34 / 179
第34話 ドワーフ村の少年トルのお話
しおりを挟む
村の片隅、木工細工の道具が並ぶ作業小屋の軒先で、小さなドワーフの少年が目を輝かせていた。名前はトル。まだ十歳にも満たないが、父親譲りの器用な手先を持ち、よく村の大人たちの仕事を眺めていた。
けれどこの日ばかりは、トルの視線はサーペントと、それを持ち帰った三人の旅人に釘付けだった。
「すっげぇ……ほんとに倒しちまったんだ……」
トルの言葉に、隣の友達も大きくうなずいた。
「あのお姉ちゃん、ピカピカの腕と足してたな」
「それに、あの金髪のお兄ちゃん、めっちゃかっこつけてた!」
「眼鏡のおじちゃんは……ちょっと元気なかった?」
村の広場では、既にお祭りが始まっていたが、トルは興奮冷めやらぬまま、小さな心の中で三人の印象を反芻していた。
まず、エリーゼ。
彼女が魔法の袋から取り出したサーペントは、まるで岩山の化け物のようだった。それを軽々と持ち上げたエリーゼの金色の右腕と、銀色の左足が陽光を反射して光り輝いた瞬間、トルは思わず息を呑んだ。
(……かっこいい。あんなふうになりたい)
エリーゼの柔らかな笑顔と、子供にも優しく接する態度は、トルの心に強く焼きついた。彼女が串焼きを美味しそうに食べながら、村の若者に剣術の心得を語っている姿は、まるで物語の中の剣聖そのものだった。
次に、アリスター。
金髪をなびかせ、貴族のような物腰で葡萄酒を嗜むその姿は、まさしく「おとぎ話のお兄さん」だった。最初はナルシストにしか見えなかったけれど、火を操る魔法で料理を仕上げたり、村の子供たちに光の魔法で小さな花火を見せてくれたりするたびに、トルはその凄さに舌を巻いた。
「ボクの美学は、いつだって華やかさと実用性の両立さ」
そんな言葉も、トルには不思議と嫌味には聞こえなかった。
そして、ダリル。
最初は「暗そうなおじさん」だと思った。けれど、宴の後、怪我をした子供にやさしく回復魔法をかけたり、村の年寄りと静かに話している姿を見て、トルは印象を改めた。
「……拙者などより、もっと相応しい者が……」
そんなふうに自分を卑下する言葉を口にしながらも、誰よりも周囲を気にかけ、そっと支えている姿が、じんわりと胸に残った。
夜、トルは家の縁側に座り、夜空を見上げながら父に話した。
「父ちゃん。オイラ、大きくなったら、あんな旅人になりたい」
父親は笑いながら、トルの頭を撫でた。
「剣の姉ちゃんか? 魔法の兄ちゃんか? それとも……あの眼鏡の神官か?」
トルは少し悩んで、にかっと笑った。
「ぜんぶ、だよ!」
父親は驚いたように目を丸くしたが、やがてゆっくりと頷いた。
「それなら、よく見て、よく学べ。あの三人は、きっと過去に傷を持ってる。けど、それを抱えたまま、前に進もうとしてる。お前も、そんなふうに生きられたら、立派なもんだ」
ドワーフの村に、一つの物語が根付いた日。
それは、少年の夢となり、未来の希望となった。
いつかトルが旅に出る日が来たならば、その背中には、金の光、銀の誓い、そして静かな祈りが宿っているだろう。
けれどこの日ばかりは、トルの視線はサーペントと、それを持ち帰った三人の旅人に釘付けだった。
「すっげぇ……ほんとに倒しちまったんだ……」
トルの言葉に、隣の友達も大きくうなずいた。
「あのお姉ちゃん、ピカピカの腕と足してたな」
「それに、あの金髪のお兄ちゃん、めっちゃかっこつけてた!」
「眼鏡のおじちゃんは……ちょっと元気なかった?」
村の広場では、既にお祭りが始まっていたが、トルは興奮冷めやらぬまま、小さな心の中で三人の印象を反芻していた。
まず、エリーゼ。
彼女が魔法の袋から取り出したサーペントは、まるで岩山の化け物のようだった。それを軽々と持ち上げたエリーゼの金色の右腕と、銀色の左足が陽光を反射して光り輝いた瞬間、トルは思わず息を呑んだ。
(……かっこいい。あんなふうになりたい)
エリーゼの柔らかな笑顔と、子供にも優しく接する態度は、トルの心に強く焼きついた。彼女が串焼きを美味しそうに食べながら、村の若者に剣術の心得を語っている姿は、まるで物語の中の剣聖そのものだった。
次に、アリスター。
金髪をなびかせ、貴族のような物腰で葡萄酒を嗜むその姿は、まさしく「おとぎ話のお兄さん」だった。最初はナルシストにしか見えなかったけれど、火を操る魔法で料理を仕上げたり、村の子供たちに光の魔法で小さな花火を見せてくれたりするたびに、トルはその凄さに舌を巻いた。
「ボクの美学は、いつだって華やかさと実用性の両立さ」
そんな言葉も、トルには不思議と嫌味には聞こえなかった。
そして、ダリル。
最初は「暗そうなおじさん」だと思った。けれど、宴の後、怪我をした子供にやさしく回復魔法をかけたり、村の年寄りと静かに話している姿を見て、トルは印象を改めた。
「……拙者などより、もっと相応しい者が……」
そんなふうに自分を卑下する言葉を口にしながらも、誰よりも周囲を気にかけ、そっと支えている姿が、じんわりと胸に残った。
夜、トルは家の縁側に座り、夜空を見上げながら父に話した。
「父ちゃん。オイラ、大きくなったら、あんな旅人になりたい」
父親は笑いながら、トルの頭を撫でた。
「剣の姉ちゃんか? 魔法の兄ちゃんか? それとも……あの眼鏡の神官か?」
トルは少し悩んで、にかっと笑った。
「ぜんぶ、だよ!」
父親は驚いたように目を丸くしたが、やがてゆっくりと頷いた。
「それなら、よく見て、よく学べ。あの三人は、きっと過去に傷を持ってる。けど、それを抱えたまま、前に進もうとしてる。お前も、そんなふうに生きられたら、立派なもんだ」
ドワーフの村に、一つの物語が根付いた日。
それは、少年の夢となり、未来の希望となった。
いつかトルが旅に出る日が来たならば、その背中には、金の光、銀の誓い、そして静かな祈りが宿っているだろう。
63
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます
天田れおぽん
ファンタジー
ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。
ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。
サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める――――
※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?
向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。
というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。
私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。
だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。
戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる