婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

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第90話 静かな夜に、そっと灯る言葉 ― カールとリアナの語らい

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『静かな夜に、そっと灯る言葉 ― カールとリアナの語らい』


 焚き火が消えて、皆がそれぞれの寝床へと戻った頃。夜の浜辺には、再び静寂が訪れていた。

 月は高く、海面を淡く照らしている。寄せては返す波の音が、心を洗うように響いていた。

 カールはひとり、砂浜の岩に腰掛けて、海を眺めていた。

 考えごとをしていた。明日のこと、これからの旅路のこと、そして――仲間たちのこと。

 そこへ、軽い足音が近づいてきた。

「……カール、まだ起きてたのね」

 声をかけてきたのはリアナだった。

 彼女は薄手の羽織を肩にかけ、ゆっくりと彼の隣に腰を下ろした。

「どうしたんだ、リアナ。もう寝たと思ってた」

「ふふ……あなたこそ、ね」

 月明かりに照らされたリアナの横顔は、昼間よりもずっと大人びて見えた。

「……眠れなかった。今日、楽しかったから……それが終わってしまうのが、ちょっと寂しくて」

 リアナは、波の方を見つめながら小さく呟いた。

「私ね、最近よく思うの。――“永遠”って、あるのかなって」

「永遠?」

「うん。こういう時間や、気持ちって……どれも、いつかは終わってしまうものでしょう?」

 海から吹く風が、彼女の銀髪をさらりと揺らす。

「でも、終わるとわかっていても……私は、あなたといたい。もっと、ずっと」

「……リアナ」

「ねえ、カール。私はあなたが好きよ。これまでも、そして今も」

 言葉は穏やかだった。だが、その奥には、確かな熱が込められていた。

 リアナはカールの顔を見ない。ただ、海を見ながら静かに語る。

「あなたは、優しくて、強くて。誰よりも私たちを想ってくれる。だからこそ……私も、あなたの力になりたいって、ずっと思ってきた」

「お前はもう、十分に俺の力になってる」

「そう? ……それでも、もっと近くにいたいって思ってしまうのは、私のわがままなのかしら」

 カールは答えなかった。

 リアナの言葉は真っすぐだった。でも、それにどう答えればいいのか……まだ、答えは出なかった。

「セリアも、エミリーゼも、きっと同じ気持ちを抱えてる。……私たちはみんな、あなたの“たった一人”になりたいって思ってる」

「……」

「でも、それでもいいの。私は、ただこうして、あなたの隣にいられるだけでも幸せだから」

 ようやくリアナは、ゆっくりとカールの方を見た。

 瞳は澄んでいて、迷いのない光が宿っていた。

「私は、あなただけを見てる。誰かと比べたり、駆け引きをしたりなんて、しない。ただ、あなたが笑っていられるように、傍にいたい。それが私の、願いだから」

 月光が、二人の間に柔らかな光を落とす。

 カールはその瞳を、しっかりと見つめ返した。

「……リアナ。ありがとう。お前がそう言ってくれるのが、俺は……本当に、嬉しい」

「……でも、今はまだ、選べないんでしょう?」

「……ああ。情けないかもしれないが……誰か一人だけを選ぶには、まだ決心がつかない」

 リアナはふっと微笑む。

「ううん、それでいいの。あなたがあなたらしくいてくれれば、それでいい。私、そんなあなたが好きだから」

 潮騒の音が、ふたりの間をやさしく包み込んだ。

 風が吹くたびに、リアナの羽織が揺れ、銀の髪が頬に触れる。

「カール、お願いがあるの」

「……なんだ?」

「今日は、手を握って。答えが出るまででもいい。……この時間だけは、私を“選んで”くれない?」

 その願いに、カールは迷わず手を伸ばした。

 リアナの手は少しだけ冷たかった。でも、その中に確かな温もりがあった。

「……ありがとう」

 リアナは目を閉じて、静かにその手に指を絡める。

 時間がゆっくりと流れる。ふたりだけの、静かな夜。

 波音と風の音に包まれて、語られた想いは――確かに、心に刻まれた。
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