婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

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第88話 3つの誓い 無実の者のために戦う

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【決起】――三つの誓いと、夜明けへの進軍
 冷え切った空気が、地下室の石壁をなぞるように流れていた。灯火の揺れが無音の波紋を描き、その中心に四人の影が静かに集っていた。

 アリスターは封筒を静かに開いた。中から現れたのは、三つの小さな水晶と、それぞれに添えられた羊皮紙の指示書。結界干渉型の魔術道具――「共鳴晶」。一度だけ、互いの位置と意志を伝達できる貴重な連絡手段だ。

 「これが今回の“鍵”になるよ」

 金髪の青年は、水晶を一つずつ仲間に渡していく。仕草は演者が小道具を掲げるように優雅で、眼差しには緊張感を抑えた冷静さがあった。

 「共鳴晶は一度きり。使いどころは各自の判断に任せるけど、“決定的な瞬間”にだけ使って。無駄撃ちは許されない。僕たちが狙うのは三つ。結界の破壊、混乱の誘発、そして……リュシアンの罪の暴露と討滅。どれ一つとして欠けてはならない。正義は、偶然じゃ届かないからね」

 重い沈黙。だが、誰も退く気配はなかった。

 「ふふん、むしろ燃えてきたよ」

 桃色の髪を揺らし、エリーゼが笑みを浮かべる。金に輝く右腕と、銀に煌く左足。その身に宿すのは、金龍とフェンリル――伝説の二柱の精霊の加護。

 「この手足と一緒なら、どんな魔術結界だって、わたしが蹴り破ってみせる。だって、わたしは――“剣聖”なんだから!」

 「安心しな、控室ごとぶち壊して騒ぎ立ててやるからよ」

 黒髪の筋肉剣士――マスキュラが、拳をぐっと握って胸を叩く。

 「派手に暴れるのがオレの仕事。オレを追い出した奴らに見せてやるよ。ここが、オレの舞台だってな」

 「……拙者は、すでに覚悟を決めておりまする」

 最後に口を開いたのは、銀縁眼鏡の神官――ダリル=ベルトレインではなく、仮面の案内人ヴェルト。今は亡き弟、ルディアスの名をその胸に刻み、彼は静かに拳を握りしめていた。

 「リュシアンは、弟を火刑に処した仇。さらに聖女クラリス殿の魂まで踏みにじった……拙者の言葉は届かず、貴女を守れなかった……だからこそ、今度こそはこの手で、真実を伝えてみせまする」

 アリスターが手を差し出す。静かで、だが確かな決意を込めて。

 「誓おう。三つの誓いを」

 エリーゼが手を重ねた。

 「わたしたちは、無実の者のために戦う」

 続いてマスキュラが拳を重ねた。

 「俺たちは、弱きを切り捨てる力を許さない」

 そして最後に、ヴェルトがそっとその上に手を置いた。

 「我らが掲げるは、“真実の焔”。その灯火、絶やすまじ――」

 重なった四つの手に、言葉にできぬ熱が宿る。

 彼らはそれぞれ、冤罪により居場所を奪われた者たち。そして、再び“正義”を信じるために立ち上がった、名もなき英雄たちだった。

* * *

 作戦決行の前夜――

 それぞれが、最終の準備を進めていた。

 ヴェルトは、血の染み込んだ黒革の帳面を撫でながら、神官服に身を包んでいた。その帳面には、かつての同志が語った言葉が残されている。

 「……貴女の信じた“神”は、今どこにおわすのか。いや、違うな。貴女が信じた“人の正義”を、拙者がここで証明してみせましょうぞ」

 エリーゼは、剣の刃を静かに磨いていた。刃に浮かぶ金龍の紋が、静かに脈動する。精霊の力は、彼女の呼吸と共鳴しているかのようだった。

 「ねえ、龍さん、狼さん。あたし、本当は怖いよ。でもね、それでも進むんだ。“正義”は、誰かが進まないと届かないから」

 アリスターは、魔術道具の最終点検を続けていた。結界解析のための詠唱符、時間稼ぎの煙幕瓶、そして転移魔法陣の布石。

 「準備は舞台の要。完璧に仕上げて、ようやく“本番”に立てるのさ……ボクの魔術、舐めないでくれよ?」

 マスキュラは地下で筋力強化の呼吸法を繰り返しながら、剣技の型を一つひとつ丁寧になぞっていた。心を無にし、ただ己を鍛え直す。

 「オレを追い出したC級パーティーなんざ、もうどうでもいい。でも、今の仲間と一緒に戦えるってのが……オレにとっての一番の誇りだ」

* * *

 夜明け前の闇が、世界を覆う――

 彼らはそれぞれの潜入ルートへと散っていった。

 ヴェルトは司祭装束をまとい、聖灰殿の祭壇部へ。まだ誰もいない聖堂の中、彼はゆっくりと手帳を胸に当てた。

 「……ルディアス、見ていてくれ。仇はこの手で討つ。そしてクラリス殿、貴女の声をもう一度この世界に響かせる」

 マスキュラは護衛の鎧をまとい、控室外縁に潜伏。予め仕掛けた火薬玉へ導線を結びつけると、唇に笑みを浮かべた。

 「爆音で目を覚まさせてやるさ。オレたちの正義ってヤツをな」

 エリーゼは地下回廊を駆け、魔術結界の層を突破するルートを構築していた。右腕の金龍が鈍く光り、左足の銀狼が跳ねる。

 「わたしの剣は、何度でも立ち上がる剣。あたしの命が、誰かの未来につながるなら……それでいい!」

 そしてアリスターは、中央塔の上層で結界の魔力流を追っていた。すべての線が交わる“主軸”を目指して――

 「幕は上がった。主役はボクたちさ。リュシアン、君の“偽りの劇場”は、今夜で終わりだ」

 彼は共鳴晶を取り出すと、そっと囁いた。

 「――“スプレーマム、咲け”。それが、我らの合図さ」

 その瞬間、四人の瞳が、同時に強く、眩く、輝きを放った。

 闇は終わり、光が始まる。

 夜明けの一歩前、最も深い闇の底から、彼らの“正義”が、焔となって燃え上がる――。

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