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第30話 シャルル元殿下視点、エリーゼ捜索隊
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シャルル視点:崩壊の始まり
その報は、まるで氷の刃のように胸を突き刺した。
──黒魔の森。捜索隊、帰還。生存者、確認できず。現場には、血濡れの布切れと大量の血痕のみ。
唇が、自然と震えていた。
「……嘘だ」
誰に向けた言葉だったのか、自分でもわからなかった。ただ、それが現実であることを受け入れられなかった。否、受け入れてはならないと、本能が叫んでいた。
玉座の間に響く足音、兵士たちのざわめき、王の怒気……何もかもが遠い。
まるで、世界が自分だけを置き去りにして、崩れていくようだった。
「シャルル殿下、しっかり……!」
傍らのカリーナの声すら、耳に届いていない。
彼女が泣いていたかどうかも、覚えていない。
ただ、脳裏に浮かんだのは、あの広間で涙を流していたエリーゼの顔。
──縛り上げられ、無様に崩れ落ちた少女の姿。
あれが、最後だった。
「……俺が……」
唇から漏れた言葉は、誰にも聞かれていなかった。
誰にも聞かれなくてよかった。誰かに聞かれていたら、自分はその場で崩れていただろう。
王に王位継承権を剥奪されたときでさえ、まだ、どこかで“俺は正しかった”と信じていた。
カリーナが言ったこと、廷臣が流した噂──“エリーゼは陰湿で冷たい女だった”という言葉を、まるで自分の防壁のように信じていた。
だが。
「エリーゼが、死んだ……?」
口にした瞬間、胃の奥から何かがこみ上げてきた。苦い吐き気。だが吐き出すことすらできない。
黒魔の森。魔獣の巣。人の立ち入ることすら禁じられた呪われた地。
そこに、生身の少女を追放するという行為が、どれほどの意味を持つか。
考えるまでもなかった。──死ね、ということだった。
「そんな……俺は、そこまで……」
だが、やったのだ。自分の口で、王命も待たず、一方的に“追放”を宣言したのだ。
なぜ、そこまでしてしまったのか。
──嫉妬か。
いや、恐れだった。
エリーゼの静かな気高さが、カリーナを、そして自分を脅かしていたのだ。
彼女は自分を必要としなかった。媚びることもなかった。ただ毅然と、どんな場面でも芯を持って立っていた。
そんな彼女を、どうしても手元に置いておけなかった。
それが、自分の小ささを晒すことになるとわかっていても。
「俺は、間違っていた……」
膝が、崩れそうだった。
床に手をつき、初めてわかった。
──エリーゼは、すべてを黙って受け入れたのだ。誇りも、家も、未来も奪われながら、最後まで言い訳ひとつしなかった。
何よりも強かったのは、俺ではなく、彼女だった。
それに気づいたときには、もう遅かった。
「エリーゼ……」
その名を呼んでも、もう返事は返ってこない。
捜索隊の報告では、血の量は“致死に至る”ほどだったという。
だが、遺体は見つかっていない。
ただの布切れではなく、彼女が最後に着ていた薄青のドレスの一部。王家に献上されたフリューゲル製の逸品──その色を、俺はよく覚えていた。
森の中で、それが黒く染まっていたと、報告書には書かれていた。
彼女が、最後に何を思ったかを考えるのが怖かった。
──誰にも助けられず、絶望の中で、あの美しい目がどれほどの苦しみを浮かべたか。
「……生きていてくれ」
わずかな希望に、縋るように祈った。
もし、もしまだ息をしているのなら、謝りたい。何度でも、土下座でも、命を賭けてでも。
けれど、彼女が本当に死んでいたなら──
自分の人生は、そこで終わる。
王位継承者の資格を失い、誇りも名誉も、自らの手で地に落とした。
残るのは、彼女を殺したという罪だけ。
自分が“王子”として生まれた意味も、存在も、全てが無だったと証明される。
「終わりたくない……」
震える声で呟いた。だが、誰も答えなかった。
答えられるわけがなかった。彼が壊したのは、人一人の命と、ひとつの未来なのだから。
祈るように天を仰いだ。
もし神がいるなら、今こそ罰ではなく、赦しを──いや、それすらおこがましい。
せめて、彼女がどこかで生きていてくれさえすれば。
謝ることができるなら、それだけでいい。
そのために、自分のすべてを賭けるつもりだった。
「お願いだ……エリーゼ……生きていてくれ……!」
涙が、零れていた。
王子として生きてきた十余年、そのすべてが意味を失うほどに。
ただ、彼女の一命が欲しかった。生きていてくれれば、それだけでよかったのだと、今さら思い知ったのだった。
その報は、まるで氷の刃のように胸を突き刺した。
──黒魔の森。捜索隊、帰還。生存者、確認できず。現場には、血濡れの布切れと大量の血痕のみ。
唇が、自然と震えていた。
「……嘘だ」
誰に向けた言葉だったのか、自分でもわからなかった。ただ、それが現実であることを受け入れられなかった。否、受け入れてはならないと、本能が叫んでいた。
玉座の間に響く足音、兵士たちのざわめき、王の怒気……何もかもが遠い。
まるで、世界が自分だけを置き去りにして、崩れていくようだった。
「シャルル殿下、しっかり……!」
傍らのカリーナの声すら、耳に届いていない。
彼女が泣いていたかどうかも、覚えていない。
ただ、脳裏に浮かんだのは、あの広間で涙を流していたエリーゼの顔。
──縛り上げられ、無様に崩れ落ちた少女の姿。
あれが、最後だった。
「……俺が……」
唇から漏れた言葉は、誰にも聞かれていなかった。
誰にも聞かれなくてよかった。誰かに聞かれていたら、自分はその場で崩れていただろう。
王に王位継承権を剥奪されたときでさえ、まだ、どこかで“俺は正しかった”と信じていた。
カリーナが言ったこと、廷臣が流した噂──“エリーゼは陰湿で冷たい女だった”という言葉を、まるで自分の防壁のように信じていた。
だが。
「エリーゼが、死んだ……?」
口にした瞬間、胃の奥から何かがこみ上げてきた。苦い吐き気。だが吐き出すことすらできない。
黒魔の森。魔獣の巣。人の立ち入ることすら禁じられた呪われた地。
そこに、生身の少女を追放するという行為が、どれほどの意味を持つか。
考えるまでもなかった。──死ね、ということだった。
「そんな……俺は、そこまで……」
だが、やったのだ。自分の口で、王命も待たず、一方的に“追放”を宣言したのだ。
なぜ、そこまでしてしまったのか。
──嫉妬か。
いや、恐れだった。
エリーゼの静かな気高さが、カリーナを、そして自分を脅かしていたのだ。
彼女は自分を必要としなかった。媚びることもなかった。ただ毅然と、どんな場面でも芯を持って立っていた。
そんな彼女を、どうしても手元に置いておけなかった。
それが、自分の小ささを晒すことになるとわかっていても。
「俺は、間違っていた……」
膝が、崩れそうだった。
床に手をつき、初めてわかった。
──エリーゼは、すべてを黙って受け入れたのだ。誇りも、家も、未来も奪われながら、最後まで言い訳ひとつしなかった。
何よりも強かったのは、俺ではなく、彼女だった。
それに気づいたときには、もう遅かった。
「エリーゼ……」
その名を呼んでも、もう返事は返ってこない。
捜索隊の報告では、血の量は“致死に至る”ほどだったという。
だが、遺体は見つかっていない。
ただの布切れではなく、彼女が最後に着ていた薄青のドレスの一部。王家に献上されたフリューゲル製の逸品──その色を、俺はよく覚えていた。
森の中で、それが黒く染まっていたと、報告書には書かれていた。
彼女が、最後に何を思ったかを考えるのが怖かった。
──誰にも助けられず、絶望の中で、あの美しい目がどれほどの苦しみを浮かべたか。
「……生きていてくれ」
わずかな希望に、縋るように祈った。
もし、もしまだ息をしているのなら、謝りたい。何度でも、土下座でも、命を賭けてでも。
けれど、彼女が本当に死んでいたなら──
自分の人生は、そこで終わる。
王位継承者の資格を失い、誇りも名誉も、自らの手で地に落とした。
残るのは、彼女を殺したという罪だけ。
自分が“王子”として生まれた意味も、存在も、全てが無だったと証明される。
「終わりたくない……」
震える声で呟いた。だが、誰も答えなかった。
答えられるわけがなかった。彼が壊したのは、人一人の命と、ひとつの未来なのだから。
祈るように天を仰いだ。
もし神がいるなら、今こそ罰ではなく、赦しを──いや、それすらおこがましい。
せめて、彼女がどこかで生きていてくれさえすれば。
謝ることができるなら、それだけでいい。
そのために、自分のすべてを賭けるつもりだった。
「お願いだ……エリーゼ……生きていてくれ……!」
涙が、零れていた。
王子として生きてきた十余年、そのすべてが意味を失うほどに。
ただ、彼女の一命が欲しかった。生きていてくれれば、それだけでよかったのだと、今さら思い知ったのだった。
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