婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス

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閑話6 アルベルト王子視点 俺は美しすぎるのか?

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特別な酒場【新しい扉】 ― アルベルト王子視点

 ――俺は、美しすぎるのか?

 「新しい扉」で初めて女装を施されたその瞬間、鏡に映った姿を前に、胸が高鳴るのを抑えられなかった。
 艶やかに巻かれた金糸の髪、白磁の肌を強調する紅の口紅、そして腰まで流れるドレスの波。そこに立っていたのは、どう見ても一人の淑女であった。

「……綺麗だ」
 思わず零した声に、アーサーとマッスルが同時に「うわ」と呻いたのを覚えている。だが彼らの反応などどうでもよかった。問題は――鏡の中の“わたし”だ。

 これなら国を助けることができるかもしれない。
 あの去勢の刑の後、我々は隔離され、しばらくすると、自分たちがローゼにしたことの恐ろしさに驚愕した。
 侍女のサラーが毎日、飲ませていたお茶には解毒効果があり、我々の洗脳が解けたと教えてくれた。
 我々を洗脳し、第一王子と公爵令嬢を仲違いさせ、この国を内部から崩壊させようとした人物がいる。
 ルーレット帝国だ。あの巨大な帝国が我が国に侵攻しようとしているのだ。
 俺は愚かにもその策にやられてしまったのだ。
 だが、この国には、まだエリオットとローゼがいる。
 俺は二人の盾になり、償えないほどのことをしてしまったローゼ。彼女の幸せに少しでも貢献できればと思う。
 それが、彼女に最低のことをした者にとってできるせめてもの懺悔である。
 そして、ルーレット帝国に勝つためには、強国との軍事同盟が必要だ。
 今の俺ならば、その鍵になれるはずだ。



 翌日から、俺の特訓が始まった。
 最初に相談したのはミーアだった。だが、彼女は大きなお腹をさすりながら、困ったように笑う。

「アルベルト殿下……わたしは今、立っているだけでも結構しんどいの。あなたの気持ちはわかるけど、今は無理ね。代わりにサラーを頼ってみて。彼女なら、きっといい指導をしてくれるわ」

 サラー。ミーア付きの侍女で、黒髪をきっちりまとめた落ち着きある女性だ。
 頼み込むと、最初は驚いていたが、やがて小さくため息をついて頷いた。

「……殿下が本気でなさるなら、お手伝いします。ただし半端は許しませんよ」

 それからの日々は苛烈であった。
 歩き方一つ、座り方一つ、すべてを女性らしく改めねばならなかった。背筋を伸ばし、膝をそろえ、言葉遣いは柔らかく。サラーは容赦なく注意を飛ばす。

「殿下! それは“俺”ではなく“わたくし”です」
「笑顔が硬い。頬を少しゆるめて、目元で笑うように」
「スカートの裾を踏まないでください!」

 最初の一週間は失敗ばかりで、何度も自尊心が砕かれかけた。だが、不思議なことに、心のどこかで楽しいと感じている自分がいた。
 女性らしい振る舞いを真似するうち、今まで気づかなかった仕草の美しさを理解できるようになったのだ。鏡に映るわたくしは、日に日に“王子”ではなく“王女”としての姿を帯びていった。



 一月後。
 サラーと二人、仕上がりを確認する時間が訪れた。ドレスをまとい、化粧を施されたわたくしは、鏡に向かって静かに微笑む。

「……これで、完璧だわ」

 そう思える自分がいた。
 だが横で見ていたミーアは、にこりと笑って首を振る。

「まだまだ奥が深いのよ。女性ってね、服装や化粧だけじゃないの。心の在り方や、人への寄り添い方……その全部があって、初めて“女性”って呼ばれるの。アルベルト殿下、あなたならきっと出来ると思うけど」

 その言葉に胸が熱くなった。
 そうか。わたくしが目指すのはただの女装ではない。父上の求めた「王族」としての在り方を掴むこと――それこそが、この努力の果てにあるのだ。

 サラーは満足げに微笑み、そっと手を合わせた。
「殿下、いえ……姫様とお呼びすべきでしょうか。よくぞここまで」

 胸にこみ上げる達成感。わたくしはサラーと視線を交わし、深く頷いた。



 そんな折、王都から一通の書簡が届いた。
 差出人は宰相。文面にはこう記されていた。

『来月、王太子エリオット殿下の式典を執り行います。王家としての立場を整えるため、アルベルト殿下にもぜひご出席いただきたく存じます』

 エリオット。わたくしの弟であり、次期王として期待されている存在だ。
 式典は、彼が正式に王太子として認められる重要な場。そこに、わたくしは“兄”としてではなく――“姉”として臨む。
 これはまさにチャンスである。
 あの二か国のあの人物が来る可能性がある。ならば、わたくしの策で持ってルーレット帝国に対抗できる軍事同盟を結ばせることが可能かもしれない。
 卑劣で最悪なことではなるが、我が国が侵攻されるのを防ぐには、これしかないのだ。
 国境地帯では、すでにルーレット帝国が軍事演習をしているという情報も入っている。

 ローゼとエリオット、そして、父上のために。
 そして何より、国民を守るのだ。人々の暮らしを守るのが王族として生まれた者の務め。

 わたくしは筆を取り、優雅な文字で返答を書き記した。

『もちろんお伺いいたしますわ。わたくしに務まることがあれば、喜んで』

 その瞬間、胸の奥で何かが確かに変わった。
 アルベルト王子はもういない。
 これから歩むのは――アルベルト改めアルル“姫”としての、新しい道なのだ。
 そうしなければ、国は守れないのだ。
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