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閑話8 王都の式典 ― アルル姫の誕生
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王都の式典 ― アルル姫の誕生
王都に入ると、街道の両脇には群衆が溢れていた。
「姫殿下がお越しだ!」という声が飛び交うたび、馬車の中でわたくし――アルル姫は胸の鼓動を抑えられなかった。
サラーが隣で扇を軽く開き、冷ややかに告げる。
「姫様、背筋をもう少し伸ばして。人々は姫様の一挙手一投足を見ています」
「……わかっているわ」
わたくしは細く息を吐き、鏡に映る自分の姿を見直した。
柔らかに巻かれた黄金の髪。淡い薔薇色のドレス。唇には優美な紅。
そこに映っていたのは、もはやアルベルト王子ではない。
新しく生まれた――アルル姫その人であった。
◆
王宮前の大広間。
豪奢なシャンデリアが輝き、各国の貴族たちが集う中、弟エリオットが堂々と歩み出てきた。
銀糸のマントを翻し、朗々と宣誓を述べる姿は、まさに王太子としての風格に満ちている。
――弟よ。立派になったのね。
わたくしは舞台袖からその姿を見つめ、自然と口元が緩んだ。
だが同時に、胸の奥には淡い痛みが残っている。
彼の隣には、かつてわたくしの婚約者であったローゼ嬢が立っていたからだ。
紅のドレスをまとい、琥珀色の瞳を輝かせる彼女は、確かに弟の隣にふさわしい。
だが、彼女がこちらを見やった瞬間、その表情に走った驚愕と戸惑いを、わたくしは見逃さなかった。
◆
「――続いて、王女殿下のご入場です」
侍従の声が響いた瞬間、会場はざわめいた。
王女? この国には王女はいないはずだ、と。
だが扉が開かれ、わたくしが姿を現すと、空気が一瞬にして凍りついた。
「まさか……兄上?」
エリオットの声は震えていた。
ローゼもまた、驚きに目を見開き、唇をわななかせている。
父上――国王陛下でさえ、玉座の上から硬直したようにわたくしを見下ろしていた。
わたくしは静かに微笑み、ゆるやかな所作で裾をつまみ、貴婦人の礼を取った。
「皆さま。わたくしはアルル。陛下の御娘として、今日ここに立たせていただきます」
その一言に、会場は爆発するようなざわめきに包まれた。
◆
「アル……ル?」
エリオットは舞台から一歩踏み出し、信じられないというようにわたくしを凝視している。
「兄上ではなく……姉上、なのですか?」
「ええ、そうよ」
わたくしは微笑を崩さずに答える。
「わたくしは、アルベルトではなく、アルル姫としてここにおります」
その場にいた誰もが息を呑んだ。
サラーが背後から囁く。
「姫様、落ち着いて。視線は高く、微笑みを忘れずに」
わたくしは小さく頷き、堂々と歩みを進めた。
◆
玉座の前に立つと、父上はようやく言葉を絞り出した。
「アルベルト……いや、アルル……。これは一体、どういうことだ」
「父上」
わたくしは真っすぐに見返す。
「今、我が国に必要なのは二人の王子ではありません。……帝国の圧力に対して協力できる同盟国が必要です。それには、王女が必要なのではないでしょうか?」
その言葉に、父の表情が一瞬揺らぐ。
今、国境沿いで行われているルーレット帝国の軍事演習のことが頭をよぎっているのかもしれない。
やがて、深くため息をつき、玉座にもたれかかった。
「……その通りだな。今、我が国は帝国の侵攻準備に対して厳しい状況だ……」
◆
その横で、ローゼが一歩前に出た。
「アルベルト殿下……いえ、アルル姫殿下」
震える声で呼びかける彼女の瞳には、驚愕と、どこか安堵にも似た光があった。
「あなたが……それを望んだのですね」
わたくしは小さく微笑み返した。
「ええ。あなたの未来を邪魔するつもりはないわ。エリオットと共に歩むのが、あなたにふさわしい」
その言葉に、弟は目を見開き、ローゼは静かに頷いた。
彼らの間に芽生えた絆を、わたくしは邪魔することなく見守るのだ。
◆
式典は続き、やがて司会役の宰相が宣言した。
「本日をもって、アルル姫殿下の存在を、正式に王国に示します!」
拍手と歓声が巻き起こる。
その渦の中で、わたくしは胸に手を当て、静かに誓った。
――これからは、アルル姫として。
エリオットとローゼ嬢の盾となる。
二人を守るために、ルーレット帝国に対する同盟国をどんな手を使ってでも得る必要があるのだ。
そのために自らの新しい生を歩んでいくと決心を強くした。
王都に入ると、街道の両脇には群衆が溢れていた。
「姫殿下がお越しだ!」という声が飛び交うたび、馬車の中でわたくし――アルル姫は胸の鼓動を抑えられなかった。
サラーが隣で扇を軽く開き、冷ややかに告げる。
「姫様、背筋をもう少し伸ばして。人々は姫様の一挙手一投足を見ています」
「……わかっているわ」
わたくしは細く息を吐き、鏡に映る自分の姿を見直した。
柔らかに巻かれた黄金の髪。淡い薔薇色のドレス。唇には優美な紅。
そこに映っていたのは、もはやアルベルト王子ではない。
新しく生まれた――アルル姫その人であった。
◆
王宮前の大広間。
豪奢なシャンデリアが輝き、各国の貴族たちが集う中、弟エリオットが堂々と歩み出てきた。
銀糸のマントを翻し、朗々と宣誓を述べる姿は、まさに王太子としての風格に満ちている。
――弟よ。立派になったのね。
わたくしは舞台袖からその姿を見つめ、自然と口元が緩んだ。
だが同時に、胸の奥には淡い痛みが残っている。
彼の隣には、かつてわたくしの婚約者であったローゼ嬢が立っていたからだ。
紅のドレスをまとい、琥珀色の瞳を輝かせる彼女は、確かに弟の隣にふさわしい。
だが、彼女がこちらを見やった瞬間、その表情に走った驚愕と戸惑いを、わたくしは見逃さなかった。
◆
「――続いて、王女殿下のご入場です」
侍従の声が響いた瞬間、会場はざわめいた。
王女? この国には王女はいないはずだ、と。
だが扉が開かれ、わたくしが姿を現すと、空気が一瞬にして凍りついた。
「まさか……兄上?」
エリオットの声は震えていた。
ローゼもまた、驚きに目を見開き、唇をわななかせている。
父上――国王陛下でさえ、玉座の上から硬直したようにわたくしを見下ろしていた。
わたくしは静かに微笑み、ゆるやかな所作で裾をつまみ、貴婦人の礼を取った。
「皆さま。わたくしはアルル。陛下の御娘として、今日ここに立たせていただきます」
その一言に、会場は爆発するようなざわめきに包まれた。
◆
「アル……ル?」
エリオットは舞台から一歩踏み出し、信じられないというようにわたくしを凝視している。
「兄上ではなく……姉上、なのですか?」
「ええ、そうよ」
わたくしは微笑を崩さずに答える。
「わたくしは、アルベルトではなく、アルル姫としてここにおります」
その場にいた誰もが息を呑んだ。
サラーが背後から囁く。
「姫様、落ち着いて。視線は高く、微笑みを忘れずに」
わたくしは小さく頷き、堂々と歩みを進めた。
◆
玉座の前に立つと、父上はようやく言葉を絞り出した。
「アルベルト……いや、アルル……。これは一体、どういうことだ」
「父上」
わたくしは真っすぐに見返す。
「今、我が国に必要なのは二人の王子ではありません。……帝国の圧力に対して協力できる同盟国が必要です。それには、王女が必要なのではないでしょうか?」
その言葉に、父の表情が一瞬揺らぐ。
今、国境沿いで行われているルーレット帝国の軍事演習のことが頭をよぎっているのかもしれない。
やがて、深くため息をつき、玉座にもたれかかった。
「……その通りだな。今、我が国は帝国の侵攻準備に対して厳しい状況だ……」
◆
その横で、ローゼが一歩前に出た。
「アルベルト殿下……いえ、アルル姫殿下」
震える声で呼びかける彼女の瞳には、驚愕と、どこか安堵にも似た光があった。
「あなたが……それを望んだのですね」
わたくしは小さく微笑み返した。
「ええ。あなたの未来を邪魔するつもりはないわ。エリオットと共に歩むのが、あなたにふさわしい」
その言葉に、弟は目を見開き、ローゼは静かに頷いた。
彼らの間に芽生えた絆を、わたくしは邪魔することなく見守るのだ。
◆
式典は続き、やがて司会役の宰相が宣言した。
「本日をもって、アルル姫殿下の存在を、正式に王国に示します!」
拍手と歓声が巻き起こる。
その渦の中で、わたくしは胸に手を当て、静かに誓った。
――これからは、アルル姫として。
エリオットとローゼ嬢の盾となる。
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そのために自らの新しい生を歩んでいくと決心を強くした。
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