婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

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第48話 リリス、悪女の誓い

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◆君と歩む、偽りの誓い――“悪女の誓い”◆
――リリス=ヴァレンタインの視点

 馬車が動き出した瞬間、わたしは――ふふっと、笑った。

 そう。笑ったのよ。くすりと、喉の奥で、毒でも吐くように。

 みんな、わたしが終わったと思っているんでしょう?
 あのセリアも、あの父親も、そしてカール=キリトさえも。

 でも――わたしは、終わってなんかいない。

 むしろここからが始まりよ。
 本当の、地獄の幕開けってやつが。

 ラ・ロシェ伯爵? 三人目の花嫁?
 五十七歳の老いぼれに嫁ぐって? ははっ、冗談じゃないわ。

 わたしが“商品”だって?
 家のために売られた哀れな令嬢?
 ふざけないでよ、全員――このリリス=ヴァレンタインを舐めるんじゃないわよ。

 ――いいわ、演じてあげる。
 従順な妻のふりでも、清楚なお嬢様のふりでも。
 伯爵が満足してる間に、あの家の秘密を握って、金と権力を吸い尽くしてやる。

 わたしは生き延びる。
 どんな手を使ってでも、何を失っても――這い上がってやる。

 そして、全部取り戻すの。

 カール=キリト。

 あなたよ。まずは、あなたから始める。

 剣聖? ノルド王家の血筋? ……そんなの関係ないわ。
 あのとき、わたしに跪いて手にキスしようとしていたあなたが――
 今は、あの娘ごときに頭を下げて愛を誓っている?

 笑わせないで。

 わたしにあれだけの屈辱を与えたのよ。

 みんなの前で、恥をさらし、媚薬の瓶を暴き、膝をつかせた。

 あのときの視線、忘れてないわ。

 令嬢たちがクスクスと笑いながらわたしを見下ろしていた。
 リアナが得意げに小瓶を掲げていた。
 セリアがうっとりした顔であなたに見つめられていた。

 ……吐き気がするほど気持ち悪かった。

 でも、いいわ。その代償、払ってもらうから。

 カール。あなたの“信頼”を壊してやる。

 あなたの大切な人を――セリアを、地の底に叩き落としてやる。

 あの子の瞳から、光を奪って、笑顔を奪って、愛を奪って――
 最後には、あなたの手で突き放させてやるの。

 どんな方法で苦しめようかしら。
 どんな地獄がお望みかしら。
 そして、セリアとカールをこの世から消し去ってあげるわ。

 “剣聖の死”を。

 ふふ……どんな顔をするのかしら。
 セリアやカールが死ぬ瞬間の顔。

 楽しみでたまらないわ。

 ――それから、父上。

 あなただって、許さない。

 わたしを“駒”だと?
 使えなくなったら“売る”だと?
 損失の穴埋めに、娘を差し出すことが、貴族の務めだとでも思ってるの?

 ヴァレンタイン侯爵家。

 その名を、地に堕としてやる。

 家門ごと腐らせて、恥辱の底に沈めてやる。

 あなたの誇りも、あなたの財産も、名誉も、すべて粉々にしてあげる。

 見てなさい、父上。
 娘を見くびった報い、きっちり受けさせてやる。

 ――そして、わたしは笑うのよ。
 伯爵の屋敷で、誰も知らない場所で。
 “可哀想な花嫁”を演じながら。

 この三日間、何をしていたと思う?
 泣いてた? 部屋に籠もって? 心を閉ざしていた?

 違うわ。

 わたしは、考えていたのよ。

 どうやって、復讐してやろうかって。

 どうすれば、カールを苦しめられるか。
 どうすれば、セリアの心を壊せるか。
 どうすれば、ヴァレンタイン家を滅ぼせるか。

 復讐っていうのはね、冷たく、冷たく、じわじわと進めるものなのよ。

 怒り任せに叫ぶような真似はしない。
 泣いて縋るなんて、無様な真似はもうしない。
 わたしは、“悪女”になるの。

 真に、冷酷で、残酷で、誰よりも美しい悪女に。

 伯爵の信頼も、財力も、地位も、全部利用して、舞い戻る。
 “あの社交界”に――完璧な姿で。

 ドレスも、笑顔も、言葉も、全部“武器”にして。

 ……もう、リリス=ヴァレンタインは“犠牲者”じゃない。

 わたしは“狩る側”になるのよ。

 そして、獲物は――あなたたち。

 カール=キリト。
 セリア=ノルド。
 ヴァレンタイン侯爵。

 どうぞ、せいぜい幸せそうな顔をしてなさいな。
 その笑顔を、わたしがこの手で壊すまで。

 ――これは、リリスの誓い。

 “偽りの誓い”を打ち砕かれた悪女の、真の復讐劇のはじまりよ。


◆君と歩む、偽りの誓い――“黒き契約”◆
――アベル=ダンガーの視点

 静寂に包まれた森の奥。
 人気のない岩山の麓に、ひっそりと立つ石造りの小屋がある。

 そこが、今のわたし――アベル=ダンガー子爵の隠れ家だ。

 あの庭園での一件から、まだ数時間も経っていない。

 リリス=ヴァレンタインの失敗、媚薬の露見、そしてカール=キリトの反撃。

 ……すべてが、計算違いだった。

 ゼノ=バルジェ。あの戦場の獣が、ここまで素早く動くとは。

 カールひとりなら、裏から手を回すこともできただろう。
 だが、あの剣聖に加え、セリア=ノルド、リアナ、ゼノ。完璧な布陣だ。

 下手を打てば、わたしの首が庭園に転がっていたかもしれない。

 椅子に腰を下ろし、深く息を吐く。

 「……やはり、ここでは限界があるか」

 すると、戸を叩く音がした。

 「……入れ」

 軋む扉の向こうから、黒衣の男が静かに現れた。

 「お久しぶりですね、ダンガー子爵」

 その男の名は、レスター=グラスゴー。

 ノルド魔法王国の南部を治める名家グラスゴー家の三男。貴族ではあるが、裏の世界にも通じた危険な男だ。

 「来るとは思っていたが、早かったな」

 「ええ、失敗の報せはすぐに届きました。……さて、カール=キリトとセリア=ノルド、始末は?」

 「できていれば、今ごろ祝杯でも上げている」

 レスターがふう、と肩をすくめる。

 「ゼノが動いたか。やっかいだ。あの男は“仕留めるべき対象”として我々も警戒している。……だが、チャンスはまだあります」

 「……続けろ」

 レスターは懐から、手のひらほどの黒い小箱を取り出した。

 「ノルドに、おびき寄せるのです。ゼノはフリューゲン王国の軍人、わたしたちの“土俵”には来れないでしょう。そうなれば、相手をするのは、カールたちだけになる。ならば、あなたは勝てるでしょう」

 「おびき寄せる? 奴が来るとは限らん」

 「来ますよ、“これ”を使えば」

 小箱をテーブルに置く。ダンガーは慎重に蓋を開けた。

 中には、白銀の指輪が一つ、眠るように収まっていた。だが、その輝きには何か不穏な気配がある。

 「これは……?」

 「“眠りの指輪”です。魔族の手で作られた呪いの道具。これを身につけた者は、深い眠りにつき、二度と自力では目覚めることができません」

 「……永久に?」

 「そうです“指輪を外しても”目覚めません。これは“肉体”ではなく、“魂”に作用するもの。特殊な魔術か、創造者と同等の魔族の力がなければ、解除は不可能です」

 ダンガーは思わず唾を飲み込んだ。

 「これを……カールの女に?」

 「ええ。セリア=ノルドでも、あのリアナでも構いません。彼の“最も弱いところ”に、罠を仕掛けるのです」

 レスターは薄く笑った。

 「カールは正義感が強く、情に脆い。大切な者のためなら、危険でも飛び込む。……その習性を、利用するのです」

 「だが……どうやって渡す?」

 「それについては、あなたに“心強い手駒”がいるではありませんか」

 レスターの目が、愉快そうに細まる。

 ダンガーもすぐに理解した。

 「……リリス=ヴァレンタインか」

 「ええ。あの女なら、今や家からも見放され、あなた以外にすがれる相手はいない」

 「……なるほど」

 ダンガーは指輪の入った箱をじっと見つめる。

 「“目覚めない眠り”か。これは……使えるな」

 「リリスに接触し、指輪を“贈り物”として渡すのです。カールに近づける機会があるのは、あの女くらいでしょう」

 「奴が警戒を解くとは思えんが……セリアなら、あるいは」

 「それに、リリスも望んでいるはずです。セリアを失墜させ、再び社交界で“光”を取り戻すことを」

 ダンガーは口元に笑みを浮かべた。

 「フッ……あの愚かな女も、ついに使い道ができたか」

 レスターが再び口を開く。

 「準備が整い次第、我々はノルドで待ちます。セリアが指輪をはめたとき、カールは必ず来る。――そのときこそ、終わらせましょう」

 「……ああ、必ず」

 闇の中、二人の男が交わす静かな契約。

 “愛”を“呪い”に変える指輪が、運命の歯車を狂わせようとしていた。
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