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閑話2 メアリー編 メアリー春を迎える
それからというもの、私は外出のたびにリースの姿を探し続けた。
街の往来では人々のざわめきに耳を澄ませ、宿屋や商店に足を踏み入れては、金色の髪をした少女を見かけなかったかと尋ねた。
けれど、返ってくるのはどこも同じような答えばかりだった。
「知らないね」
「見ていないよ」
「そんな子はここには来なかった」
小さな希望を抱くたび、あっさりと打ち砕かれる繰り返し。
胸の奥に穴が空いていくようで、それでも私は探すのをやめることはできなかった。
そうして季節は巡り、やがて学院は冬休みに入った。多くの生徒たちは実家へ戻り、学院の敷地はひととき閑散とした。私も家族と過ごしながら、父母に頼み込んでリースの行方をさらに調べてもらったが、決定的な手がかりは見つからなかった。心のどこかで「まだ生きている」という思いだけを頼りに、私は日々をやり過ごした。
そして3学期。学院が再び生徒たちの声で賑わい始めた頃、思いもよらぬ出来事が起きた。事務員と料理番が、そろって突然辞めてしまったのだ。理由は誰にもはっきりとは分からなかったが、噂では「学院長が横暴すぎたから」だと囁かれていた。日々の雑務を取り仕切る人がいなくなったせいで、食事は途端に質素なものになった。硬いパンと薄いスープばかり。生徒たちは口々に不満を漏らし、食堂の空気は常に沈んでいた。
私もスプーンを握りしめながら、心の中で思った。リースがいたなら、こんな時きっと誰よりも早く動いて、整えてくれただろうと。彼女はいつだって、人の役に立つことを何よりも大切にしていたから。彼女の不在が、学院の隅々に小さな影を落としているように思えた。
しかし混乱はそれだけでは終わらなかった。春を迎える前、学院をさらに揺るがす大事件が起こったのだ。長らく絶対的な権力を誇っていた学院長が、横領の罪で捕らえられたのである。聞けば、学院の資金を私的に流用し、裏で贅沢を重ねていたという。生徒たちは驚きに息を呑み、教師たちでさえ顔を青ざめさせていた。
もちろん、私の両親もただ黙ってはいなかった。父は「教育の場を私物化するとは言語道断だ」と憤り、母は「リースの件も、この腐敗と無関係ではないはず」と声を荒らげた。私はその姿を見て胸が熱くなった。大人の理不尽に押しつぶされそうになっていたあの夜を思い出す。今、こうして真実が白日の下にさらされるなら、もしかしたら――リースの無実も、いつか認められる日が来るのかもしれない。
学院は急ぎ、国から新しい学院長を迎え入れた。赴任してきたのは、落ち着いた雰囲気を持つ中年の男性で、就任早々から荒れていた学院の秩序を立て直そうと精力的に動き始めた。散乱していた事務作業を整え、食堂の人員を新たに雇い、少しずつ日常を取り戻していった。生徒たちはようやく安心を取り戻し、教師たちも新しい指揮系統のもとで落ち着きを見せ始めた。
けれど、私の心は安らがなかった。どんなに学院が平穏を取り戻しても、リースの不在は埋められない空白として残っていたからだ。外出するたびに、私は街の人混みの中へと目を凝らし続けた。金色の髪を探し、耳を澄まし、すれ違う人々の顔を確かめた。だが、彼女の姿を見つけることはできなかった。
――それでも、信じている。リースは生きている。そう信じなければ、この胸の中に広がる絶望に飲まれてしまうから。
春が近づくにつれ、学院の庭に梅の花がほころび始めた。やがて桜の季節が訪れるだろう。その時こそ、きっと何かが変わる。リースの行方をたどる小さな糸口が見つかるかもしれない。私はそう思いながら、まだ冷たい風の中で、空を見上げた。
舞い散る花びらの季節に、再び彼女と会えることを――私はただ、その希望だけを胸に抱き続けていた。
街の往来では人々のざわめきに耳を澄ませ、宿屋や商店に足を踏み入れては、金色の髪をした少女を見かけなかったかと尋ねた。
けれど、返ってくるのはどこも同じような答えばかりだった。
「知らないね」
「見ていないよ」
「そんな子はここには来なかった」
小さな希望を抱くたび、あっさりと打ち砕かれる繰り返し。
胸の奥に穴が空いていくようで、それでも私は探すのをやめることはできなかった。
そうして季節は巡り、やがて学院は冬休みに入った。多くの生徒たちは実家へ戻り、学院の敷地はひととき閑散とした。私も家族と過ごしながら、父母に頼み込んでリースの行方をさらに調べてもらったが、決定的な手がかりは見つからなかった。心のどこかで「まだ生きている」という思いだけを頼りに、私は日々をやり過ごした。
そして3学期。学院が再び生徒たちの声で賑わい始めた頃、思いもよらぬ出来事が起きた。事務員と料理番が、そろって突然辞めてしまったのだ。理由は誰にもはっきりとは分からなかったが、噂では「学院長が横暴すぎたから」だと囁かれていた。日々の雑務を取り仕切る人がいなくなったせいで、食事は途端に質素なものになった。硬いパンと薄いスープばかり。生徒たちは口々に不満を漏らし、食堂の空気は常に沈んでいた。
私もスプーンを握りしめながら、心の中で思った。リースがいたなら、こんな時きっと誰よりも早く動いて、整えてくれただろうと。彼女はいつだって、人の役に立つことを何よりも大切にしていたから。彼女の不在が、学院の隅々に小さな影を落としているように思えた。
しかし混乱はそれだけでは終わらなかった。春を迎える前、学院をさらに揺るがす大事件が起こったのだ。長らく絶対的な権力を誇っていた学院長が、横領の罪で捕らえられたのである。聞けば、学院の資金を私的に流用し、裏で贅沢を重ねていたという。生徒たちは驚きに息を呑み、教師たちでさえ顔を青ざめさせていた。
もちろん、私の両親もただ黙ってはいなかった。父は「教育の場を私物化するとは言語道断だ」と憤り、母は「リースの件も、この腐敗と無関係ではないはず」と声を荒らげた。私はその姿を見て胸が熱くなった。大人の理不尽に押しつぶされそうになっていたあの夜を思い出す。今、こうして真実が白日の下にさらされるなら、もしかしたら――リースの無実も、いつか認められる日が来るのかもしれない。
学院は急ぎ、国から新しい学院長を迎え入れた。赴任してきたのは、落ち着いた雰囲気を持つ中年の男性で、就任早々から荒れていた学院の秩序を立て直そうと精力的に動き始めた。散乱していた事務作業を整え、食堂の人員を新たに雇い、少しずつ日常を取り戻していった。生徒たちはようやく安心を取り戻し、教師たちも新しい指揮系統のもとで落ち着きを見せ始めた。
けれど、私の心は安らがなかった。どんなに学院が平穏を取り戻しても、リースの不在は埋められない空白として残っていたからだ。外出するたびに、私は街の人混みの中へと目を凝らし続けた。金色の髪を探し、耳を澄まし、すれ違う人々の顔を確かめた。だが、彼女の姿を見つけることはできなかった。
――それでも、信じている。リースは生きている。そう信じなければ、この胸の中に広がる絶望に飲まれてしまうから。
春が近づくにつれ、学院の庭に梅の花がほころび始めた。やがて桜の季節が訪れるだろう。その時こそ、きっと何かが変わる。リースの行方をたどる小さな糸口が見つかるかもしれない。私はそう思いながら、まだ冷たい風の中で、空を見上げた。
舞い散る花びらの季節に、再び彼女と会えることを――私はただ、その希望だけを胸に抱き続けていた。
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