婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス

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第58話 エリシア視点 真実の告白 ―

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真実の告白 ― エリシア視点

 王宮の夜は、いつもと違う緊張に包まれていた。
 侍女ステラの手を借りて髪を整えながらも、わたしの胸は早鐘を打つように高鳴っている。

「……殿下がお呼びに?」
「はい。しかも、極めて内密にとのことです」

 ステラは淡々と告げた。だが、その声音の裏に何かを隠しているのを、わたしは敏感に感じ取った。
 殿下がわたしを密かに呼ぶ――それはきっと、皆が囁く噂が真実である証拠ではないか。

(ようやく……ようやく殿下は、ローゼではなく私を選んでくださるのね)

 そんな甘い期待に、胸が震えた。

 ◇

 案内されたのは王宮の奥、普段なら立ち入ることを許されぬ第一王子専用の執務室だった。
 扉の前に立つと、重厚な気配がこちらを押し返すように漂ってくる。

 控えていたシリウスが静かに告げた。
「エリシア様、殿下がお待ちです。……心してお入りください」

 その瞳には複雑な光が宿っていた。温かさと、そして苦しみ。けれど私はそれを深く考えず、ただ扉を押し開けた。

 執務室には灯火が柔らかく揺れており、机に腰掛けたエリオット殿下がこちらを見つめていた。
 いつもと同じ、誠実な眼差し。けれど、どこか厳しい色を帯びている。

「……エリシア。夜遅くにすまない。来てくれてありがとう」
「いいえ、殿下のお呼びとあれば」
 わたしは胸を張り、微笑みを作る。だが、その笑みはすぐに固まった。

 殿下の表情に、わたしが望んでいたような温もりが感じられなかったからだ。

「率直に話す。エリシア、お前に伝えねばならぬことがある」
 低く真剣な声。
 心臓が一瞬で冷たくなる。

「……はい」

「世間では、私とお前の仲を囁く噂が広まっている。だが――それは事実ではない」

 胸の奥に針を突き立てられたような痛みが走る。
「……え?」

「私は、ローゼを想っている。彼女こそ、私が生涯を共にすべき人だ」
 はっきりとした言葉だった。迷いも、含みもない。

「ですが、殿下! 皆が言っています。殿下のお心は私にあると……!」
 思わず声を荒げる。必死だった。これまでの噂を糧にして、ここまで信じてきたのだ。

 殿下は首を振った。
「違う。私はお前を妹のように思っている。幼い頃から守るべき存在だと……だが、それ以上ではない」

 世界が崩れ落ちる音が、耳の奥で響いた。

「妹……? 私は……殿下の隣を夢見て……ずっと……!」
 声が震える。視界が滲む。
 でも、殿下の瞳は揺らがなかった。

「エリシア。お前は大切だ。だからこそ、間違った道へは進んでほしくない」

 その瞬間、心の奥で何かがきしむ音がした。

「……では、ローゼ嬢が……私の邪魔をしているという噂も、殿下は信じておられないのですか?」
 縋るように問う。けれど、返ってきた答えは容赦なかった。

「無論だ。ローゼはそんなことをする人間ではない。彼女を傷つける噂を広めた者がいるのなら、それは正さねばならぬ」

 刃のような言葉だった。
 わたしの胸を切り裂き、真実を突きつける。

(……わたし、疑われている……?)

 ステラの姿が脳裏をよぎった。あの侍女の耳打ちや、囁きを思い出す。
 殿下はすべてを知っているのだ。ステラを通じて、わたしがどれほど噂に関わってきたのか。

「エリシア。お前がこれ以上噂に関わるなら、私も強い措置を取らざるを得ない」
「殿下……」
「私はお前を守りたい。妹として。だが、それを拒むなら……」

 言葉はそこで途切れた。だが、十分だった。
 これ以上逆らえば、守られるどころか排除される。

 わたしは震える唇を噛みしめ、膝を折った。
「……わかりました、殿下。私は……もう噂に関わりません」

 それは誓いであり、同時に敗北の言葉だった。

 殿下の瞳に、少しだけ柔らかな光が戻る。
「ありがとう、エリシア。それでいい」

 彼は机を回り、わたしの肩に手を置いた。
 温かいはずのその手が、今は痛いほど遠かった。

 ◇

 執務室を出ると、シリウスが待っていた。
「……話は終わったのですね」
 わたしは無言で頷いた。涙が溢れそうだった。

 けれどシリウスは何も問わず、ただ静かに付き従った。
 その優しさが、逆に胸を締めつける。

(殿下にとって私は妹……それなら、私は……)

 夜の王宮は静かだった。
 けれど私の心は、決して静まることはなかった。
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