52 / 84
閑話3 メアリー編 桜の木の下での出会い
しおりを挟む
春の桜が満開を迎えた頃、学院の中庭は淡い薄紅色に包まれていた。
長い冬が終わり、冷たい風がぬるむと、まるで世界が一斉に目を覚ますようだった。
私はその光景を見ながら、どこか胸がそわそわしていた。桜の花びらが舞うと、なぜかリースの笑顔を思い出してしまうのだ。
彼女が春の中に立っていたら、どんなに美しいだろうと、想像してしまう自分がいた。
学院の生徒たちは皆、春の訪れを喜んで外へ出ていた。桜の下でお弁当を広げる子たち、記念に絵を描く子たち、にぎやかな笑い声が広がる。そんな中、私はふと、人混みの中に見覚えのある背中を見つけた。
「……あれ?」
あの落ち着いた雰囲気、丸い肩のライン。
私は思わず駆け寄っていた。
花びらの下に立っていたのは――以前、学院で事務をしていたアトラスさんだったのだ。
すでに退職されて久しいはずの彼が、こうして桜を眺めているなんて思ってもみなかった。
「アトラスさん!」
思わず声が弾んだ。アトラスさんがこちらを振り返り、驚いたように目を丸くした。
「おや……メアリー嬢か。久しぶりだねぇ。もう学院も新しい年度かい?」
「はい。お久しぶりです。こんなところで会えるなんて……!」
私は胸が高鳴るのを抑えきれなかった。
アトラスさんは学院の中で、数少ない優しい大人の一人だった。
仕事の合間に笑って話しかけてくれたり、困っている生徒をそっと助けたり。
リースのことでも、何か知っているかもしれない――そんな希望が一気に広がっていった。
「アトラスさん……あの、リースのこと、ご存知ありませんか?」
桜の花びらがひらひらと舞い落ちる中で、私は勇気を振り絞って訊いた。
ずっと探していた名前を、ようやく口にできた気がした。
胸がぎゅっと締め付けられ、声が震えそうになった。
アトラスさんの表情が、一瞬だけ曇った。
やはり何か知っているのだ――そう直感した。
「リース……あの子か。あの冬の夜、突然追い出された子だな」
「はい! ずっと探しているんです。わたし……あの子がまだ生きていると信じていて」
私が必死に言葉をつなげると、アトラスさんは腕を組み、ゆっくりとうなずいた。
目の奥に複雑な光が宿っていた。
「実はな、退職したあと、仕事を紹介してくれたのがリース嬢なのだよ。だから、今はリース嬢と一緒にそこで働いているよ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
希望が一気に広がり、涙が込み上げそうになった。
「あ、会いたいです……リ、リースに会いたいです! ど、どこにいるのですか?!」
思わず身を乗り出す。
アトラスさんは少し驚いた顔をしたが、すぐに静かに答えてくれた。
「騎士団の寮だよ。ただ、訳ありでね、リース嬢は今、18歳ということで、そこで仕事をしている。もし会うのならば、話を合わせて貰わないとリース嬢が困ることになる。分かるだろう?」
私はその場で立ち尽くし、桜の花びらの中で空を見上げた。リースが……生きている。こんな近くで息をして、働いている。そう思うだけで、胸の奥が熱くなる。
「ありがとうございます、アトラスさん。本当に……!」
深々と頭を下げた私を見て、アトラスさんは優しく笑った。
「それで、リースに会えないでしょうか?わたし心配で」
「そうじゃな、多分、大丈夫だ思うが、一度、リース嬢に訊いてみよう。こちらから学院に連絡するように伝えておくよ。メアリー嬢、あなたの……友を思う気持ちは素晴らしいね」
その言葉は、春の光のように私の胸に沁みた。
リースが生きていた。
そして、リースに会えるかもしれない。
わたしは学院に戻り、リースからの連絡が来るのを待つことに決めた。
長い冬が終わり、冷たい風がぬるむと、まるで世界が一斉に目を覚ますようだった。
私はその光景を見ながら、どこか胸がそわそわしていた。桜の花びらが舞うと、なぜかリースの笑顔を思い出してしまうのだ。
彼女が春の中に立っていたら、どんなに美しいだろうと、想像してしまう自分がいた。
学院の生徒たちは皆、春の訪れを喜んで外へ出ていた。桜の下でお弁当を広げる子たち、記念に絵を描く子たち、にぎやかな笑い声が広がる。そんな中、私はふと、人混みの中に見覚えのある背中を見つけた。
「……あれ?」
あの落ち着いた雰囲気、丸い肩のライン。
私は思わず駆け寄っていた。
花びらの下に立っていたのは――以前、学院で事務をしていたアトラスさんだったのだ。
すでに退職されて久しいはずの彼が、こうして桜を眺めているなんて思ってもみなかった。
「アトラスさん!」
思わず声が弾んだ。アトラスさんがこちらを振り返り、驚いたように目を丸くした。
「おや……メアリー嬢か。久しぶりだねぇ。もう学院も新しい年度かい?」
「はい。お久しぶりです。こんなところで会えるなんて……!」
私は胸が高鳴るのを抑えきれなかった。
アトラスさんは学院の中で、数少ない優しい大人の一人だった。
仕事の合間に笑って話しかけてくれたり、困っている生徒をそっと助けたり。
リースのことでも、何か知っているかもしれない――そんな希望が一気に広がっていった。
「アトラスさん……あの、リースのこと、ご存知ありませんか?」
桜の花びらがひらひらと舞い落ちる中で、私は勇気を振り絞って訊いた。
ずっと探していた名前を、ようやく口にできた気がした。
胸がぎゅっと締め付けられ、声が震えそうになった。
アトラスさんの表情が、一瞬だけ曇った。
やはり何か知っているのだ――そう直感した。
「リース……あの子か。あの冬の夜、突然追い出された子だな」
「はい! ずっと探しているんです。わたし……あの子がまだ生きていると信じていて」
私が必死に言葉をつなげると、アトラスさんは腕を組み、ゆっくりとうなずいた。
目の奥に複雑な光が宿っていた。
「実はな、退職したあと、仕事を紹介してくれたのがリース嬢なのだよ。だから、今はリース嬢と一緒にそこで働いているよ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
希望が一気に広がり、涙が込み上げそうになった。
「あ、会いたいです……リ、リースに会いたいです! ど、どこにいるのですか?!」
思わず身を乗り出す。
アトラスさんは少し驚いた顔をしたが、すぐに静かに答えてくれた。
「騎士団の寮だよ。ただ、訳ありでね、リース嬢は今、18歳ということで、そこで仕事をしている。もし会うのならば、話を合わせて貰わないとリース嬢が困ることになる。分かるだろう?」
私はその場で立ち尽くし、桜の花びらの中で空を見上げた。リースが……生きている。こんな近くで息をして、働いている。そう思うだけで、胸の奥が熱くなる。
「ありがとうございます、アトラスさん。本当に……!」
深々と頭を下げた私を見て、アトラスさんは優しく笑った。
「それで、リースに会えないでしょうか?わたし心配で」
「そうじゃな、多分、大丈夫だ思うが、一度、リース嬢に訊いてみよう。こちらから学院に連絡するように伝えておくよ。メアリー嬢、あなたの……友を思う気持ちは素晴らしいね」
その言葉は、春の光のように私の胸に沁みた。
リースが生きていた。
そして、リースに会えるかもしれない。
わたしは学院に戻り、リースからの連絡が来るのを待つことに決めた。
63
あなたにおすすめの小説
断罪の準備は完璧です!国外追放が楽しみすぎてボロが出る
黒猫かの
恋愛
「ミモリ・フォン・ラングレイ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」
パルマ王国の卒業パーティー。第一王子アリオスから突きつけられた非情な断罪に、公爵令嬢ミモリは……内心でガッツポーズを決めていた。
(ついにきたわ! これで堅苦しい王妃教育も、無能な婚約者の世話も、全部おさらばですわ!)
『お前の顔は見飽きた!』内心ガッツポーズで辺境へ
夏乃みのり
恋愛
「リーナ・フォン・アトラス! 貴様との婚約を破棄する!」
華やかな王宮の夜会で、第一王子ジュリアンに突きつけられた非情な宣告。冤罪を被せられ、冷酷な悪役令嬢として追放を言い渡されたリーナだったが、彼女の内心は……「やったーーー! これでやっとトレーニングに専念できるわ!」と歓喜に震えていた!
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年12月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる