婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

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第91話  星降る浜辺で ― セリアとカールの語り合い

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『星降る浜辺で ― セリアとカールの語り合い』


 月が西に傾き始めた頃、再び浜辺に足音が響いた。

 静かに近づいてきたのは、セリアだった。
 彼女は淡い藍色のケープを羽織り、風になびく金髪を抑えながら、カールのそばへと歩み寄る。

「……もう、リアナとは話し終わったの?」

 その声音には嫉妬や責める色はなく、ただ静かな興味が込められていた。

「見てたのか?」

「もちろん。彼女、嬉しそうだったもの……手、握ってたわね」

 カールは小さくため息をつき、笑った。

「……悪いと思ってる」

「ううん、いいの。リアナがどんな想いで、ああして言葉を紡いだか、私も分かってるから」

 セリアはカールの隣に腰を下ろし、夜の海を見つめた。
 波は静かに寄せ、また返す。夜空には星がひとつ、またひとつと瞬いている。

「ねえ、カール。私、あなたの隣にいるのって……正直、いつも怖いの」

「怖い?」

「うん。あなたのことが好きだからこそ、怖いのよ。誰よりも近くにいるつもりでいても、いつか置いて行かれるんじゃないかって」

 セリアは膝を抱き、ぽつりと続ける。

「あなたは、どこまでも前に進んでしまう人だから。私が気づかないうちに、もっと大きな世界へ行って、……私の手が届かなくなってしまうんじゃないかって、時々思うの」

「……そんなこと、あるもんか」

「……だったら、ちゃんと約束して」

 セリアはカールをまっすぐに見つめた。
 その瞳には、まるで子供のような不安と、少女のような真剣さが同居していた。

「私を置いていかないって。誰かと比べたり、順番をつけたりする前に……私のこと、ちゃんと見ててくれるって」

「……セリア」

 カールはその視線から目を逸らすことができなかった。

 リアナが真っ直ぐに想いを語ったように、セリアもまた、言葉以上のものを込めて想いを伝えていた。

「……俺は、お前のことを大切に思ってる。誰よりも近くにいて、何度も助けられた。戦いでも、日常でも……お前がいたから、俺はここに立っていられる」

「じゃあ、なぜ選ばないの?」

 セリアの声には怒りも涙もなかった。ただ、静かな問いかけだった。

「リアナのことも、エミリーゼのこともわかってる。ルゥだって、あんなにあなたを信じてる。……でも、私は――」

 言葉を切って、セリアは目を伏せた。

「私は、あなたと一緒に未来を描きたい。どんな結末になってもいい。あなたと笑って、泣いて、戦って、歩んで……最後に、“セリアでよかった”って言ってもらえるなら、それだけで、私は……」

 その肩が、小さく震えていた。

 カールは、そっと手を伸ばしてセリアの手を握った。
 それはさっき、リアナに握られた手と同じだった。

 でも、セリアの手は彼にとってもっとも馴染みのある温もりだった。

「セリア。……ありがとう。お前がいてくれて、本当に良かった。お前の言葉は、俺にとって支えだ」

「……だったら、そばにいて」

 セリアはそっと微笑んだ。その笑みは、今にも消えてしまいそうな儚さを湛えていた。

「恋人でも、冒険の仲間でもいい。何者でもなくても……私は、カールのそばにいたいの」

 そのとき、空から星が一筋流れた。

 まるで、彼女の願いに応えるかのように。

 カールはふと、彼女の肩を抱いた。

「……もう少しだけ、このままでいよう」

「うん……」

 セリアはその胸に身を預けた。

 波の音が、ふたりの沈黙を包む。言葉よりも温もりが、何よりも確かな答えだった。

「カール」

「なんだ?」

「私、あなたの最初の仲間だったでしょう?」

「ああ、そうだな」

「じゃあ……最後まで、私があなたの隣にいても、いい?」

 その問いに、カールは答えず、強く彼女を抱きしめた。

 それが彼なりの答えだった。

 ――星降る夜の浜辺で。ふたりはただ、寄り添いながら未来を想った。
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