2 3人の職場体験 特別な酒場【新しい扉】
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特別な酒場【新しい扉】
翌日の朝。
屋敷の中は、どこか気まずい空気に包まれていた。謹慎処分中とはいえ、暇を持て余している三人――ミーア、アーサー、マッスル――の前に、にやりとした笑みを浮かべたアルベルト王子が現れる。
「なぁ、みんな。昨日のことは昨日のことだ。今日はもっと面白い経験をしてみないか?」
「面白い経験?」とアーサーが眉をひそめる。
その時、ミーアが軽やかに声を上げた。
「実はね、わたし……将来の仕事の一つとして“特別な酒場”で働くってどうなのかなって思ってるの! 体験してみるのも、いい勉強になるんじゃない?」
「はぁ!? 酒場だって? しかも特別ってなんだよ!」
アーサーの叫びを、マッスルが豪快に笑ってかき消した。
「面白そうじゃないか! 筋肉で盛り上げる仕事だろう? 我が肉体の出番だな!」
「お前は黙ってろ!」
4人を一時的に預かっているベネット男爵の許可を得たうえで、監視役としてマーカスが同行する条件付きで、彼らは馬車に乗り込み領都の歓楽街へ向かうことになった。
◆
馬車は昼下がりの街を抜け、石畳の広い通りを進む。屋根から差し込む光が、まるで将来に対する期待と不安が入り混じった車内の空気のように、光と影として映し出していた。
「なぁ、本当にわたしたち……酒場で働くのか?」
アーサーは落ち着かない様子で窓の外を眺める。
「いいじゃん! 人と接する経験は大事だよ。それに、ここでしか学べないことがあるって聞いたわよ」
ミーアはいたずらっぽく笑い、アルベルト王子は「まぁ、楽しみにしておけ」と肩をすくめる。
やがて馬車は街の片隅、目立たない建物の裏口に止まった。木の扉には小さなプレートが掲げられている。
【新しい扉】
「……不安しかない」
アーサーのぼやきを背に、彼らは中へと足を踏み入れた。
◆
裏口を抜けると、広めの待合室があった。まだ開店前らしく、色とりどりの衣装に身を包んだキャストたちが化粧や髪の準備に大わらわである。だが一人、筋骨隆々の男がレースのドレスをまとい、鮮やかな口紅を塗っている光景に、アーサーは目をむいた。
「な、なんだこの店はぁぁ!?」
「アタシのお店へようこそ、ミーア様♪」
奥から現れたのは、がっしりとした体格に鮮やかなメイクを施した人物。鮮烈な存在感を放つその人こそ、店長のマーガレットであった。
「あなたがたのことは男爵様から伺っていますわ。今日は存分に楽しんで、働き方を学んでいってちょうだい」
ミーアが嬉しそうに頷く一方、アーサーは露骨に後ずさった。
「わ、わたしは見学だけでいい! ぜったいに働かないからな!」
「まぁまぁ。そうおっしゃらずに♪」
マーガレットはにっこり微笑み、指を鳴らした。するとキャストの一人が黒い布を持って走り寄る。
「え、ちょ、待て……!?」
次の瞬間、アーサーの身体は黒いメイド服に包まれていた。
「な、なんだこれ! 足がスースーする! や、やめろぉぉ!」
「ほら、もっとじっとして。せっかく綺麗にしてあげてるんだから」
ミーアがリボンを結びながら笑う。さらに猫耳カチューシャを頭に乗せ、後ろにふわりと猫の尻尾を装着した。
「お、お尻に何かついてる!? こ、こんな辱めを受けるなら、いっそのこと、こ、殺してくれ……! こんな醜態――!」
「ふふっ、でも可愛いよ?」
ミーアの一言に、アーサーは顔を真っ赤にし、呻き声をあげるしかなかった。
◆
一方、アルベルト王子もまた別の衣装部屋から姿を現す。
絹のドレスをまとい、艶やかな巻き髪のウィッグをつけたその姿は――どう見ても美女。
「……どうだ? 我ながら似合っているだろう?」
「えっ……王子殿下!? べ、別人みたい……」
ミーアが思わず目を丸くする。アーサーは引きつった笑いを漏らした。
「なんでそんな堂々としてんだよ!?」
さらに奥から、巨体のマッスルが姿を現した。
全身にフリルとレースをまとい、化粧で強調された顔は――どう見ても化け物にしか見えない。
「ふははは! 鏡を見よ! この美しさ! 我が肉体美は何を着ても映えるのだ!」
「……悪夢かよ」
アーサーは頭を抱えた。
◆
やがて、そこへ現れたのは先輩キャストの一人。
筋肉の鎧を誇示するようにピンクのドレスをまとい、長い金髪のウィッグをなびかせた女性?――いや、男性?――アイーナである。
「新人ちゃんたちね? よろしくねぇ」
低めの声に優雅な仕草が重なり、異様な迫力を放っている。
「う、うわぁ……」
アーサーが後ずさるが、アイーナは満面の笑みでマッスルの肩を叩いた。
「おぉ! いい筋肉じゃない! 今夜はお客さんを盛り上げられそうね!」
「うむ! 互いの筋肉を競い合おうではないか!」
二人の間に奇妙な友情が芽生えた瞬間だった。
◆
こうして、ミーアたち三人は「特別な酒場」での一日を体験することになった。
アーサーは猫耳メイド姿のまま、恥ずかしさに顔を赤くしながら接客の練習。アルベルト王子は堂々たる美女として余裕の笑みを振りまき、マッスルとアイーナは筋肉談義で盛り上がる。
まだ開店前だというのに、待合室は笑いと歓声で満ちあふれていた。
――“新しい扉”という名の通り、彼らはまさに新しい世界の扉を開けてしまったのであった。
翌日の朝。
屋敷の中は、どこか気まずい空気に包まれていた。謹慎処分中とはいえ、暇を持て余している三人――ミーア、アーサー、マッスル――の前に、にやりとした笑みを浮かべたアルベルト王子が現れる。
「なぁ、みんな。昨日のことは昨日のことだ。今日はもっと面白い経験をしてみないか?」
「面白い経験?」とアーサーが眉をひそめる。
その時、ミーアが軽やかに声を上げた。
「実はね、わたし……将来の仕事の一つとして“特別な酒場”で働くってどうなのかなって思ってるの! 体験してみるのも、いい勉強になるんじゃない?」
「はぁ!? 酒場だって? しかも特別ってなんだよ!」
アーサーの叫びを、マッスルが豪快に笑ってかき消した。
「面白そうじゃないか! 筋肉で盛り上げる仕事だろう? 我が肉体の出番だな!」
「お前は黙ってろ!」
4人を一時的に預かっているベネット男爵の許可を得たうえで、監視役としてマーカスが同行する条件付きで、彼らは馬車に乗り込み領都の歓楽街へ向かうことになった。
◆
馬車は昼下がりの街を抜け、石畳の広い通りを進む。屋根から差し込む光が、まるで将来に対する期待と不安が入り混じった車内の空気のように、光と影として映し出していた。
「なぁ、本当にわたしたち……酒場で働くのか?」
アーサーは落ち着かない様子で窓の外を眺める。
「いいじゃん! 人と接する経験は大事だよ。それに、ここでしか学べないことがあるって聞いたわよ」
ミーアはいたずらっぽく笑い、アルベルト王子は「まぁ、楽しみにしておけ」と肩をすくめる。
やがて馬車は街の片隅、目立たない建物の裏口に止まった。木の扉には小さなプレートが掲げられている。
【新しい扉】
「……不安しかない」
アーサーのぼやきを背に、彼らは中へと足を踏み入れた。
◆
裏口を抜けると、広めの待合室があった。まだ開店前らしく、色とりどりの衣装に身を包んだキャストたちが化粧や髪の準備に大わらわである。だが一人、筋骨隆々の男がレースのドレスをまとい、鮮やかな口紅を塗っている光景に、アーサーは目をむいた。
「な、なんだこの店はぁぁ!?」
「アタシのお店へようこそ、ミーア様♪」
奥から現れたのは、がっしりとした体格に鮮やかなメイクを施した人物。鮮烈な存在感を放つその人こそ、店長のマーガレットであった。
「あなたがたのことは男爵様から伺っていますわ。今日は存分に楽しんで、働き方を学んでいってちょうだい」
ミーアが嬉しそうに頷く一方、アーサーは露骨に後ずさった。
「わ、わたしは見学だけでいい! ぜったいに働かないからな!」
「まぁまぁ。そうおっしゃらずに♪」
マーガレットはにっこり微笑み、指を鳴らした。するとキャストの一人が黒い布を持って走り寄る。
「え、ちょ、待て……!?」
次の瞬間、アーサーの身体は黒いメイド服に包まれていた。
「な、なんだこれ! 足がスースーする! や、やめろぉぉ!」
「ほら、もっとじっとして。せっかく綺麗にしてあげてるんだから」
ミーアがリボンを結びながら笑う。さらに猫耳カチューシャを頭に乗せ、後ろにふわりと猫の尻尾を装着した。
「お、お尻に何かついてる!? こ、こんな辱めを受けるなら、いっそのこと、こ、殺してくれ……! こんな醜態――!」
「ふふっ、でも可愛いよ?」
ミーアの一言に、アーサーは顔を真っ赤にし、呻き声をあげるしかなかった。
◆
一方、アルベルト王子もまた別の衣装部屋から姿を現す。
絹のドレスをまとい、艶やかな巻き髪のウィッグをつけたその姿は――どう見ても美女。
「……どうだ? 我ながら似合っているだろう?」
「えっ……王子殿下!? べ、別人みたい……」
ミーアが思わず目を丸くする。アーサーは引きつった笑いを漏らした。
「なんでそんな堂々としてんだよ!?」
さらに奥から、巨体のマッスルが姿を現した。
全身にフリルとレースをまとい、化粧で強調された顔は――どう見ても化け物にしか見えない。
「ふははは! 鏡を見よ! この美しさ! 我が肉体美は何を着ても映えるのだ!」
「……悪夢かよ」
アーサーは頭を抱えた。
◆
やがて、そこへ現れたのは先輩キャストの一人。
筋肉の鎧を誇示するようにピンクのドレスをまとい、長い金髪のウィッグをなびかせた女性?――いや、男性?――アイーナである。
「新人ちゃんたちね? よろしくねぇ」
低めの声に優雅な仕草が重なり、異様な迫力を放っている。
「う、うわぁ……」
アーサーが後ずさるが、アイーナは満面の笑みでマッスルの肩を叩いた。
「おぉ! いい筋肉じゃない! 今夜はお客さんを盛り上げられそうね!」
「うむ! 互いの筋肉を競い合おうではないか!」
二人の間に奇妙な友情が芽生えた瞬間だった。
◆
こうして、ミーアたち三人は「特別な酒場」での一日を体験することになった。
アーサーは猫耳メイド姿のまま、恥ずかしさに顔を赤くしながら接客の練習。アルベルト王子は堂々たる美女として余裕の笑みを振りまき、マッスルとアイーナは筋肉談義で盛り上がる。
まだ開店前だというのに、待合室は笑いと歓声で満ちあふれていた。
――“新しい扉”という名の通り、彼らはまさに新しい世界の扉を開けてしまったのであった。
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