婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第59話 アリスターの告白

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ダリルが静かに一礼して、そっと扉の向こうへと戻っていった。

 扉が閉まる音が、夜の静寂に吸い込まれていく。

 エリーゼはしばらくその場に立ち尽くしていた。夜空を見上げる。星々は、何も語らず、ただそこにあった。

 (本当に……あの人は、強いな)

 聖女を想う心も、過去と向き合おうとする覚悟も。

 気づけば、胸の奥が少し熱かった。

 そのとき、再び扉がそっと開いた。

「……アリスター?」

 金色の髪が月明かりを受けてきらめいた。ゆっくりと現れたのは、自称「ボク」の魔法使いだった。白と紺の装束に身を包み、相変わらず気品に満ちているが、どこか様子が違って見える。

「やっぱり、ここにいたんだね。……ダリルとは、もう話し終わった?」

「あ、うん。さっき戻ったよ。……もしかして、探してた?」

 エリーゼの問いに、アリスターは一瞬言葉を詰まらせた。だが、すぐにいつもの調子で微笑みを浮かべる。

「まぁ、そうとも言えるかな。君が夜空を見上げてるときって、大抵……何かを抱えてるときだから」

「……ふふ。そういうの、よく見てるね」

「ボクは、観察力も鋭いからね」

 エリーゼは小さく笑い、柵にもたれたままアリスターに視線を移した。彼は隣に立ち、星空を仰ぐ。

 「綺麗だね、星空。……何だか、全部見透かされてるみたい」

「うん。……なのに、何も教えてはくれないんだよね」

「そうだね」

 しばらくの沈黙が流れた。遠く、街の灯りが瞬いている。風が二人の髪を揺らした。

「さっき、ダリルと何を話してたの?」

「クラリス様のこと……それから、あの国のこと」

「そう……あの国、ね」

 アリスターは、少しだけ目を伏せる。そして、ふとエリーゼのほうを見た。

「……エリーゼ、君はどうなんだ?」

「え?」

「ボクたちみんな、いろいろな過去を抱えてる。でも、君のことは……ちゃんと聞いたことがなかった気がする。君は、怖くないの? またあの地に足を踏み入れるのが」

「……怖くないって言えば、嘘になるよ。でも……」

 言葉を探すように、エリーゼは空を見上げた。

「でもね。わたし、あのとき確かに思ったの。“もう二度と、あんなふうに誰かを失いたくない”って。……わたしは、この手で、守れるようになりたいの。たとえ何度だって、立ち向かってやるって」

 その言葉に、アリスターは微笑んだ。だが、どこか寂しげだった。

「……やっぱり、君は強いね。ボクなんかより、ずっと」

「え? 何かあったの、アリスター?」

 エリーゼの問いに、アリスターはふっと苦笑した。そして、まっすぐに彼女の瞳を見つめた。

「エリーゼ。ちょっとだけ、聞いてくれるかな。……ボクの、わがままを」

「……うん」

 アリスターは、一歩前に出て、両手をポケットに入れたまま、静かに言葉を紡いだ。

「ボクはね。ずっと、自分のことしか信じてなかった。自分の美貌、自分の才能、自分の未来……ボク以外の誰かを、こんなにも想う日が来るなんて、正直、思ってもみなかった」

 エリーゼは、少しだけ目を見開いた。

「それが誰なのかは、もう君には……わかってるのかもしれない。でも、戦いを前にして、どうしても言っておきたかったんだ」

 金色のまつげが夜風に揺れる。

「……ボクは、君が好きだよ、エリーゼ。君の強さも、優しさも、笑顔も、全部――他の誰でもない、君が」

 エリーゼの口から、わずかに息が漏れた。

「……アリスター」

「もちろん、困らせたいわけじゃない。君には、君の思いがあるだろうし、ボクと誰かが結ばれることなんて、想像もしなかった。ただ……自分の気持ちに嘘をつくのは、もうやめたかったんだ」

 彼の瞳は、まっすぐにエリーゼを捉えていた。ナルシストの仮面を脱いだ、その奥にある素の想いが、夜風の中で確かに伝わってくる。

 言葉はすぐに出てこなかった。  
 胸の奥が、何か温かいもので満たされていくのを感じていた。  
 でも、それが“恋”なのか、“信頼”なのか、自分でもまだよくわからなかった。
「……ありがとう、アリスター。ちゃんと、受け取ったよ」

「……うん。それだけで、十分だよ」

 アリスターはふっと笑って、肩をすくめた。

「さ、そろそろ戻ろうか。明日も早いしね」

「……うん」

 ふたり並んで、扉のほうへ歩き出す。

 背中越しに、エリーゼはふと問いかけた。

「ねえ、アリスター」

「ん?」

「その“誰かを大切に思ったのは初めて”って……本当?」

 アリスターは足を止め、振り返らずに答えた。

「――本当だよ。今までは、自分のためにしか戦えなかった。でも、今は……君のために戦いたいと思ってる」

 その言葉は、月明かりよりも澄んで、星々よりもまっすぐだった。
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