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第140話 偽りの婚礼 まるで、別人のようだ
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偽りの婚礼
帝都の東方、断崖の上にそびえる古城“レヴァンシュ”。
かつて魔族との禁忌により滅びたルナティス家の居城が、今また帝国貴族の注目を集めていた。
今日ここで行われるのは、ランヴェール家の令嬢――アイラ・ド・ランヴェールと、若き官僚ユリウスとの婚礼。
参列者は帝国の重鎮ばかり。軍務卿、法務官、商業連合の代表が豪奢な衣装に身を包み、厳粛な面持ちで式の始まりを待っていた。
「……まさか、この城が再び使われるとは」
「皮肉なものだ。ルナティス家の滅亡からまだ幾年も経っていないのに」
そんな囁きが、扇や手袋の影に隠れるように交わされる。
その言葉には恐れと興味がない交ぜになっていた。
やがて、鈍い鐘の音が空気を震わせ、式の始まりを告げる。
重々しい扉が軋む音を立てて開き、純白のヴェールに包まれた花嫁が姿を現した。
アイラ・ド・ランヴェール。
しかし、その姿に参列者は息を呑んだ。
「……あれがアイラ嬢か?」
「まるで、別人のようだ……」
アイラは無表情に、正確すぎる足取りで祭壇へと進む。
その歩みは機械じみており、感情の欠片も感じられなかった。
かつて社交界を彩った令嬢の気配は、どこにもない。
新郎ユリウスは、整った顔立ちに冷静な微笑を貼りつけ、アイラの手を取った。
だがその指先は、微かに震えている。
式を見守る上段には、二人の主催者が並ぶ。
一人はテオドリック公爵アルスラーン。帝国の“盾”と称される男は、重々しい視線でアイラの動きを見つめていた。
もう一人は宰相クレメント・ユーグ。硬い表情のまま、両手をゆっくりと掲げる。
「本日ここに、帝国の未来を担うふたりの盟約が結ばれん」
その宣言と同時に、会場に微かな違和感が走る。
空気が重い。まるで何かがこの場を覆い隠しているような、粘着質な圧力。
参列者たちもそれを感じ取ったのか、沈黙が深くなっていく。
「妙ね……アイラ様、まるで魂を抜かれた人形のよう」
古参の貴族婦人が扇の陰から呟く。
その言葉に頷く者もいた。アイラは祭壇で誓いの言葉を口にしているはずなのに、その声は誰の耳にも届かない。
ユリウスも異常に気づいているのか、視線をそらし、口を引き結んだ。
その時だった。壇の上で、宰相クレメントがふと笑みを深める。
「この婚姻は、ただの契約にあらず。帝国の未来を導く、神聖なる盟約である」
まるでその裏に別の意味があると告げるような口ぶり。
参列者たちの背筋が凍る。
――これはただの結婚ではない。
誰もがそう確信しながらも、式を止めることはできなかった。不敬を恐れてか、あるいは何かに縛られているのか。
だが、次の瞬間。
沈黙を破る者がいた。
「――やはり、間に合ったようだな」
金髪の青年が立ち上がる。
テオドリック王国の元王子、彼の名はアリスター。スプレーマムの魔法使い。
場違いなその存在に、衛兵が動こうとした瞬間、彼は空中に紋を描き、呪文を唱えた。
「この女は、アイラではない。真実の精霊よ、現れよ!」
彼の指先が放つ光が、天井を突き抜けるように走る。
その輝きが花嫁の身体を包んだ瞬間――。
白銀の肌が音を立ててひび割れ、仮面のように砕け落ちた。
その隙間から溢れ出す禍々しい瘴気。人の身ではあり得ない何かが、内側から這い出ようとしていた。
「魂なき花嫁に、誰が誓える?」
アリスターの言葉が、剣より鋭く空間を裂いた。
即座に壇の奥から護衛兵たちが現れ、アリスターを取り囲もうとする。
だがその動きすら、彼の予想の内だった。
「スプレーマム、配置につけ。開戦は――今なり!」
アリスターの腕が再び輝きを放つ。
天井の梁からマスキュラーが飛び降り、剣を構える。
側廊からはエリーゼが駆け出し、眼前の敵に斬撃を浴びせる。
ダリルは詠唱を始め、結界を展開して市民を守る。
「あはははは、甘いな!」
その声が響くと共に、突然、煙が広がり、周囲が見えなくなった。
それはすべてが、最初から仕組まれていたかのように。
偽りの婚礼は崩れ落ち、今まさに“真実”が暴かれようとしていた――。
帝都の東方、断崖の上にそびえる古城“レヴァンシュ”。
かつて魔族との禁忌により滅びたルナティス家の居城が、今また帝国貴族の注目を集めていた。
今日ここで行われるのは、ランヴェール家の令嬢――アイラ・ド・ランヴェールと、若き官僚ユリウスとの婚礼。
参列者は帝国の重鎮ばかり。軍務卿、法務官、商業連合の代表が豪奢な衣装に身を包み、厳粛な面持ちで式の始まりを待っていた。
「……まさか、この城が再び使われるとは」
「皮肉なものだ。ルナティス家の滅亡からまだ幾年も経っていないのに」
そんな囁きが、扇や手袋の影に隠れるように交わされる。
その言葉には恐れと興味がない交ぜになっていた。
やがて、鈍い鐘の音が空気を震わせ、式の始まりを告げる。
重々しい扉が軋む音を立てて開き、純白のヴェールに包まれた花嫁が姿を現した。
アイラ・ド・ランヴェール。
しかし、その姿に参列者は息を呑んだ。
「……あれがアイラ嬢か?」
「まるで、別人のようだ……」
アイラは無表情に、正確すぎる足取りで祭壇へと進む。
その歩みは機械じみており、感情の欠片も感じられなかった。
かつて社交界を彩った令嬢の気配は、どこにもない。
新郎ユリウスは、整った顔立ちに冷静な微笑を貼りつけ、アイラの手を取った。
だがその指先は、微かに震えている。
式を見守る上段には、二人の主催者が並ぶ。
一人はテオドリック公爵アルスラーン。帝国の“盾”と称される男は、重々しい視線でアイラの動きを見つめていた。
もう一人は宰相クレメント・ユーグ。硬い表情のまま、両手をゆっくりと掲げる。
「本日ここに、帝国の未来を担うふたりの盟約が結ばれん」
その宣言と同時に、会場に微かな違和感が走る。
空気が重い。まるで何かがこの場を覆い隠しているような、粘着質な圧力。
参列者たちもそれを感じ取ったのか、沈黙が深くなっていく。
「妙ね……アイラ様、まるで魂を抜かれた人形のよう」
古参の貴族婦人が扇の陰から呟く。
その言葉に頷く者もいた。アイラは祭壇で誓いの言葉を口にしているはずなのに、その声は誰の耳にも届かない。
ユリウスも異常に気づいているのか、視線をそらし、口を引き結んだ。
その時だった。壇の上で、宰相クレメントがふと笑みを深める。
「この婚姻は、ただの契約にあらず。帝国の未来を導く、神聖なる盟約である」
まるでその裏に別の意味があると告げるような口ぶり。
参列者たちの背筋が凍る。
――これはただの結婚ではない。
誰もがそう確信しながらも、式を止めることはできなかった。不敬を恐れてか、あるいは何かに縛られているのか。
だが、次の瞬間。
沈黙を破る者がいた。
「――やはり、間に合ったようだな」
金髪の青年が立ち上がる。
テオドリック王国の元王子、彼の名はアリスター。スプレーマムの魔法使い。
場違いなその存在に、衛兵が動こうとした瞬間、彼は空中に紋を描き、呪文を唱えた。
「この女は、アイラではない。真実の精霊よ、現れよ!」
彼の指先が放つ光が、天井を突き抜けるように走る。
その輝きが花嫁の身体を包んだ瞬間――。
白銀の肌が音を立ててひび割れ、仮面のように砕け落ちた。
その隙間から溢れ出す禍々しい瘴気。人の身ではあり得ない何かが、内側から這い出ようとしていた。
「魂なき花嫁に、誰が誓える?」
アリスターの言葉が、剣より鋭く空間を裂いた。
即座に壇の奥から護衛兵たちが現れ、アリスターを取り囲もうとする。
だがその動きすら、彼の予想の内だった。
「スプレーマム、配置につけ。開戦は――今なり!」
アリスターの腕が再び輝きを放つ。
天井の梁からマスキュラーが飛び降り、剣を構える。
側廊からはエリーゼが駆け出し、眼前の敵に斬撃を浴びせる。
ダリルは詠唱を始め、結界を展開して市民を守る。
「あはははは、甘いな!」
その声が響くと共に、突然、煙が広がり、周囲が見えなくなった。
それはすべてが、最初から仕組まれていたかのように。
偽りの婚礼は崩れ落ち、今まさに“真実”が暴かれようとしていた――。
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