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第49話 エリシア視点 悪の王太子妃ローゼを討つ
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教会の夕暮れにて
それから数日が過ぎた。
王都の噂は目まぐるしく移り変わり、わたしの耳にも次々と信じがたい話が飛び込んできた。
――友人のミーアたちが断罪された。
最初にそれを聞いたとき、全身の血が凍りついた。あの夜会で起こったことが、とうとう裁きの場に引き出されたのだ。
「死刑になるかもしれない」そんなささやきも広がり、わたしは恐ろしくて祈ることしかできなかった。だけど、どうにか命だけは取り留めたと知ったとき、心の底から安堵した。
それに、ローゼ様も無事であった。……おそらく、あの方の潔白が示されたこと、そしてエリオット様のご尽力が刑の軽減に繋がったのだろう。
きっとエリオット様も胸をなで下ろしているに違いない。優しいあの方なら、人の命が失われるのを何よりも悲しまれるはずだから。
(お城が落ち着いたら……わたし、またエリオット様に会いに行こう)
そう心に決めた。
ただの一人の聖女であるわたしにできることは少ないかもしれない。けれど、わたしの想いは決して偽りではない。
彼と過ごした短い時間――その眼差し、その微笑み。そのすべてが、わたしの恋を支える光だった。
だからこそ、この恋を成就させるために、もっと頑張らなければ。聖女としても、女性としても。
そう思っていた矢先だった。
その夜、わたしは教会の自室で休んでいた。
蝋燭の炎が静かに揺れる、小さな部屋。長椅子に腰かけ、祈りを終えて目を閉じようとした瞬間だった。
――バンッ!
勢いよく扉が開かれた。
「エリシア、大変だよっ!」
飛び込んできたのは、第二聖女のセミーナだった。
彼女は自分のことを「あたい」と呼ぶ、快活で飾らない人柄。けれど今の彼女は、普段の明るさとは違う、慌てふためいた顔をしていた。
「ど、どうしたの? そんなに慌てて」
「とんでもないことが決まっちまったんだ……! な、なんと……ローゼ様と、エリオット様が婚約されるんだとよ!」
「――え?」
耳に入った瞬間、わたしの頭は真っ白になった。
心臓が大きく跳ね、視界がぐらりと揺れる。まるで床が抜け落ちたような衝撃に、立っていられず、その場にへたり込んでしまった。
「な、なぜ……? どうして……そんな……」
声が震える。
わたしの中の世界が音を立てて崩れていく。
けれど、セミーナは悲しそうに肩をすくめながら、さらに言葉を続けた。
「噂なんだけどね……ローゼ様って、最初からエリオット様と婚約したかったんじゃないかってさ。そのために邪魔なアルベルト王子とミーア嬢をくっつけて……で、自分は冤罪で断罪されることでアルベルト殿下を失脚させた……って」
「そんな……!」
信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
けれど同時に、もしそれが本当なら……わたしの胸に灯っていた恋の炎が、一瞬で奪われたのだと思うと、どうしようもない怒りと悲しみが押し寄せてきた。
「それにね、もうひとつ噂を聞いたんだ。……本当はエリオット様、教会の聖女の中に好きな人がいて、その人と結婚しようとしてたんだって」
「……っ!」
その言葉を聞いた瞬間、わたしは確信した。
(それって……わたしのこと……!)
だって、他に考えられない。
あの夜、優しく名前を呼んでくださったときの瞳。祈りを共にしたときの穏やかな笑み。あれが嘘であるはずがない。
エリオット様は本当は、わたしと結ばれたかったのだ。
――なのに。
ローゼ様が、すべてを阻んだ。
自らを犠牲にする芝居で周囲の同情を集め、アルベルト殿下を追いやり、そしてエリオット様を奪い取った。
「許せない……」
胸の奥から絞り出すように声が漏れた。
涙で滲む視界の中、蝋燭の炎が揺らめき、影が壁に伸びる。
「わたしの……エリオット様を……!」
震える手を強く握りしめた。
「そんなひどいやり方で王妃になろうだなんて、絶対に間違ってる。あの人は……わたしの愛する人を奪った悪だわ」
気づけば、胸の中で誓っていた。
――第一聖女エリシアの名をもって。
悪しきローゼを打ち倒し、必ずわたしがエリオット様と結婚する。
それこそが本当の愛。神に誓うにふさわしい、唯一の真実なのだ。
「わたしは……立ち上がる。エリオット様のために」
そう呟いたとき、背後で小さな気配がした。
振り返ると、セミーナがそこにいた。
彼女はわたしを見つめ、にやりと笑った。
悲しげに見せかけていたその顔に、嬉しそうな、いや、企みを秘めたような色が宿っていた。
――その意味に、わたしはまだ気づいていなかった。
それから数日が過ぎた。
王都の噂は目まぐるしく移り変わり、わたしの耳にも次々と信じがたい話が飛び込んできた。
――友人のミーアたちが断罪された。
最初にそれを聞いたとき、全身の血が凍りついた。あの夜会で起こったことが、とうとう裁きの場に引き出されたのだ。
「死刑になるかもしれない」そんなささやきも広がり、わたしは恐ろしくて祈ることしかできなかった。だけど、どうにか命だけは取り留めたと知ったとき、心の底から安堵した。
それに、ローゼ様も無事であった。……おそらく、あの方の潔白が示されたこと、そしてエリオット様のご尽力が刑の軽減に繋がったのだろう。
きっとエリオット様も胸をなで下ろしているに違いない。優しいあの方なら、人の命が失われるのを何よりも悲しまれるはずだから。
(お城が落ち着いたら……わたし、またエリオット様に会いに行こう)
そう心に決めた。
ただの一人の聖女であるわたしにできることは少ないかもしれない。けれど、わたしの想いは決して偽りではない。
彼と過ごした短い時間――その眼差し、その微笑み。そのすべてが、わたしの恋を支える光だった。
だからこそ、この恋を成就させるために、もっと頑張らなければ。聖女としても、女性としても。
そう思っていた矢先だった。
その夜、わたしは教会の自室で休んでいた。
蝋燭の炎が静かに揺れる、小さな部屋。長椅子に腰かけ、祈りを終えて目を閉じようとした瞬間だった。
――バンッ!
勢いよく扉が開かれた。
「エリシア、大変だよっ!」
飛び込んできたのは、第二聖女のセミーナだった。
彼女は自分のことを「あたい」と呼ぶ、快活で飾らない人柄。けれど今の彼女は、普段の明るさとは違う、慌てふためいた顔をしていた。
「ど、どうしたの? そんなに慌てて」
「とんでもないことが決まっちまったんだ……! な、なんと……ローゼ様と、エリオット様が婚約されるんだとよ!」
「――え?」
耳に入った瞬間、わたしの頭は真っ白になった。
心臓が大きく跳ね、視界がぐらりと揺れる。まるで床が抜け落ちたような衝撃に、立っていられず、その場にへたり込んでしまった。
「な、なぜ……? どうして……そんな……」
声が震える。
わたしの中の世界が音を立てて崩れていく。
けれど、セミーナは悲しそうに肩をすくめながら、さらに言葉を続けた。
「噂なんだけどね……ローゼ様って、最初からエリオット様と婚約したかったんじゃないかってさ。そのために邪魔なアルベルト王子とミーア嬢をくっつけて……で、自分は冤罪で断罪されることでアルベルト殿下を失脚させた……って」
「そんな……!」
信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
けれど同時に、もしそれが本当なら……わたしの胸に灯っていた恋の炎が、一瞬で奪われたのだと思うと、どうしようもない怒りと悲しみが押し寄せてきた。
「それにね、もうひとつ噂を聞いたんだ。……本当はエリオット様、教会の聖女の中に好きな人がいて、その人と結婚しようとしてたんだって」
「……っ!」
その言葉を聞いた瞬間、わたしは確信した。
(それって……わたしのこと……!)
だって、他に考えられない。
あの夜、優しく名前を呼んでくださったときの瞳。祈りを共にしたときの穏やかな笑み。あれが嘘であるはずがない。
エリオット様は本当は、わたしと結ばれたかったのだ。
――なのに。
ローゼ様が、すべてを阻んだ。
自らを犠牲にする芝居で周囲の同情を集め、アルベルト殿下を追いやり、そしてエリオット様を奪い取った。
「許せない……」
胸の奥から絞り出すように声が漏れた。
涙で滲む視界の中、蝋燭の炎が揺らめき、影が壁に伸びる。
「わたしの……エリオット様を……!」
震える手を強く握りしめた。
「そんなひどいやり方で王妃になろうだなんて、絶対に間違ってる。あの人は……わたしの愛する人を奪った悪だわ」
気づけば、胸の中で誓っていた。
――第一聖女エリシアの名をもって。
悪しきローゼを打ち倒し、必ずわたしがエリオット様と結婚する。
それこそが本当の愛。神に誓うにふさわしい、唯一の真実なのだ。
「わたしは……立ち上がる。エリオット様のために」
そう呟いたとき、背後で小さな気配がした。
振り返ると、セミーナがそこにいた。
彼女はわたしを見つめ、にやりと笑った。
悲しげに見せかけていたその顔に、嬉しそうな、いや、企みを秘めたような色が宿っていた。
――その意味に、わたしはまだ気づいていなかった。
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