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第67話 ロゼリアの港
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【港街の昼下がり】
密会の終わった翌日、ロゼリアの港は風にそよぐ潮の香りと、活気ある掛け声で満ちていた。
「でっけえ船だなあ! オレの背丈の十倍はあるぞ!」
港に到着するなり、マスキュラーは腕を組んで船を見上げた。積荷を載せた貨物船が何隻も碇泊し、水夫たちが甲板の上を忙しなく行き交っている。
「この地方の港としては最大級ですからね。ロゼリアの交易量は、南方諸国にも匹敵するそうです」
ダリルが眼鏡を押し上げて解説する。やや緊張を含んだ声ではあるが、その目は好奇に輝いていた。
「なるほどねぇ。活気のある港って好きよ、わたし」
エリーゼが楽しげに言い、潮風に桃色の髪をなびかせた。彼女の目はまるで子供のように輝き、周囲の屋台を物色している。
「……さて、諸君。まずは胃袋を満たして英気を養おう。ボクの情報によれば、この港には名物の“海鮮三宝焼き”というものがあるらしい」
アリスターは銀髪を指で梳きながら、すっかり観光客気分で胸を張った。
「海鮮三宝焼き、ですか?」とダリルが聞き返す。
「うむ、魚介三種──たとえば海蝦、帆立、白身魚を、特製の味噌ダレとともに焼き上げる料理だ。屋台で売っているらしいが、評判は上々。もちろん、ボクが吟味済みの情報さ」
「食おう! 食おうぜ!! オレ、朝から腹減ってたんだよ!」
マスキュラーが大声で叫び、エリーゼが笑いながら頷いた。
「行きましょう! その三宝焼き、絶対おいしいやつだよ!」
こうして、スプレーマムの一行は、港の屋台街に足を踏み入れた。
港に並ぶ屋台は、どれも威勢のいい声と香ばしい匂いで客を呼び込んでいた。焼き貝、煮魚、蒸し海老、そしてアリスターお目当ての三宝焼きも発見した。
「これが噂の……!」
思わずアリスターが身を乗り出す。炭火で焼かれた鉄板の上、ぷりぷりの海老、白くとろけそうな帆立、脂の乗った白身魚が、香ばしい味噌ダレとともにじゅうじゅうと音を立てていた。
「四人前! 頼む!」
マスキュラーが声を張ると、屋台の親父が親指を立てた。
「いい目をしてるね、兄ちゃん! 焼き立てはすぐ出すぜ!」
ほどなくして、手のひらほどもある木皿に盛られた三宝焼きが四人分、目の前に置かれた。
「……いただきます!」
エリーゼが両手を合わせると、他の三人も自然と同じ仕草をした。誰からともなく、笑顔がこぼれる。
「うまっ! このタレ、にんにくが効いててクセになる!」
「帆立が甘い……こ、これは……下手な宮廷料理より数段うまいぞ……!」
「海老の殻が香ばしい! ああ、こういうのだよ、こういうのが食いたかったんだよ!」
「ふふん、ボクの舌は確かだったろう? このロゼリア特製“海鮮三宝焼き”、名物と名乗るだけのことはある」
思い思いに舌鼓を打ちながら、スプレーマムの仲間たちは久しぶりの安らぎを感じていた。
ふと、ダリルがぽつりと呟いた。
「……こういう時間、久々ですね」
「ん?」とマスキュラーが聞き返す。
「何と言うか……死地へ向かう覚悟を語った後で、こうして笑いながら飯を食ってると、不思議な感じです」
「でも、こういう時間があるから、前に進めるんだと思う」
エリーゼが箸を止め、しみじみと呟く。
「わたし……昔、剣道部で合宿行ったときも、練習終わった後にみんなで飯食って笑って……そういうのが一番記憶に残ってる。今だって、似てる気がする」
アリスターが目を伏せ、そっと言った。
「ボクも……王宮にいた頃は、食事さえ味気なかった。こうして、何でもないように見える時間が、本当は一番尊いんだろうね」
「……オレは、もっと一緒にこうしていたいよ」
マスキュラーがぽつりと漏らしたその声は、誰にも向けたものでなく、ただ心からの本音だった。
だがエリーゼが、ふと彼の方を見てにっこりと笑った。
「じゃあ、また来よう。クラリス様の名誉を取り戻して、みんなで戻ってきて、今度はもっとゆっくり海鮮食べに来ようよ」
「……ああ」
その言葉に、全員が自然と頷いた。
空には白いカモメが舞い、遠くに出港する帆船が小さく波間に揺れていた。
スプレーマムの四人は、戦いの前の一時の平穏を、しっかりと胸に刻んだ。
密会の終わった翌日、ロゼリアの港は風にそよぐ潮の香りと、活気ある掛け声で満ちていた。
「でっけえ船だなあ! オレの背丈の十倍はあるぞ!」
港に到着するなり、マスキュラーは腕を組んで船を見上げた。積荷を載せた貨物船が何隻も碇泊し、水夫たちが甲板の上を忙しなく行き交っている。
「この地方の港としては最大級ですからね。ロゼリアの交易量は、南方諸国にも匹敵するそうです」
ダリルが眼鏡を押し上げて解説する。やや緊張を含んだ声ではあるが、その目は好奇に輝いていた。
「なるほどねぇ。活気のある港って好きよ、わたし」
エリーゼが楽しげに言い、潮風に桃色の髪をなびかせた。彼女の目はまるで子供のように輝き、周囲の屋台を物色している。
「……さて、諸君。まずは胃袋を満たして英気を養おう。ボクの情報によれば、この港には名物の“海鮮三宝焼き”というものがあるらしい」
アリスターは銀髪を指で梳きながら、すっかり観光客気分で胸を張った。
「海鮮三宝焼き、ですか?」とダリルが聞き返す。
「うむ、魚介三種──たとえば海蝦、帆立、白身魚を、特製の味噌ダレとともに焼き上げる料理だ。屋台で売っているらしいが、評判は上々。もちろん、ボクが吟味済みの情報さ」
「食おう! 食おうぜ!! オレ、朝から腹減ってたんだよ!」
マスキュラーが大声で叫び、エリーゼが笑いながら頷いた。
「行きましょう! その三宝焼き、絶対おいしいやつだよ!」
こうして、スプレーマムの一行は、港の屋台街に足を踏み入れた。
港に並ぶ屋台は、どれも威勢のいい声と香ばしい匂いで客を呼び込んでいた。焼き貝、煮魚、蒸し海老、そしてアリスターお目当ての三宝焼きも発見した。
「これが噂の……!」
思わずアリスターが身を乗り出す。炭火で焼かれた鉄板の上、ぷりぷりの海老、白くとろけそうな帆立、脂の乗った白身魚が、香ばしい味噌ダレとともにじゅうじゅうと音を立てていた。
「四人前! 頼む!」
マスキュラーが声を張ると、屋台の親父が親指を立てた。
「いい目をしてるね、兄ちゃん! 焼き立てはすぐ出すぜ!」
ほどなくして、手のひらほどもある木皿に盛られた三宝焼きが四人分、目の前に置かれた。
「……いただきます!」
エリーゼが両手を合わせると、他の三人も自然と同じ仕草をした。誰からともなく、笑顔がこぼれる。
「うまっ! このタレ、にんにくが効いててクセになる!」
「帆立が甘い……こ、これは……下手な宮廷料理より数段うまいぞ……!」
「海老の殻が香ばしい! ああ、こういうのだよ、こういうのが食いたかったんだよ!」
「ふふん、ボクの舌は確かだったろう? このロゼリア特製“海鮮三宝焼き”、名物と名乗るだけのことはある」
思い思いに舌鼓を打ちながら、スプレーマムの仲間たちは久しぶりの安らぎを感じていた。
ふと、ダリルがぽつりと呟いた。
「……こういう時間、久々ですね」
「ん?」とマスキュラーが聞き返す。
「何と言うか……死地へ向かう覚悟を語った後で、こうして笑いながら飯を食ってると、不思議な感じです」
「でも、こういう時間があるから、前に進めるんだと思う」
エリーゼが箸を止め、しみじみと呟く。
「わたし……昔、剣道部で合宿行ったときも、練習終わった後にみんなで飯食って笑って……そういうのが一番記憶に残ってる。今だって、似てる気がする」
アリスターが目を伏せ、そっと言った。
「ボクも……王宮にいた頃は、食事さえ味気なかった。こうして、何でもないように見える時間が、本当は一番尊いんだろうね」
「……オレは、もっと一緒にこうしていたいよ」
マスキュラーがぽつりと漏らしたその声は、誰にも向けたものでなく、ただ心からの本音だった。
だがエリーゼが、ふと彼の方を見てにっこりと笑った。
「じゃあ、また来よう。クラリス様の名誉を取り戻して、みんなで戻ってきて、今度はもっとゆっくり海鮮食べに来ようよ」
「……ああ」
その言葉に、全員が自然と頷いた。
空には白いカモメが舞い、遠くに出港する帆船が小さく波間に揺れていた。
スプレーマムの四人は、戦いの前の一時の平穏を、しっかりと胸に刻んだ。
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