婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス

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閑話12 マンハイム視点 カサマーラに戻って ― 求婚の決意

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カサマーラに戻って ― 求婚の決意

 王都の夜会から数日後、僕マンハイム=ドレスデンは、故国カサマーラの城門をくぐった。
 旅の疲れもあるはずなのに、心は妙に高揚していた。
 あの夜、アルル姫の手を握りしめた温もりが、まだ残っている気がしてならなかったからだ。

 ――彼女を妻に迎えたい。
 その願いが胸に刻まれて以来、僕の世界は少し違って見えた。



 まず向かったのは、父の待つ公爵邸だった。

 執務室の扉を叩くと、低い声が返ってくる。
「入れ」

 父――ドレスデン公爵は、山のように積まれた書類の前に座っていた。
 白髪混じりの髪、厳しい目つき。
 だが僕を見上げた瞬間、その瞳がわずかに和らぐ。
「ご苦労だったな。王国の舞踏会はどうだった?」

 僕は真っ直ぐに父の前へ進み出て、深く頭を下げた。
「父上。僕は――アルル姫を妻に迎えたいと願っております」

 執務室の空気が凍りついた。



 父はしばらく黙したまま、僕を見据えていた。
「……もう一度言え」
「アルル姫を、僕の妻に」

 その瞬間、父の口元にかすかな笑みが浮かんだ。
「お前が女を口にするとはな。いや、むしろ驚きを通り越して嬉しいわ」

 父は椅子を立ち、窓辺に歩み寄る。
「アルル姫か……王国の噂は我が耳にも届いている。男子として育てられ、今度は姫として現れたとか」
「はい。しかし噂がどうであれ、僕の目には――ただひとりの女性でした」

 父はしばらく黙り、やがて深く頷いた。
「ならば国王陛下にお伺いを立てねばなるまい。姫を娶るということは、単なる縁談にとどまらん。国の未来に関わる」

 僕の胸が高鳴る。
 父が反対しなかった。
 それだけで、大きな一歩だった。



 数日後、僕は父と共に王宮へ向かった。

 玉座の間に響く重厚な声。
「ドレスデン公爵、よく戻った。息子もご苦労であった」

 そこに座すのは、カサマーラ国王アウグスト陛下。鋭い眼光と堂々たる体躯。幼いころから見慣れた姿なのに、今日は一段と威厳を感じた。

 父が恭しく礼を取る。
「陛下、実は一件、御前にてご相談申し上げたきことがございます」

 国王は顎に手をやり、僕を一瞥した。
「ふむ……息子の縁談か?」

 鼓動が速くなる。
 父の視線が僕に促すように向けられた。

 僕は一歩前へ進み、声を張った。
「陛下。僕は、隣国王国のアルル姫を妻に迎えたく存じます」



 玉座の間が静まり返った。
 国王の眉がぴくりと動き、重い声が落ちる。
「……隣国の姫を。理由を聞こう」

 僕は深く息を吸った。
「アルル姫と舞踏を踊った時、不思議なことに――僕の身体は拒まなかったのです。女性に触れると湿疹が出るほどだった僕が、です。彼女は……特別なのです。僕は心から彼女に惹かれました」

 国王は目を細め、しばらく僕を見つめていた。やがて口を開く。
「真剣であることは伝わった。だが相手は一国の姫。個人の恋情で済む話ではない」

 父が口を添える。
「陛下。とはいえ、この縁は国益にも資するかと。王国との関係をさらに深める好機となりましょう。またルーレット帝国に対抗するためにも同盟相手に適しているかと」

 国王は顎を撫で、ゆっくりと頷いた。
「確かに。アルル姫は今や国中の注目を集めている。その姫を娶ることは、我が国にとっても大きな意味を持つ」

 そして、真っ直ぐに僕を見据えた。
「マンハイム。お前に問う。姫を迎えることは容易ではないぞ。政治の駆け引き、国同士の思惑、あらゆる重圧がのしかかる。それでもなお、彼女を娶りたいと願うか?」

 迷いはなかった。
「はい。どのような困難があろうとも、僕はアルル姫を妻に迎えたいのです」



 国王はしばらく考え込み、やがて玉座から立ち上がった。
「よかろう。その決意、見届けた。まずは正式な使者を立て、王国に打診する。我らカサマーラの名にかけて、恥じぬよう努めよ」

 胸の奥が熱くなる。思わず深く膝を折り、声を上げた。
「ありがたき幸せにございます!」

 父も安堵の息を漏らした。



 謁見を終えた後、父と共に宮廷を出る。
「よくやったな、マンハイム」
 父の言葉に、思わず顔が綻ぶ。
「ありがとうございます。ですが、これからが始まりです」

 空を見上げると、夕陽が赤く城壁を照らしていた。
 ――アルル姫。必ずあなたを迎えに行きます。

 今度は、国を背負って。
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