冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!

山田 バルス

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閑話6 クローリー視点 事件の真相

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騎士団の門前 ― クローリーの思惑


 ――そのときだった。

 倉庫街の静寂を破るように、背後から足音が近づいてきた。
 はっと振り返るより早く、がっしりとした両腕に掴まれ、体が押さえ込まれる。

「なっ――!?」

 驚いて声を上げる間もなく、左右から現れた二人の男が、わたしの腕をねじり上げた。
 制服の袖口から覗く紋章――王都警備隊の印だ。

「クローリー=ジリンガム。リース嬢への殺人未遂罪の共犯として逮捕する!」

 耳を疑う言葉が突き刺さった。
 え? 殺人未遂? わたしが?

「え、え……? わ、わたしはそんなことしてない! 違うの、待って!」

 必死に叫ぶけれど、両腕は鉄のような力で拘束され、身動きが取れない。
 心臓が早鐘を打つ。

 そのとき――物置小屋の扉が軋む音を立てて開いた。

 中から現れたのは、リースと……エックス。
 エックスはいつもの乱暴な笑みを浮かべ、リースは沈んだ瞳でこちらを見つめていた。

「もう終わったか?」

 エックスが気だるそうに問いかける。
 その口調は芝居でもするかのように淡々としていた。

 リースはわたしを見て、ほんの少し唇を噛んだ。
 その表情には怒りでも憎しみでもなく、ただ――悲しみと哀れみが混じっていた。

「クローリー……あなた、本当に、なんてことをしてしまったの……」

 その言葉に、心臓が凍りついた。
 どうして。
 どうしてリースがそんな顔をするの?
 悪いのは、わたしじゃない。
 あんたがレスター様に近づいたから……!

「ふざけないで……わたしは……!」

 言い返そうとしたけれど、その声は震えていて、自分でも情けなく聞こえた。

 エックスが前に出て、忌々しげに吐き捨てる。

「クローリー嬢。あんたが俺に提案し、実行に移そうとしたこの件は、立派な犯罪なんだよ。まったく……後味が悪い」

 その顔は、わたしの知っているチンピラのそれではなかった。
 真剣で、冷たい――まるで別人のよう。

「……後は王都警備隊にまかせたぞ」

 そう告げると、エックスは軽く手を振り、背を向けて去っていった。



「待って! どうして、どうしてこんなことに……!?」

 わたしは必死に声を上げるが、警備隊の男は冷たく答えた。

「あとは任せろ。お前の言い訳は、警備隊室で聞く」

 ――嘘。これは何かの間違い。
 だって、計画は完璧だったはずなのに。

 ぐちゃぐちゃになった頭の中で、リースの視線だけが突き刺さる。
 彼女の瞳は、冷たくもなく、怒ってもいなかった。
 ただ、どうしようもなく哀れむように揺れていた。



 後にわかったことだが――。

 リースは手紙を受け取った時点で、違和感を覚えていた。
 筆致が、メアリーのものと微妙に違っていたのだ。
 念のため、メアリー本人に確認すると、「そんな手紙は出していない」と。

 では、あの手紙は誰が?
 疑問を抱えたままリースは迷い、結局、シュワーラ=エレメント騎士副団長に相談した。

「これは何かあるな?……念のために捜査協力をしてもらおう」

 シュワーラは悪戯と事件性を考慮して動くことになったのだった。
 そして、「後は俺の方でなんとかしてみよう」とリースを安心させた。



 その「なんとかしてみよう」という言葉の結果が、今だった。

 リースが小屋に入ったとき、エックスは紙を見せたのだ。
 そこには太い字で「俺に合わせてくれ」と書かれていた。

 だからリースは震える声を出し、怯える演技をした。
 エックスもまた、粗野な口調で芝居を続けた。
 わたしに気づかせないために。

 ――そして、罠は完全に閉じた。



 その場で警備隊のひとりが説明した。

「エックス……いや、彼の本当の名は伏せるが、王都騎士団が派遣した護衛騎士だ。リース嬢を守るために、潜入していた」

 頭が真っ白になった。
 護衛騎士……? じゃあ、最初から全部――芝居だった?

 わたしが信じ、利用したと思っていたエックス。
 その全てが、最初から仕組まれた逆罠だったなんて。

「そ、そんな……!」

 声にならない声が漏れた。
 頬を涙が伝った。悔しさか、恐怖か、自分でもわからない。



 ピンク色の髪が乱れ、埃にまみれた靴が軋む。
 十六歳、伯爵令嬢――クローリー=ジリンガム。

 わたしは両腕を拘束されたまま、歩かされる。
 遠ざかっていく倉庫小屋の前で、リースが静かに立っていた。

 彼女の瞳は、やっぱり憐れみを湛えていた。
 怒鳴りつけてくれたほうが、どれほど楽だっただろう。

 ――どうして。
 どうしてこんな結末になってしまったの?

 わたしの問いかけは、誰にも届かない。
 ただ夕陽だけが、長く伸びた影を冷たく照らしていた。
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