婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

文字の大きさ
24 / 179

第24話 ダリル=ベルトレインの断罪

しおりを挟む
ダリル・ベルトレインは、かつてマケドニア聖教国の神殿に仕える神官だった。

 神に仕え、祈りを捧げ、清貧と誠実をもって人々に導きを与えることを、その胸に誓った。

 彼は優秀だった。若くして祭文の解釈に通じ、教義の講話にも長け、何よりその温厚な性格と沈着さから、聖女セレスティアの側近――いわば聖女付きの神官という重責を任されることになった。

 聖女といっても、神の奇跡を体現するような荘厳な存在ではなかった。セレスティアはまだ十八の若さで、金糸のような長髪と、氷のような蒼い瞳を持つ、どこか儚げな少女だった。

 だが、彼女は不思議な魅力を持っていた。

 清らかでありながら人を惹きつける声。すれ違う者すべてが膝をつくような威厳。そして、なにより、神託を受ける「器」としての資質を、誰もが疑わなかった。

 ――あの日までは。

 事件が起きたのは、春の終わり。神殿の周囲に咲く白百合が風に揺れ、儀式の準備が始まる頃だった。

 その日、ダリルは偶然、立ち入りを禁じられていた聖女の私室の裏庭に足を踏み入れてしまった。

 そこで彼が目撃したのは――

「……あれが、次の王族の婚約者の姿?」

「そうよ。表向きはね。でも中身は、わたしの妹。もうすぐテオドリック王国は、わたしたちのものになるわ」

 柔らかい声。

 それは紛れもなく、聖女セレスティアのものだった。

 だが彼女の目の前にいるのは、角を生やし、ローブに身を包んだ、肌が青白く、瞳が真紅に光る男だった。

 魔族だ――。

 疑う余地もなかった。

 震える指先で口を押さえ、ダリルは身を引こうとしたが、乾いた枝を踏んでしまった。

「……誰か、いた?」

 鋭い視線が向けられ、ダリルは息を呑んだ。

 だがそのときは、何とか姿を見られずに立ち去ることができた。

 そして翌日、ダリルは意を決して、大司教ガルモンドにすべてを訴えた。

「……聖女殿が、魔族と……?」

「はい。拙者の見間違いではありません。あの魔族は、東のテオドリック王国の王族の婚約者令嬢に成りすまし、王国を乗っ取ろうとしていました。そして、聖女殿は……彼女らの協力者です!」

 大司教は初め、驚いた表情を浮かべていた。

 だが――

「……残念だ、ダリル」

 その言葉とともに、ガルモンドは無慈悲な声で言い放った。

「貴公は、聖女殿に対して反逆を企てた。虚偽の告発は、大罪に値する」

「なっ……!? 何を……!」

「すべて、聖女殿より聞き及んでいる。貴公が最近、不審な行動を繰り返し、彼女に対して不敬な態度を取っていたこともな」

「それは違います! 拙者は真実を――!」

「黙れ」

 その瞬間、ガルモンドの目が、わずかに紅く光った。

 それを見たとき、ダリルはすべてを悟った。

(……この人も、魔族に操られている……!)

 神殿の中枢が、すでに魔族の手に落ちているという事実に、血の気が引いた。

「ダリル・セリウス、お前には聖女殿に対する反逆の罪がある。よって、神殿より追放とし、いかなる職位も剥奪する。再び聖教の地に足を踏み入れることは許されぬ」

「それは……! 拙者は……!」

 何を言っても、無意味だった。

 そのまま、彼は神殿の衛兵に取り囲まれ、呆然としたまま、聖都を追われた。

 長年仕えてきた神殿、信じていた聖女、そして、清らかであるはずの聖教国――

 そのすべてが、音を立てて崩れ去った瞬間だった。

 ダリルは、その後も聖都の外に留まり、何度か証拠を探そうとした。

 だが、魔族は用意周到だった。

 裏付けになる書類はすべて燃やされ、彼に味方してくれた神官も、次々に失踪あるいは不審死を遂げた。ダリルにも死の予感を感じる出来事があった。

 あの国は、もう神の国ではない。

 神を騙る、魔の巣窟そうくつだ――。

 だからこそ、ダリルはあの日、川に入ったのだ。

 心を砕かれ、使命も、居場所も、未来も失った彼に、もはや生きる意味はなかった。

 だが、皮肉なことに――その命を、今や共に旅をする二人に救われてしまった。

 ナルシストでおかしな男と、鋭い突っ込みを忘れない少女。

 彼らが自分を川から引き上げたことが、果たして正解だったのか、それは分からない。

 ただ――

「この命、無駄にはしません。あの聖教国の真実を、世に知らしめるために……」

 今のダリルには、それだけが残された祈りだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...