婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

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第40話 カールとリリスの結婚の行方

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◆君と歩む、偽りの誓い――それでも◆
――カール=キリトの視点

 俺は、彼女の手を握り返した。その温もりに、かつての記憶が蘇る。

 だけど、その瞬間――。

 「っ!?」

 風が、鋭く切り裂かれた。

 直感が告げる。危険だ、と。

 「リリス、下がれ!」

 俺は彼女の手を強く引き、ベンチから飛び退いた。次の瞬間、俺たちのいた場所を、黒い影が駆け抜ける。

 「きゃっ!」

 リリスの悲鳴。俺は彼女を庇うように抱き寄せ、地面を転がった。ほんの数秒遅れていたら――奴の一撃が、彼女に届いていた。

 「……チッ、外したか」

 物陰から現れたのは、濃紺のマントに身を包んだ男。口元には不敵な笑み。そして――その男の顔を、俺は知っていた。

 「……アベル=ダンガー子爵!」

 「よくもまあ、のこのこと来てくれたものだ。まるで、罠にかかりに来た兎だな、カール=キリト」

 奴の手には、毒を塗った小剣。目の奥には、狂気と執念が渦巻いていた。

 「まさか、ここで襲ってくるとは……!」

 「ふん、あの女が“結婚”だと? 笑わせるな」

 ダンガーの視線がリリスに突き刺さる。

 「俺を裏切ったお前が、今さら何を言おうと――もう遅いんだよ、リリス!」

 「アベル……あなた……!」

 リリスが震える。けれど、俺は彼女を背に立ち、剣を抜いた。

 「こいつは、俺が守る。……たとえ、お前がどれだけ卑劣な手を使ってこようと、な」

 「ふん。守れるものなら、守ってみろ!」

 瞬間、ダンガーが突っ込んできた。その動きは速い、しかも容赦がない。俺は剣で受け止める――だが、思っていたよりも重い!

 「ぐっ……!」

 弾かれた衝撃で、右肩がしびれる。だが、ひるんでいられない。

 「カール、逃げて! あたしのことは――」

 「黙ってろ!」

 リリスを背後にかばいながら、俺は再び構え直した。

 「こいつは、俺の戦いだ!」

 だが――ダンガーの動きは、以前よりも鋭くなっていた。獄中にいたとは思えない。むしろ、あの闇が奴をさらに凶暴にしたのか。

 「くっ……!」

 剣と剣が激しくぶつかり合う。ダンガーの小剣は、まるで蛇のようにしなやかに動き、俺の隙を狙ってくる。集中しなければ――一瞬の油断で命を落とす。

 「このままでは……!」

 焦りが、胸を締めつける。

 俺は、まだ迷っているのか? 本当に彼女を信じていいのか。昔、俺を捨てたこの女を――。

 ――違う。

 今のリリスは、あのときとは違う。
 俺の目を見て、真っ直ぐに想いを伝えてきた。
 もう誰の指図でもなく、自分の意志で動いているんだ。

 「だったら、俺も応えるべきだろ……!」

 再び構えを取り直す。そのとき――ダンガーの小剣が閃いた。

 「っ……!」

 間に合わない。そう思った瞬間――

 「カールッ!!」

 リリスの叫びと同時に、俺の前に彼女の手が飛び込んできた。とっさに俺は彼女を押し返し、その代わりに――小剣が、俺の脇腹を掠める。

 「……っぐ!」

 焼けるような痛み。だが、致命傷ではない。

 「よく避けたな……だが、それもここまでだ!」

 なおも迫るダンガー。体は痛む。小剣に毒が塗られていたか? 視界も少しぼやける。

 ――どうすればいい?

 このまま戦い続けても、毒が全身に回れば、さらに不利になるだけだ。ここは――逃げるべきか?

 「でも……」

 ちらりとリリスを見る。彼女の顔は、恐怖に凍りついていた。けれど、その手はまだ、俺を信じて握っている。俺の中に、何かおかしな感覚があるが、今はそれどころではない。

 「ふざけるなよ……こんなところで、お前なんかに……!」

 俺は再び剣を構えた。手は震えている。それでも、この手を離すわけにはいかない。

 ――俺が守るって、決めたんだ。

 「来いよ、アベル=ダンガー。今度は、こっちの番だ」

 俺の中の何かが、静かに燃え上がる。

 痛みはある。けれど、それ以上に、俺は――

 「……守りたいんだ。俺が信じた人を」

 そのときだった。

 遠くから、複数の足音が響く。

 「そこまでだ、ダンガー子爵!」

 現れたのは、王都の騎士たち。先頭には、ゼノ=バルジェの姿。その横にはセリアとリアナの姿も。

「遅れてすまない、カール!」
「カール、助けに来た」
「なに、そんなのに苦戦してるのよ」

 セリアの心配する声とリアナのあきれた声が届く。

ダンガーが舌打ちをする。

 「チッ、またお前かよ……!」

 「もう逃がさん。王の名のもとに、貴様を拘束する!」

 剣を構えるゼノ。だが、ダンガーは一歩も引かず、狂ったように笑った。

 「はは……結婚だと? ふざけるな……ふざけるなよぉぉ!」

 怒りにまかせて暴れ出すダンガー。その隙を突き、俺は最後の力を振り絞って、彼の足を斬り払った。

 「ぐあっ――!」

 その場に倒れ込むダンガー。すかさず、騎士たちが取り押さえようと動く。

 「終わった……のか」

 その場に座り込む俺。リリスが、すぐに駆け寄ってくる。

 「カール……! ごめん、あたし……!」

 「いい……大丈夫だ」

 俺は、痛む体をかばいながら、彼女の手をもう一度握った。

 「お前を信じて、よかったよ」

 噴水の水音が、再び静かに響く。
 まるで、今度こそ――俺たちの物語が、動き出したかのように。


◆君と歩む、偽りの誓い――それでも◆
――カール=キリトの視点

 「ぐあっ――!」

 俺の一閃で、ダンガーの膝が崩れる。地面に倒れこむその姿に、周囲の空気が一瞬で緩んだ。

 騎士たちがダンガーを取り押さえようと動く。

 ――これで終わる。そう思った、その時だった。

 「チッ……まだだ、まだ終わっちゃいねぇ……!」

 地面に膝をつけた状態で、ダンガーは口元を血で汚し、狂ったように笑う。

 「ゼノ=バルジェ……貴様らが来たところで、俺を捕まえられるとでも思ってるのか!」

 「観念しろ、アベル=ダンガー。お前は包囲されている。すでに王都の出入り口には全て封鎖命令が出ている」

 ゼノが厳しい声で言い放つが――

 「フン、封鎖? 俺を誰だと思ってやがる!」

 次の瞬間、ダンガーは懐から黒い小瓶を取り出した。

 「毒か!?」

 リアナが身構える。

 「いや、違う……っ!」

 ゼノが叫ぶより早く、ダンガーはその瓶を地面に叩きつけた。

 「さらばだ、愚か者ども――!」

 ――ボンッ!

 煙が爆発したように広がる。黒い霧のような煙幕があたりを覆い、一瞬にして視界が奪われた。

 「くっ、煙幕か!」
 「煙幕よ、カール、下がって!」
 「リリスも、こっちに!」

 セリアとリアナがすぐに俺たちのそばに駆け寄ってくる。咄嗟にリリスの手を引き、俺たちは一歩後退した。

 「ダンガーの気配が消えた……!?」
 「逃げた!?」

 ゼノの命令で、数人の騎士たちが煙の中へ突入していく。しかし――

 「……いません! すでに逃げた後です!」
 「この煙、ただの煙幕じゃありません。魔術の混合式です。追跡は困難かと……!」

 「ちっ……!」

 ゼノが歯を食いしばった。

 俺はリリスを支えながら、煙が晴れていくのを見届けた。消えゆく黒煙の向こう、アベル=ダンガーの姿はもうどこにもなかった。

 「……逃げられたか」

 「でも、あいつ……確かに傷を負ってた。そう遠くへは行けないはず」

 リアナが悔しそうに唇を噛む。

 「いや、あの男のことだ。王都に残っているかどうかも、怪しい。身を隠す術だけはあるからな」

 ゼノの声は冷静だったが、明らかに苛立ちが混じっていた。

 「……カール、大丈夫か?」

 セリアが心配そうに俺の顔を覗き込む。

 「平気だ……ただ、少し切られただけだ」

 実際には脇腹の傷がズキズキと痛むし、毒のような痺れがまだ残っている。でも、今はそれどころじゃなかった。

 「リリスは……?」

 「あたしなら……大丈夫」

 リリスは少し震えながらも、まっすぐ俺を見ていた。あの時と同じ、決して折れない瞳で。

 「カール……ごめん。あたしのせいで、またあなたが傷ついて……!」

 「違う」

 俺はゆっくりと首を振った。

 「俺は、自分の意志でここに来た。そして、自分の意志でお前を守った。後悔なんて、してない」

 「……カール」

 リリスが唇を噛んで、目元を潤ませる。

 「お前が……もう一度、俺の前に現れて、俺を信じて頼ってくれたこと――それが、俺にとっては十分な理由なんだよ」

 「…………うん」

 その時、ゼノがこちらへ歩み寄ってきた。

 「カール、応急処置は済ませる。ここからは我々が引き継ぐ」

 「……ああ、頼む」

 ゼノが手を上げると、近くの騎士がすぐに医療班を呼びに走った。

 「ダンガーは逃がしたが、奴は確かに罠にかかった。お前たちの“結婚作戦”――効果はあったということだ」

 「皮肉な話ですね」
 セリアがため息をついた。

 「でも……あれは、作戦じゃない」
 リリスがぽつりとつぶやいた。

 「え?」

 セリアとリアナが同時に振り向く。

 「わたし、本気だったの。あの結婚のことも、気持ちも。……嘘じゃないよ」

 「リリス……」

 俺の胸が静かに熱くなる。

 今度こそ、彼女は――“偽り”ではなく、“真実”を選ぼうとしている。

 「ふん。今さらそんな顔見せられてもなーんか腹立つけど」

 リアナがそっぽを向いて言う。

 「でも……まあ、あんたがそれで幸せになれるんなら、いいけどね」

 その言葉に、リリスが小さく微笑んだ。

 やがて、医療班が到着し、俺の傷はその場で応急処置された。

 「毒の影響は少ない。掠り傷で済んだのが幸いだったな」

 ゼノの声に、俺は深く息をつく。

 「ああ……」

 ふと見上げれば、空にはいつの間にか星が瞬いていた。

 あの夕暮れの約束の噴水。
 ここから始まった物語が、今度こそ――新しい未来へと動き出している。

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