婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

文字の大きさ
35 / 97

第33話 リリスのここだけの話。

しおりを挟む
◆リリス=ヴァレンタインの、再会を夢見るティータイム◆

 翌日。空は清らかな青に染まり、ヴァレンタイン家の馬車は、優雅に街道を駆けていた。

 「ふふ、わたくしって、ほんとうに優雅な存在よね……」

 窓から流れる景色を眺めながら、リリス=ヴァレンタインはうっとりと自分の姿を確認した。今日のドレスは、控えめなベージュのサテン地に繊細なレースをあしらった一着。あえて華美にはせず、知的さと落ち着きを演出するという、絶妙な“計算”が込められている。

 目的地は、伯爵家の令嬢クラリス=フォンティーヌのお茶会。

 「久しぶりのお誘いね。……まあ、あちらからお声をかけてくださったのなら、少しくらい期待に応えて差し上げましょう」

 ──本当は少し違う。誘われたというより、「あなたもどう?」という曖昧な言葉に、半ば強引に「出席するわ」と返したのだ。

 でもそれでいい。だって、この場こそが、わたくしの“復活劇”の舞台になるのだから。

 そして、会場となるフォンティーヌ邸。バラが咲き誇る中庭には、白いテーブルクロスとシルバーのティーセット。集まっていたのは、同じく貴族の娘たち。華やかで、けれどどこか警戒した空気。

 リリスが姿を現すと、一瞬、場の空気がぴりっと引き締まる。

 ──ふふ、わかるわ。久々に見るわたくしの美しさに、息を呑んだのね。

 「リリス様……お久しぶりですわね」

 クラリスが、かろうじて笑顔を作って迎えてくる。

 「ええ、本当に。みなさん、お元気そうで何より。……今日はどうしても、皆さまとお話ししたくなってしまって」

 そう微笑むリリスの言葉に、周囲の令嬢たちは顔を見合わせた。

 そして、話題は自然と、最近王都を騒がせている“黒衣の剣聖”の噂へと移っていく。

 「剣技も、風貌も、まるで昔の騎士物語に出てくる英雄みたいだって……」

 「剣聖……カール=キリト様、凛々しいですわね。今はお相手はいないのかしら?」

 その言葉に、リリスはわざと驚いたふうに目を見開いてみせた。

 「まあ……! やはりご存じなかったのね。皆さまが噂しているその方は、実は──わたくしの、かつての婚約者ですのよ」

 場が静まり返る。もちろん、皆がリリスがカールを婚約破棄したのを知っているがあえて、知らないふりをした。やや嫌味を込めての会話でもあったのだが……リリスはまったく気が付いていない。

 「え……?」と驚く反応をする令嬢の姿もあった。

 「カール様って、確か半分、平民だからって、リリス様が婚約破棄されたのでは……?」

 「いえ、それが違うのです。ここだけのお話ですので、ご内密にお願いしますわ」

 リリスは、ティーカップを手に取りながら、おっとりと語り出す。

 「カールには、ノルド王国の血が流れておりますの。三代前──ノルド王家の正嫡の一族。その証拠も、王宮の方で調査されているそうですわ。ですから、もし万が一、現在の王家に何かあれば……彼が、王位を継ぐことだってありうるのですのよ」

 「まさか……」

 「本当なの?」

 周囲の令嬢たちは色めき立った。

 リリスは、内心ほくそ笑む。彼女たちの動揺こそ、リリスがどれほど先を行っているかの証明なのだ。

 「でも、リリス様は……カール様との婚約、破棄したのでしょう?」

 誰かが小声で問う。

 リリスは一瞬だけ目を伏せ、しかしすぐに柔らかい笑みを浮かべる。

 「ええ、それは……若気の至り、というものですわ。学院時代の感情のすれ違い……ですが、今また、彼の真価が明らかになった今なら、わたくしたちはもっと……ふふ、深く理解しあえると思っておりますの」

 「……つまり、よりを戻すおつもり?」

 「わたくしが、彼にふさわしいと信じているだけですわ」

 それは、否定でも肯定でもない。それでいて、すべてを支配する言葉。

 「わたくし、信じておりますの。運命は、再び交差するべき人々を、必ず引き合わせてくれるものですから」

 白いカップに、金の縁取りが光る。

 リリスは、カールとの未来を想像しながら、淡く甘い紅茶を一口、口に含んだ。

 ──カール。あなたはきっと、まだ迷っているだけ。

 でも大丈夫。レティーナも、わたくしの味方になってくれる。昨日のお茶会で、あの子の瞳がわたくしに優しく揺れていたもの。

 「あの子、きっとカール様に伝えてくれるはず……リリス様こそ、あなたにふさわしいって」

 再び庭に咲くバラに視線を向けるリリスの横顔は、ひたすらに夢見がちで、どこまでも優雅だった。

 ──わたくしは、運命のヒロイン。だから、世界はわたくしに味方するの。

 そんな彼女の妄想ティータイムは、青空の下、優雅に続いていた──。


◆エミリーゼ王女の庭園、噂は風に乗って◆

 その午後、王都ルメリアの王宮南庭園は、眩いほどの陽光に包まれていた。

 色とりどりの花が咲き誇る庭園には、フリューゲン王国が誇る王家の温室があり、その前に設けられた白いテントの下――それが、エミリーゼ=フリューゲン王女殿下が主催する、限られた者しか招かれない特別なお茶会の会場だった。

 クラリス=フォンティーヌは、少し背筋を正して、その場にいた。

 「……この緊張感、やっぱり王女殿下のお茶会って、特別ですわね」

 庭園には、クラリスを含む貴族の娘たち十数名が集められていた。どの顔ぶれも、名のある伯爵・侯爵家の令嬢ばかり。皆、気品をまといながらも、どこかソワソワとした雰囲気を纏っていた。

 エミリーゼ殿下のドレスは、今日も凛としていた。水色のシルクに白銀の刺繍がほどこされ、王家の紋章が胸元に浮かぶ。横顔だけで、全員の視線が吸い寄せられてしまいそうな存在感。

 ――けれど、クラリスは知っていた。

 王女殿下は、いま、ある「話題」に強く関心を寄せているということを。

 「……そろそろ頃合いですわね」

 クラリスは、用意されたアールグレイに角砂糖をひとつ落としながら、さりげなく話題の導入をはかった。

 「ところで、皆さま……少しだけ、ここだけのお話をしてもよろしいかしら?」

 静かな庭園に、ほんのりと緊張が走る。

 「まあ、クラリス様。秘密の話なんて……気になりますわ」

 「お茶会といえば、甘い菓子と甘い噂。ぜひぜひ、聞かせてくださいまし」

 令嬢たちが笑いながら耳を寄せる。エミリーゼ殿下は、カップに口をつけたまま、ただ黙って耳を傾けていた。

 クラリスは微笑を浮かべ、声のトーンを少しだけ落とした。

 「皆さま、最近“黒衣の剣聖”と呼ばれている、カール=キリト様をご存じですわよね?」

 「まあ、もちろん!」

 「噂では、たった一人で盗賊団を退けたとか、貴族の娘を助けたとか……最近の話題の中心ですわ」

 「わたくしも、南大通りで見かけましたの。黒い外套がとても印象的で……」

 数人の令嬢が、目を輝かせながら語る。

 クラリスは、うなずいたあとで、少しだけ言葉をためた。

 「そのカール様に――なんと、ノルド王国の王家の血が流れているらしいのですの」

 沈黙が落ちた。

 「……え?」

 「それって、どういうことですの?」

 令嬢たちがいっせいにざわめく。そのざわめきが波紋のように広がった瞬間――

 エミリーゼ王女が、ゆっくりとカップを置いた。

 「クラリス、続けよ」

 その一言に、クラリスの心臓が一瞬高鳴った。だが、表情は崩さず、穏やかな調子で続ける。

 「はい、殿下。……実はこれは、昨日リリス=ヴァレンタイン様から伺ったことなのです。彼女はかつて、カール様と婚約されておりましたけれど、そのときには気づいていなかったのですって」

 「けれど最近になって、カール様の血筋を調査した王宮関係者が、三代前まで遡ったところ、ノルド王家の正統な流れを引いている可能性が高いと……」

 「正統……?」

 「もし現王家に継承の混乱が生じた場合、カール様に王位継承の道が開かれる可能性もある、ということですわ」

 庭園がざわめいた。

 「それって……信じられませんわ……!」

 「でも、あの実力と品位、どこかただ者ではないとは思っておりましたの」

 「半分、平民の血が流れているとは思えぬ物腰でしたわよね……」

 そして――エミリーゼ王女は、まっすぐにクラリスを見つめて言った。

 「そなた、その話の真偽をどこまで信じておる?」

 「……信じております。リリス様は、少し思い込みの激しい方ではありますが……しかし、念のため王宮内で調査されるのも良いかと」

 「……ふむ」

 エミリーゼは椅子にもたれ、視線を空へとやった。涼やかな風が、庭のラベンダーを揺らす。

 「ノルド王家の血、か。民を守る剣の才。社交界での噂……」

 その横顔には、淡いながらも確かな関心の色が浮かんでいた。

  エミリーゼは考えた。わらわの婚約者、サウザーンスト帝国の第三王子オットーラは……奴隷売買などという下賤な疑惑の渦中におる。もはや破談は時間の問題であった。

「……魅力的な殿方が現れるのは、悪い話ではあるまい」

 その言葉に、周囲の令嬢たちが再びどよめく。

 「まさか……カール様が……」

 「王配として……ありえるの?」

 クラリスは満足げに紅茶をすすった。風が彼女の巻き髪をなで、噂話という名の“火種”が、静かに、けれど確実に広がっていくのを感じていた。

 ──黒衣の剣聖、カール=キリト。

 ただの剣士として語られていた彼の名は、今、王女の耳に届き、やがて王宮を揺るがす風となるだろう。

 噂話のひとつでさえ、時として“運命”を変える火種になる。

 クラリスはその火を、華麗に風に乗せて放った――午後の、優雅なお茶会の中で。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

処理中です...