婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第51話 冒険者の街――リグレット観光

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翌朝、薄曇りの空の下、スプレーマムの四人は冒険者の街――リグレットの中心通りに立っていた。

「ふふん! どうだ、これがオレのホーム、リグレットだ!」

 黒髪で筋骨隆々、上半身は軽く鎧を羽織っただけのマスキュラーが、胸を張って街並みを指し示す。通りには、荷を運ぶゴブリン商人や、低級ダンジョン帰りらしき若い冒険者たちの姿が溢れ、店々からはスパイスや油の香りが漂っていた。

「意外とにぎやかねぇ、わたし、こういう活気ある街って好きだよ!」

 エリーゼ=アルセリアは桃色の髪を跳ねさせながら笑った。銀の左足が街石をコツコツと打ち、まるでリズムを刻んでいるようだった。

「ボクとしては、もう少し清潔感のある路地を希望したいところだけど……まあ、旅の情緒というやつか」

 金髪をかき上げたアリスターが、ナイーブな表情を浮かべる。ふわりと香る高級香水の香りが場違いで、それがまた彼らしい。

「拙者、すでに胃が痛うござる……この騒がしさ、人の多さ……うぅ……」

 ダリル=ベルトレインは青い髪に銀縁の眼鏡をかけ、背をすぼめていた。ローブの袖口を握りしめ、まるで小動物のようにキョロキョロと周囲を警戒している。

「おいおい、まずは腹ごしらえだろ? リグレットに来たら、名物“黒角牛の炙り串”だ!」

 マスキュラーがぐいっと先頭に立ち、街の中央広場へと進む。屋台がひしめき合い、香ばしい煙が立ち込める中、彼は慣れた手つきで屋台の親父に声をかける。

「よう、親父! こいつら、オレの仲間だ。いつもの、四本頼む!」

「へいっ!」

 差し出された炙り串は、滴る脂に塩とスパイスが絡まり、香ばしい香りを放っていた。

「ん~、うんまっ! 柔らかいし、スパイスの効きが絶妙~!」

 エリーゼが頬をふくらませながら満面の笑みを浮かべる。

「この風味……異国の香りと、野生の暴力性が融合している。悪くはないね」

 アリスターは串を口元に運びつつ、鼻をひくつかせて吟味している。

「……脂が、胃に……胃に来るぅ……!」

 ダリルは二口目で沈黙し、ローブの袖から薬草の小瓶を取り出して飲み干していた。

「よっしゃ、次はオレのオススメ“ダンジョンの壁の展示館”だ!」

 マスキュラーが向かった先は、かつて実際に攻略された中級ダンジョンの“本物の壁”を移築した観光スポットだった。魔力結晶の残滓や魔物の爪痕がそのまま残り、冒険者志望の若者たちが群がっている。

「わたし、こういうの見ると燃えてくるのよね。次のダンジョンはもっと奥まで行ってみたいな~!」

 エリーゼが目を輝かせる。

「その前に装備の点検が必要だね。ボクの魔具、前回のバジリスク戦でかなり劣化してる」

「ふ、拙者の聖印も……いや、そもそも装備以前に心の準備が……」

「準備ってのはな、動きながらやるもんだ。考えすぎると足が止まるぜ?」

 マスキュラーは、自らの過去を重ねるように、静かに呟いた。

 スプレーマムの面々はその言葉に一瞬だけ黙り込む。C級パーティーを追放されたという彼の過去を、皆が知っている。だが、今はそれを口にしない。

 その後、一行は鍛冶屋街、魔具店通りを巡り、エリーゼがフェンリルの力で店先の魔法道具を吹き飛ばしかけて店主に土下座する事件や、アリスターが高級魔杖の試し打ちで壁に穴を開ける騒ぎ、ダリルがうっかり入った占い店で「あなた、前世で事故死してますね」と言われて泡を吹く事件など、観光とは思えぬ騒動をいくつも起こしつつ――

 夕暮れには、リグレットの西門近くの丘へと向かった。

「おい、ここから見る夕日がな、最高なんだよ」

 マスキュラーが指差す先、赤く染まったリグレットの街並みが、夕焼けに包まれていた。石造りの建物たちが金色の縁取りを受け、賑わいも静けさへと変わりつつある。

「きれい……」

 エリーゼが呟いたその声は、どこか遠くを思うように柔らかく、切なげだった。

「ボクたちも、こうやって、少しずつ進んでいけるのかな」

 アリスターがぽつりと呟く。彼の横顔には、王子だった頃の面影と、今の旅人としての穏やかさが同居していた。

「進まねば……拙者たちは、すべて失ってきたゆえに……この一歩が、たしかなるものであらねば、なり申さぬ……」

 ダリルの言葉に、誰もが頷いた。

「……なんだよ、センチになってんのか?」

 マスキュラーは笑って、背後の街へと親指を向ける。

「でもよ。オレにとっては、この街も、仲間も、全部“拾いもん”だ。だからこそ、今度は……オレが守りてぇって思ってる」

 それは、彼なりの誓いだった。

 旅路の途中、冤罪や失墜、追放の痛みを抱えながらも、それぞれが進み続けている。ここリグレットの一日もまた、その記憶のひとつとして、スプレーマムの心に刻まれていくのだった。

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