婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!

山田 バルス

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第51話 リノ、グランディア王国の王城で決意する!

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《歌姫の外遊と、迷いの旋律 ――疑念の王城にて》

 グランディア王国の王城は、かつて訪れた時よりも、どこか冷たい風が吹いているように思えた。

 破損した馬車の代わりに、王都から迎えに来た騎馬隊の先導でレオニスとリノは王城へと戻った。門をくぐるとすぐに、豪奢な内装と厳粛な空気が二人を迎えたが、その荘厳さはどこか仮面じみていて――リノは、またあの琥珀色の瞳に背筋を凍らせていた。

 大広間に入ると、そこには待ち構えていたアレクシス殿下の姿があった。

「ようこそ、お帰りなさい。道中、大変な目に遭ったと聞きました。……盗賊とは、我が国の恥。どうかご無事で何よりです」

 その声色は柔らかく、まるで友の帰還を喜ぶような響きを持っていたが――リノの心には、不思議なざらつきが残った。やはり、あの瞳は笑っていない。

「殿下、助力に感謝します。あのままでは森での野営を余儀なくされていた。我々のために兵を送ってくださり、礼を申し上げます」

 レオニスは礼節を忘れずに頭を下げた。

「当然のことですとも。リノ嬢は我が国を癒してくださった“奇跡”ですから。……さあ、どうかごゆっくりとお休みください」

 歓迎の言葉とは裏腹に、リノはその場に身を置いているだけで息苦しさを覚えた。

 ***

 夜、レオニスは密かにアレクシスとの会談の席に臨んだ。

 豪華な応接間には香が焚かれ、甘い香りが鼻をくすぐる。

「改めて、リノ嬢の件では感謝しています。彼女の歌は確かに兵の心を支えてくれた。しかし――」

 アレクシスの声がわずかに低くなる。

「貴殿が王都へ戻るには、護衛が必要でしょう。だが……現在、我が国も内政が不穏でして。多くの兵を割くことは困難です」

 その言葉に、レオニスはわずかに眉をひそめた。

「……なるほど。では、少数の兵をお借りして我が国に戻り、改めて王国から援軍を率いて戻るという形では――」

 アレクシスは沈黙し、少し考えるように目を伏せた。

「……それが最善でしょうな。だが条件があります」

 レオニスが静かに頷く。

「どうかおっしゃってください」

「リノ嬢は、しばし我が城に留め置かせていただきたい。民も彼女の歌を求めていますし、王都の兵士たちにも癒しが必要です。安全は私が保証します」

 その言葉に、レオニスは目を伏せて悩んだ。アレクシスの意図は明白だった――彼女を“外交の人質”とし、フリューゲル王国の出方を窺うつもりなのだ。

 しかし、ここで下手に断れば関係が悪化する可能性もある。

「……リノには、私から話しましょう」

「お任せします」

 アレクシスの瞳がわずかに細まり、何かを見透かすように笑った。

 ***

「えっ……置いていくの?」

 リノの声が、細く震えていた。レオニスは静かにうなずいた。

「君がここに残るのは不本意だ。だが、我が国に戻るにはこの治安が悪化している国を抜けるには、兵が足りない。多くの兵を借りることも難しい。自国に戻って兵を集めて戻ってくる。その間、君がいてくれれば……王族としての面目も保てる。アレクシス殿下は君を手厚く保護すると言っている」

「でも……私、あの人が怖いの。また“道具”みたいに思われてる気がして……。私、また階段から落とされるんじゃないかって……」 

 リノの言葉に、レオニスは目を見開いた。彼女の恐怖は根深いものだと、改めて突きつけられた。

「リノ……君が本当に嫌なら、俺は無理にとは言わない。でも、ここを抜けて王国に戻るには日数がかかる。しかもこの地の情勢も不安定で君の安全が保障できない」

 リノは唇を噛み、両手を握りしめた。

「わかったわ……行って。私、大丈夫。逃げない。怖いけど……逃げたくないの。レオが戻ってくるって信じられるから」

 その言葉に、レオニスは目を細め、リノの肩に手を置いた。

「必ず、迎えに来る。君を絶対に一人にはしない」

 それは誓いだった。

 国を背負う王子としてではなく、愛する人への誓い。

 ***

 翌朝。

 少数の精鋭騎士を率いたレオニス王子は、王国への帰路についた。

 リノはアレクシス王子の手厚い“保護”の名のもと、王城に残されることとなった。

 城の最上階、かつて客人をもてなすために設けられた特別な客室――そこにリノは滞在を許されていた。けれど、出入りする侍女たちの目はどこかぎこちなく、まるで“監視”するかのようだった。

(……閉じ込められてる?)

 その疑念が芽を出し始めたとき、アレクシス王子が現れる。

「お目覚めでしたか、リノ嬢。……今日は、王都広場で子どもたちのために歌っていただけますか?」

 その笑顔はやはり、どこか嘘を孕んでいる。

 リノは微笑みを返したが、心の内では小さな声がささやいていた。

(この人は、私の歌が欲しいだけ。……それ以外の“私”には興味がない)

 王子は去り際、ふと彼女に向かって言った。

「貴女の歌があれば、国は安定します。そして、私が王になることも……」


「え……?」


 言いかけた彼女の前で、扉が静かに閉まった。

 その音はまるで、運命の檻が軋む音のようだった。

 
 ***
 

 一方、フリューゲル王国への帰還途中のレオニスは、馬を走らせながらリノの不安げな表情を思い出していた。

(早く戻らなければ。あの目は……本当に、危うい)


 風が強く吹き、木々を揺らす。

 その風はまるで、これから起きる嵐の前触れのようだった――
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