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閑話15 皇太子の決断 ― アルル姫への想い
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皇太子の決断 ― アルル姫への想い
夜会のざわめきはまだ続いていた。
けれど俺の胸の中では、別の鼓動が鳴り響いていた。
アルル姫――彼女を一度見てしまったら、もう目を逸らすことはできなかった。
従者ベルガモが横で低く問いかけてきた。
「殿下。顔が熱いですよ」
「放っておけ」
わかっていた。舞踏の後から、俺はまるで別人のように心を乱されている。
◆
そして夜も更け、人々が次々と杯を重ねる頃。
俺は思い切って、アルル姫のもとへ歩み寄った。
彼女はエリオット王子とローゼ嬢に囲まれていたが、ちょうど人の流れで一人きりになる瞬間があった。
心臓が高鳴る。
これほどまでに言葉を告げるのに勇気が要るとは。
「アルル姫」
俺の声に、彼女が振り返る。
柔らかい薔薇色のドレス。微笑みは、どんな宝石よりも眩しかった。
「……フェレンツィ皇太子殿下」
礼儀正しく頭を下げる彼女に、俺は深く息を吸った。
「もう一曲の舞を踊らせていただけませんか」
彼女は少し驚いたように目を瞬かせ、けれどすぐに優雅に手を差し出した。
「ええ、光栄ですわ」
◆
音楽が始まる。
俺は彼女の手を取り、ゆるやかにステップを踏んだ。
近くで見るその瞳は、まるで深い湖のように澄んでいた。
――その時、抑えきれなくなった。
「アルル姫。どうか、俺の言葉を聞いてほしい」
彼女の視線が揺れる。
俺は正面から、その瞳を見つめた。
「俺は……あなたに惹かれました。出会った瞬間から、他の誰も目に入らない。どうか――俺と婚姻を結んでいただけないか」
場の音が消えたように感じた。
言葉を吐き出した瞬間、胸の奥が熱く震えた。
しかしアルル姫は、驚きと戸惑いを隠すように微笑んだ。
「殿下。ありがたいお申し出ですが――」
彼女はそっと言葉を重ねる。
「わたくしの婚姻は、王家が決めることなのです。ですから、いかなる縁談も……わたくし一人の意思で決めることはできません」
やんわりと、しかし確固とした拒絶。
まるで薔薇の花弁に隠れた棘のように、優しさの裏に鋭さがあった。
◆
舞曲は終わりを告げた。
俺は手を離す。彼女は優雅に一礼して、再び弟のエリオット王太子と婚約者ローゼ嬢のもとへ戻っていった。
残された俺は、胸の奥にぽっかりと穴が開いたような感覚に襲われた。
「殿下……」
ベルガモがそばに立っていた。
だが俺は首を振る。
「いや、わかっている。彼女は王女だ。婚姻は国の決断……」
言葉を切り、天井のシャンデリアを見上げた。
煌めきの下で、俺は決意を固める。
「――ならば、俺は国として求める」
◆
舞踏会が終わり、帰還の馬車の中。
窓の外に流れる王都の夜景を眺めながら、俺はベルガモに告げた。
「皇帝に打診する。アルル姫との婚姻を、帝国として求めるのだ」
ベルガモの瞳が揺れた。
「殿下……それほどまでに」
「ああ。俺には彼女しかいない。男ばかりを愛してきた俺が、初めて心を奪われた。――この気持ちに背くことはできない」
ベルガモは沈黙した。
やがて低く答える。
「……ならば私は、剣として殿下を支えましょう」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
ベルガモはいつだって拒絶する。だが、最後には必ず俺の側に残る。
◆
帝国へ戻れば、父帝はまた冷たい眼差しを向けるだろう。
「なぜその女なのか?」「政治的に得か」と、無数の問いを浴びせられるに違いない。
それでも構わない。
アルル姫は、ただの政略相手ではない。
俺の心を揺さぶり、唯一無二の存在となったのだ。
「必ずや……手に入れる」
夜の闇に向かって呟いたその声は、馬車の中でかすかに響いた。
やがて王都の灯が遠ざかり、俺の決意だけが残った。
イタリー二帝国皇太子、アンドリア=フェレンツィ。
その心は、もう後戻りできなかった。
アルル姫――彼女こそが、未来の皇妃。
俺はそのために、国をも動かす覚悟を決めたのだ。
夜会のざわめきはまだ続いていた。
けれど俺の胸の中では、別の鼓動が鳴り響いていた。
アルル姫――彼女を一度見てしまったら、もう目を逸らすことはできなかった。
従者ベルガモが横で低く問いかけてきた。
「殿下。顔が熱いですよ」
「放っておけ」
わかっていた。舞踏の後から、俺はまるで別人のように心を乱されている。
◆
そして夜も更け、人々が次々と杯を重ねる頃。
俺は思い切って、アルル姫のもとへ歩み寄った。
彼女はエリオット王子とローゼ嬢に囲まれていたが、ちょうど人の流れで一人きりになる瞬間があった。
心臓が高鳴る。
これほどまでに言葉を告げるのに勇気が要るとは。
「アルル姫」
俺の声に、彼女が振り返る。
柔らかい薔薇色のドレス。微笑みは、どんな宝石よりも眩しかった。
「……フェレンツィ皇太子殿下」
礼儀正しく頭を下げる彼女に、俺は深く息を吸った。
「もう一曲の舞を踊らせていただけませんか」
彼女は少し驚いたように目を瞬かせ、けれどすぐに優雅に手を差し出した。
「ええ、光栄ですわ」
◆
音楽が始まる。
俺は彼女の手を取り、ゆるやかにステップを踏んだ。
近くで見るその瞳は、まるで深い湖のように澄んでいた。
――その時、抑えきれなくなった。
「アルル姫。どうか、俺の言葉を聞いてほしい」
彼女の視線が揺れる。
俺は正面から、その瞳を見つめた。
「俺は……あなたに惹かれました。出会った瞬間から、他の誰も目に入らない。どうか――俺と婚姻を結んでいただけないか」
場の音が消えたように感じた。
言葉を吐き出した瞬間、胸の奥が熱く震えた。
しかしアルル姫は、驚きと戸惑いを隠すように微笑んだ。
「殿下。ありがたいお申し出ですが――」
彼女はそっと言葉を重ねる。
「わたくしの婚姻は、王家が決めることなのです。ですから、いかなる縁談も……わたくし一人の意思で決めることはできません」
やんわりと、しかし確固とした拒絶。
まるで薔薇の花弁に隠れた棘のように、優しさの裏に鋭さがあった。
◆
舞曲は終わりを告げた。
俺は手を離す。彼女は優雅に一礼して、再び弟のエリオット王太子と婚約者ローゼ嬢のもとへ戻っていった。
残された俺は、胸の奥にぽっかりと穴が開いたような感覚に襲われた。
「殿下……」
ベルガモがそばに立っていた。
だが俺は首を振る。
「いや、わかっている。彼女は王女だ。婚姻は国の決断……」
言葉を切り、天井のシャンデリアを見上げた。
煌めきの下で、俺は決意を固める。
「――ならば、俺は国として求める」
◆
舞踏会が終わり、帰還の馬車の中。
窓の外に流れる王都の夜景を眺めながら、俺はベルガモに告げた。
「皇帝に打診する。アルル姫との婚姻を、帝国として求めるのだ」
ベルガモの瞳が揺れた。
「殿下……それほどまでに」
「ああ。俺には彼女しかいない。男ばかりを愛してきた俺が、初めて心を奪われた。――この気持ちに背くことはできない」
ベルガモは沈黙した。
やがて低く答える。
「……ならば私は、剣として殿下を支えましょう」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
ベルガモはいつだって拒絶する。だが、最後には必ず俺の側に残る。
◆
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「なぜその女なのか?」「政治的に得か」と、無数の問いを浴びせられるに違いない。
それでも構わない。
アルル姫は、ただの政略相手ではない。
俺の心を揺さぶり、唯一無二の存在となったのだ。
「必ずや……手に入れる」
夜の闇に向かって呟いたその声は、馬車の中でかすかに響いた。
やがて王都の灯が遠ざかり、俺の決意だけが残った。
イタリー二帝国皇太子、アンドリア=フェレンツィ。
その心は、もう後戻りできなかった。
アルル姫――彼女こそが、未来の皇妃。
俺はそのために、国をも動かす覚悟を決めたのだ。
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