婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス

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閑話15 皇太子の決断 ― アルル姫への想い

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皇太子の決断 ― アルル姫への想い

 夜会のざわめきはまだ続いていた。
 けれど俺の胸の中では、別の鼓動が鳴り響いていた。
 アルル姫――彼女を一度見てしまったら、もう目を逸らすことはできなかった。

 従者ベルガモが横で低く問いかけてきた。
「殿下。顔が熱いですよ」
「放っておけ」
 わかっていた。舞踏の後から、俺はまるで別人のように心を乱されている。



 そして夜も更け、人々が次々と杯を重ねる頃。
 俺は思い切って、アルル姫のもとへ歩み寄った。
 彼女はエリオット王子とローゼ嬢に囲まれていたが、ちょうど人の流れで一人きりになる瞬間があった。

 心臓が高鳴る。
 これほどまでに言葉を告げるのに勇気が要るとは。

「アルル姫」

 俺の声に、彼女が振り返る。
 柔らかい薔薇色のドレス。微笑みは、どんな宝石よりも眩しかった。

「……フェレンツィ皇太子殿下」

 礼儀正しく頭を下げる彼女に、俺は深く息を吸った。

「もう一曲の舞を踊らせていただけませんか」

 彼女は少し驚いたように目を瞬かせ、けれどすぐに優雅に手を差し出した。
「ええ、光栄ですわ」



 音楽が始まる。
 俺は彼女の手を取り、ゆるやかにステップを踏んだ。
 近くで見るその瞳は、まるで深い湖のように澄んでいた。

 ――その時、抑えきれなくなった。

「アルル姫。どうか、俺の言葉を聞いてほしい」

 彼女の視線が揺れる。
 俺は正面から、その瞳を見つめた。

「俺は……あなたに惹かれました。出会った瞬間から、他の誰も目に入らない。どうか――俺と婚姻を結んでいただけないか」

 場の音が消えたように感じた。
 言葉を吐き出した瞬間、胸の奥が熱く震えた。

 しかしアルル姫は、驚きと戸惑いを隠すように微笑んだ。

「殿下。ありがたいお申し出ですが――」

 彼女はそっと言葉を重ねる。

「わたくしの婚姻は、王家が決めることなのです。ですから、いかなる縁談も……わたくし一人の意思で決めることはできません」

 やんわりと、しかし確固とした拒絶。
 まるで薔薇の花弁に隠れた棘のように、優しさの裏に鋭さがあった。



 舞曲は終わりを告げた。
 俺は手を離す。彼女は優雅に一礼して、再び弟のエリオット王太子と婚約者ローゼ嬢のもとへ戻っていった。

 残された俺は、胸の奥にぽっかりと穴が開いたような感覚に襲われた。

「殿下……」
 ベルガモがそばに立っていた。
 だが俺は首を振る。

「いや、わかっている。彼女は王女だ。婚姻は国の決断……」

 言葉を切り、天井のシャンデリアを見上げた。
 煌めきの下で、俺は決意を固める。

「――ならば、俺は国として求める」



 舞踏会が終わり、帰還の馬車の中。
 窓の外に流れる王都の夜景を眺めながら、俺はベルガモに告げた。

「皇帝に打診する。アルル姫との婚姻を、帝国として求めるのだ」

 ベルガモの瞳が揺れた。
「殿下……それほどまでに」

「ああ。俺には彼女しかいない。男ばかりを愛してきた俺が、初めて心を奪われた。――この気持ちに背くことはできない」

 ベルガモは沈黙した。
 やがて低く答える。

「……ならば私は、剣として殿下を支えましょう」

 その言葉に、胸の奥が熱くなる。
 ベルガモはいつだって拒絶する。だが、最後には必ず俺の側に残る。



 帝国へ戻れば、父帝はまた冷たい眼差しを向けるだろう。
「なぜその女なのか?」「政治的に得か」と、無数の問いを浴びせられるに違いない。

 それでも構わない。

 アルル姫は、ただの政略相手ではない。
 俺の心を揺さぶり、唯一無二の存在となったのだ。

「必ずや……手に入れる」

 夜の闇に向かって呟いたその声は、馬車の中でかすかに響いた。
 やがて王都の灯が遠ざかり、俺の決意だけが残った。

 イタリー二帝国皇太子、アンドリア=フェレンツィ。
 その心は、もう後戻りできなかった。

 アルル姫――彼女こそが、未来の皇妃。
 俺はそのために、国をも動かす覚悟を決めたのだ。
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