婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス

文字の大きさ
62 / 97

閑話17 ミーア視点 ミーアの過去

しおりを挟む
真の女性を求める夜 ― ミーア視点

 朝の空気は少し冷たく、吐息が白く揺れた。
 屋敷の玄関先で、私は腹を押さえながら三人の背を見送った。アルル姫の白いドレスが朝日にきらめき、アーサーの真剣な瞳と、マッスルの豪快な背中が並んで遠ざかっていく。
 隣でサラーが手を振りながら小さく囁いた。

「……きっと無事に帰ってきますよ、ミーア様」

 私は微笑もうとしたが、唇の端はうまく上がらなかった。
 胸の奥にずっと沈んでいる秘密――それを抱えたまま、私は彼らを送り出したのだ。

 屋敷に戻ると、静けさが押し寄せてきた。
 さっきまでの賑やかさが嘘のように、部屋には私とサラーしかいない。サラーは台所に向かい、私は客間のソファに腰を下ろした。
 膨らんだお腹をそっと撫でながら、ふと目を閉じる。すると、遠い日の記憶が鮮やかに蘇るのだった。

 母――カトリーヌ。
 彼女はもともと、現ベネット男爵の妹だった。
 学院を卒業したばかりのころ、母は穏やかな婚約者ベータラと共にアルファ商会の手伝いをしていた。笑顔が絶えず、未来を語り合い、幸せな日々を過ごしていたという。

 けれど、その幸せは一夜にして崩れ去った。
 隣国ルーレット帝国に商談へ出かけたその時、運悪く、宴の帰りで酔っていたダーダラ皇帝の目に母が止まったのだ。

 皇帝の命令は絶対。
 母とベータラは冤罪をでっち上げられて捕らえられ、ベータラは死刑を宣告された。
 だが――「自分を差し出せば彼の命を助ける」と囁かれた母は、愛する人を救うために自らを犠牲にした。

 その結果、母は皇宮に連れ去られ、皇帝の愛妾となった。
 そして生まれたのが、私――ルーレット帝国の第二王女、ミーアだった。

 皇宮での暮らしは、決して甘いものではなかった。
 私は側妃の子として疎まれ、嘲笑され、時に使用人にすら下に見られた。
 けれど、母は決して私を見捨てなかった。彼女は耐え、笑顔を保ち、私に生き延びる術を教えた。

「ミーア、泣いてはいけません。弱みを見せれば、あなたはすぐに飲み込まれてしまう」

 だから私はしたたかになった。
 自分を守るために強くなった。

 だが、母の守りは長くは続かなかった。
 皇帝が死去し、兄ラシアンが新たな皇帝となった時、全てが変わった。

 母の体調は急激に悪化し、薬を常に必要とするほどになった。やがて私は知った――それが兄の差し金であることを。
 そして彼は私に命じたのだ。

「隣国に行き、第一王子の婚約を壊せ。そうすれば公爵家を懐柔し、王国を滅ぼせる」

 母の命を人質に、私は送り込まれた。

 男爵家の養女として暮らすようになり、聖女の紹介でアーサーやマッスルと出会った。
 そして最後に――アルベルト王子。
 ルーレット帝国の魔法で心を縛られ、私は彼を誘惑し、王国を混乱させるための駒となった。

 本来の私なら、決してそんなことはしない。
 だが魔法の支配は抗えないほど強大で、私の意志を奪っていった。
 その時の記憶は、今思い出しても手が震える。背筋に冷たい汗が流れる。

 けれど、断罪の日が訪れた。
 洗脳の霧が晴れた時、私の前にサラーが現れたのだ。彼女は母の遺言を携えていた。

 母はラシアンに毒を盛られていた。
 私もいずれ捨て駒として処分される予定だった。
 最後に残された言葉は――「ごめんなさい。そして、私の分まで生きて」

 私は泣いた。
 そして誓った。兄を許さない。ルーレット帝国を滅ぼす。母を奪った帝国に、必ず裁きを下す。

「ミーア様」

 サラーが湯気の立つお茶を持ってきて、静かに卓に置いた。
 彼女もまた、私の秘密を知る一人だ。洗脳を解く技術を持つ彼女は、今も各地を回り、被害者たちを救おうとしている。

「……ありがとう、サラー」

 私はカップを両手で包みながら答えた。
 熱が指先に染み込み、冷えた心を温めていくようだった。

 アルル姫たちが旅立った今、この屋敷には私たちしかいない。
 だが孤独ではなかった。
 母を奪われた私に、今は仲間がいる。守るべきものがある。

 窓の外で、小鳥がさえずっていた。
 私はお腹を撫でながら、小さく呟いた。

「お母さま……わたし、生きます。あなたが願ったように、強く、真っ直ぐに」

 アルル姫は「真の女性」を求めて旅立った。
 アーサーも、マッスルも、自らを変えるために歩み出した。

 ならば、私もまた。
 ここで立ち止まらず、母の遺志を継ぎ、王国を守るために、そして帝国を討つために――強くならなければならない。

 窓から差し込む陽光を浴びながら、私は静かに拳を握った。
 その決意は、誰にも奪わせはしない。

 こうして私の戦いは、まだ始まったばかりなのだ。
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !

恋せよ恋
ファンタジー
 富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。  もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、  本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。  ――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。  その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、  不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。  十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。  美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、  いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。  これは、  見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、  無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 エール📣いいね❤️励みになります! 🔶表紙はAI生成画像です🤖

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、 騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。 だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、 騎士団の解体と婚約破棄。 理由はただ一つ―― 「武力を持つ者は危険だから」。 平和ボケした王子は、 非力で可愛い令嬢を侍らせ、 彼女を“国の火種”として国外追放する。 しかし王国が攻められなかった本当の理由は、 騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。 追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、 軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。 ――そして一週間後。 守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。 これは、 「守る力」を理解しなかった国の末路と、 追放された騎士団長令嬢のその後の物語。

時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【その断罪、待っていました!】 私は侯爵令嬢オフィーリア・ドヌーブ。王太子アシル・バスチエの婚約者だった。良い国母になる為、日々努力を怠らなかった。そんなある日、聖女を名乗る女性ソネットが現れ、あっという間にアシルは彼女に夢中になってしまう。妃の座を奪われることに危機感を抱いた私は、ありとあらゆる手段でソネットを陥れようとして失敗。逆に罰として侯爵家から除籍され、辺境の地へ幾人かの使用人達と共に追放されてしまう。追放先の村での暮らしは不便だったが、人々は皆親切だった。けれど元侯爵令嬢というプライドから最後まで私は素直になれなかった。そんな自分に後悔しながら長い時を孤独に過ごしていたある日。不思議な懐中時計の力によって、何故か断罪の真っ最中に時が巻き戻っていた。聖女への嫌がらせは無かったことに出来ない。それなら今世はおとなしく追放されて和やかに過ごそう。今度こそ幸せに暮らす為に—— ※他サイトでも投稿中

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...