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第60話 エリーゼの気持ち
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アリスターの言葉が、耳から離れなかった。
「君が好きだよ、エリーゼ」
その一言が、まっすぐに胸の奥を突いた。
エリーゼは部屋の扉をそっと閉めると、そのまま壁にもたれて息を吐いた。何気ないように見えて、その声には、揺るぎない意志と想いが込められていた。からかわれているわけでも、気まぐれでもない。あのナルシストな魔法使いが、真剣に自分の名を呼び、想いを口にしたのだ。
「……ずるいよ、あんなの」
誰にも聞こえないように、ぽつりとこぼした。彼の言葉を否定できないまま、エリーゼはベッドに身を沈めた。毛布にくるまり、目を閉じようとしても、まぶたの裏に浮かぶのは彼の笑顔。金色の髪が月の光を反射し、まるで幻のようにきらめいている。
――好きだよ。
その一言が、胸の奥で何度も反響する。
その想いに応えたい気持ちは、確かにある。だが、それ以上に、足がすくむような不安が心を縛っていた。
「……前にも、あったな。こんなこと」
ぽつりと呟くと、ふいに記憶の扉が開いた。
前世。剣道に打ち込んでいた、あの頃の自分。
県大会の決勝で勝ち、仲間と抱き合って泣いた日。やっと掴んだ全国大会への切符。夏の日差しの中、道場の床が汗と涙で光っていた。顧問の先生も、家族も喜んでくれた。あの瞬間、全ての努力が報われたように思えた。
その日の放課後だった。
「話があるんだ、ちょっと……いいかな?」
同じ剣道部の男子。いつも真面目で、無口で、だけど時折見せる笑顔が印象的だった。練習試合で何度も竹刀を交えたこともあった。彼に道場の裏へと呼び出され、夕焼けに染まる空の下、彼は震える声で言った。
「こんな時にごめん……でも、言わなきゃ後悔すると思ったんだ。ずっと、君が好きだった」
言葉が胸を打った。照れ隠しのように下を向く彼の姿は、誠実そのものだった。
「返事は、今じゃなくていい。全国大会が終わってからでも……」
そう言って、彼は深く頭を下げた。
突然の告白。嬉しかった。でも、あまりにも唐突で、エリーゼ――いや、当時の“私”は、何も言えなかった。ただ、震える声で「少し、考えさせて」とだけ告げた。
彼の言葉に応えなかったことを、ずっと後悔していた。
そして、その後。
全国大会へ向かう朝。バスの出発時間に遅れそうになり、慌てて家を飛び出した。道場に集合する予定だったが、その途中で、事故は起きた。
赤信号を無視した車。スニーカーの音。視界がぐるりと回って、世界が急に白くなった。
――気がついたら、エリーゼはこの世界にいた。
「……言えなかったんだ、結局。あのときも」
心のどこかに残っていた後悔。あのとき、ちゃんと向き合っていれば、違う未来があったかもしれない。でも、それを果たせなかった。命をかけて打ち込んだ剣道も、大切な仲間たちも、好きだった人も、全部、置き去りにして。
――そんな風にして終わるのは、もう嫌だった。
だからこそ、今度はちゃんと向き合いたいと思っていた。けれど、心のどこかがまだ怯えている。
(アリスターの想いに応えるって、どういうこと?)
心臓が速くなる。彼の姿を思い浮かべるたびに、胸がきゅっと締めつけられる。それはきっと、恋だとわかっている。彼の言葉に、ちゃんと返したい。でも――
「今、返事をして……もしまた、失うことになったら……」
戦いの世界だ。いつ命を落とすか、誰にもわからない。彼に応えたその直後、失ってしまったら。そう思うと、怖くて仕方がなかった。
「好き……なのにね」
唇に浮かんだその言葉は、誰にも聞こえないように、そっと闇に溶けていった。
――あの告白よりも、ずっとドキドキしている。
でも、今はまだ、答えを出す時じゃない。
「この旅が終わって、世界が少しでも平和になって……そしたら、ちゃんと伝える」
そう誓うように、自分の胸に手を当てる。
(今度こそ、後悔しないように)
彼に向き合うために。誰かの想いを受け止めるために。
そして、今度はちゃんと――自分の想いも伝えるために。
エリーゼはそっと目を閉じた。まぶたの裏には、彼の笑顔が浮かんでいた。誰よりも優しくて、強くて、ちょっぴり子供っぽいあの笑顔が。
「だから、待っててね……アリスター」
星の光が静かに揺れ、夜の帳が部屋を包み込んだ。彼女の決意をそっと抱きしめるように。
「君が好きだよ、エリーゼ」
その一言が、まっすぐに胸の奥を突いた。
エリーゼは部屋の扉をそっと閉めると、そのまま壁にもたれて息を吐いた。何気ないように見えて、その声には、揺るぎない意志と想いが込められていた。からかわれているわけでも、気まぐれでもない。あのナルシストな魔法使いが、真剣に自分の名を呼び、想いを口にしたのだ。
「……ずるいよ、あんなの」
誰にも聞こえないように、ぽつりとこぼした。彼の言葉を否定できないまま、エリーゼはベッドに身を沈めた。毛布にくるまり、目を閉じようとしても、まぶたの裏に浮かぶのは彼の笑顔。金色の髪が月の光を反射し、まるで幻のようにきらめいている。
――好きだよ。
その一言が、胸の奥で何度も反響する。
その想いに応えたい気持ちは、確かにある。だが、それ以上に、足がすくむような不安が心を縛っていた。
「……前にも、あったな。こんなこと」
ぽつりと呟くと、ふいに記憶の扉が開いた。
前世。剣道に打ち込んでいた、あの頃の自分。
県大会の決勝で勝ち、仲間と抱き合って泣いた日。やっと掴んだ全国大会への切符。夏の日差しの中、道場の床が汗と涙で光っていた。顧問の先生も、家族も喜んでくれた。あの瞬間、全ての努力が報われたように思えた。
その日の放課後だった。
「話があるんだ、ちょっと……いいかな?」
同じ剣道部の男子。いつも真面目で、無口で、だけど時折見せる笑顔が印象的だった。練習試合で何度も竹刀を交えたこともあった。彼に道場の裏へと呼び出され、夕焼けに染まる空の下、彼は震える声で言った。
「こんな時にごめん……でも、言わなきゃ後悔すると思ったんだ。ずっと、君が好きだった」
言葉が胸を打った。照れ隠しのように下を向く彼の姿は、誠実そのものだった。
「返事は、今じゃなくていい。全国大会が終わってからでも……」
そう言って、彼は深く頭を下げた。
突然の告白。嬉しかった。でも、あまりにも唐突で、エリーゼ――いや、当時の“私”は、何も言えなかった。ただ、震える声で「少し、考えさせて」とだけ告げた。
彼の言葉に応えなかったことを、ずっと後悔していた。
そして、その後。
全国大会へ向かう朝。バスの出発時間に遅れそうになり、慌てて家を飛び出した。道場に集合する予定だったが、その途中で、事故は起きた。
赤信号を無視した車。スニーカーの音。視界がぐるりと回って、世界が急に白くなった。
――気がついたら、エリーゼはこの世界にいた。
「……言えなかったんだ、結局。あのときも」
心のどこかに残っていた後悔。あのとき、ちゃんと向き合っていれば、違う未来があったかもしれない。でも、それを果たせなかった。命をかけて打ち込んだ剣道も、大切な仲間たちも、好きだった人も、全部、置き去りにして。
――そんな風にして終わるのは、もう嫌だった。
だからこそ、今度はちゃんと向き合いたいと思っていた。けれど、心のどこかがまだ怯えている。
(アリスターの想いに応えるって、どういうこと?)
心臓が速くなる。彼の姿を思い浮かべるたびに、胸がきゅっと締めつけられる。それはきっと、恋だとわかっている。彼の言葉に、ちゃんと返したい。でも――
「今、返事をして……もしまた、失うことになったら……」
戦いの世界だ。いつ命を落とすか、誰にもわからない。彼に応えたその直後、失ってしまったら。そう思うと、怖くて仕方がなかった。
「好き……なのにね」
唇に浮かんだその言葉は、誰にも聞こえないように、そっと闇に溶けていった。
――あの告白よりも、ずっとドキドキしている。
でも、今はまだ、答えを出す時じゃない。
「この旅が終わって、世界が少しでも平和になって……そしたら、ちゃんと伝える」
そう誓うように、自分の胸に手を当てる。
(今度こそ、後悔しないように)
彼に向き合うために。誰かの想いを受け止めるために。
そして、今度はちゃんと――自分の想いも伝えるために。
エリーゼはそっと目を閉じた。まぶたの裏には、彼の笑顔が浮かんでいた。誰よりも優しくて、強くて、ちょっぴり子供っぽいあの笑顔が。
「だから、待っててね……アリスター」
星の光が静かに揺れ、夜の帳が部屋を包み込んだ。彼女の決意をそっと抱きしめるように。
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