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第139話 アイラ・ド・ランヴェールの真実 “今のアイラ”は
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夜の帳が落ち、宿の窓の外には静寂な星空が広がっていた。
その夜、アリスターは窓際の椅子に腰かけ、手元の指輪を見つめていた。金と銀の細工が混ざり合ったその指輪は、彼がエリーゼに贈った婚約の証。けれど、その平穏すら揺るがす出来事が、目前に迫っていることを、彼自身、どこかで感じ取っていた。
――コン、コン。
ドアを叩く音。時計の針は、すでに深夜を回っていた。
「……開いているよ」
返事と共に扉が開かれ、仮面をつけた男――ヴェルトが現れた。
「遅くなってすまない。厳重な封印が多く、調べるのに手間取った」
「気にしていないよ。それより、君の顔を見ると、良くない話のようだね」
ヴェルトは軽くうなずき、足音も静かに部屋の中へと入る。手には巻物と数枚の羊皮紙、そして一通の手紙が握られていた。
「まず結論から言おう。お前がかつて“本物の婚約者”だと気にかけていた、アイラ・ド・ランヴェール嬢……彼女はすでに亡くなっていた。埋葬もされていた。正式な記録も確認済みだ」
アリスターの瞳が揺れた。
「……そんな。じゃあ、“今のアイラ”は――」
「偽物だ。正確には、名を騙る“魔族”。そして、ランヴェール家の夫妻も同様に……すでに命を落としていた。今は彼らの姿を借りた魔族が、堂々と宮廷に出入りしている」
信じがたい話だった。けれど、ヴェルトの声には一片の迷いもなかった。
そしてヴェルトは、一歩、扉の外へと戻って声をかけた。
「入ってくれ」
現れたのは、一人の青年だった。長身で、青みがかった銀髪を持ち、端整な顔立ち。けれどその目は、哀しみに沈んでいた。
「彼はソシエル・ド・ランヴェール。アイラの兄だ。本来なら、あの家の跡取りとなる人物だった」
「……兄が、生きていた?」
「襲撃の夜、たまたま外出していたらしい。戻ったときにはすでに屋敷が炎に包まれていた。屋敷にいた者は皆殺され、姿を奪われた。彼だけが生き残り、真実を抱えて逃げ延びた」
ソシエルは深く頭を下げた。
「……ご無礼をお許しください、お久しぶりです、殿下――いや、アリスター様。私の妹、そして両親が命を落としたことに、王都は何の声明も出せず、魔族の思惑に踊らされました。その責任の一端が、あなたを冤罪で追放した王宮にもあると知りながら……私には、あの偽物の『妹』を見過ごすことができなかった」
声が震えていた。けれどその瞳には、確かな決意が宿っていた。
「私は、偽りの婚姻式を潰すため、この計画に参加します。父と母、そして妹アイラの無念を、晴らさねばならない。……どうか、共に戦わせてください」
アリスターは、目を伏せたまま椅子から立ち上がる。
部屋には、一瞬、沈黙が流れた。
「――ありがとう」
その言葉は、絞り出すように、けれど確かに届いた。
「僕は、ずっと……わからなかったんだ。どうしてあの婚約が破棄されたのか。なぜ僕だけが汚名を着せられ、国を追われたのか。でも、今ならわかる。これは、すべて最初から仕組まれていた。僕の魔力が高すぎてこの計画を邪魔する可能性があった。そのため外された。追放し、王家から離してしまえば、王家の血と魔族の花嫁が婚姻を結ぶのが簡単になる」
「その通りだ」
とヴェルトが応じた。
「“レヴァンシュ”の旧ルナティス家の古城には、岩宿と繋がる古の封印装置がある。開放には“聖王家の血”と“婚姻の儀”が必要。その式典が間もなく、帝国の祝祭として行われる。……止められるのは、お前しかいない」
アリスターは、ゆっくりと首を振った。
「……違う。僕だけじゃない。もう一人、止めてくれる人がいる」
その声には、確信があった。
「エリーゼだ。彼女は、僕の妻で、最強の剣聖だ。彼女となら、どんな封印も、魔族の策略も、斬り払ってみせる」
静かに、けれど確かに熱を帯びていくその声に、ソシエルは一瞬、驚き、そして頷いた。
ヴェルトは仮面の下で笑う。
「ならば、すべてを話せ。彼女にも真実を。封印が解かれるのは、“婚礼の日”。あの偽物の“花嫁”を止めなければ、第二の魔王の誕生が現実になる」
「わかった。ありがとう、ヴェルト。……そして、君も、ソシエル」
アリスターは、手にした指輪を握りしめる。
「今度こそ、守るよ。国も、人も。過去に奪われたものすべて、取り戻す」
その瞳は、過去ではなく、未来を見据えていた。
この夜を境に、運命の歯車は大きく回り始める。
偽りの婚姻式。魔族の策略。封印の鍵。
――すべてを、終わらせるために。
その夜、アリスターは窓際の椅子に腰かけ、手元の指輪を見つめていた。金と銀の細工が混ざり合ったその指輪は、彼がエリーゼに贈った婚約の証。けれど、その平穏すら揺るがす出来事が、目前に迫っていることを、彼自身、どこかで感じ取っていた。
――コン、コン。
ドアを叩く音。時計の針は、すでに深夜を回っていた。
「……開いているよ」
返事と共に扉が開かれ、仮面をつけた男――ヴェルトが現れた。
「遅くなってすまない。厳重な封印が多く、調べるのに手間取った」
「気にしていないよ。それより、君の顔を見ると、良くない話のようだね」
ヴェルトは軽くうなずき、足音も静かに部屋の中へと入る。手には巻物と数枚の羊皮紙、そして一通の手紙が握られていた。
「まず結論から言おう。お前がかつて“本物の婚約者”だと気にかけていた、アイラ・ド・ランヴェール嬢……彼女はすでに亡くなっていた。埋葬もされていた。正式な記録も確認済みだ」
アリスターの瞳が揺れた。
「……そんな。じゃあ、“今のアイラ”は――」
「偽物だ。正確には、名を騙る“魔族”。そして、ランヴェール家の夫妻も同様に……すでに命を落としていた。今は彼らの姿を借りた魔族が、堂々と宮廷に出入りしている」
信じがたい話だった。けれど、ヴェルトの声には一片の迷いもなかった。
そしてヴェルトは、一歩、扉の外へと戻って声をかけた。
「入ってくれ」
現れたのは、一人の青年だった。長身で、青みがかった銀髪を持ち、端整な顔立ち。けれどその目は、哀しみに沈んでいた。
「彼はソシエル・ド・ランヴェール。アイラの兄だ。本来なら、あの家の跡取りとなる人物だった」
「……兄が、生きていた?」
「襲撃の夜、たまたま外出していたらしい。戻ったときにはすでに屋敷が炎に包まれていた。屋敷にいた者は皆殺され、姿を奪われた。彼だけが生き残り、真実を抱えて逃げ延びた」
ソシエルは深く頭を下げた。
「……ご無礼をお許しください、お久しぶりです、殿下――いや、アリスター様。私の妹、そして両親が命を落としたことに、王都は何の声明も出せず、魔族の思惑に踊らされました。その責任の一端が、あなたを冤罪で追放した王宮にもあると知りながら……私には、あの偽物の『妹』を見過ごすことができなかった」
声が震えていた。けれどその瞳には、確かな決意が宿っていた。
「私は、偽りの婚姻式を潰すため、この計画に参加します。父と母、そして妹アイラの無念を、晴らさねばならない。……どうか、共に戦わせてください」
アリスターは、目を伏せたまま椅子から立ち上がる。
部屋には、一瞬、沈黙が流れた。
「――ありがとう」
その言葉は、絞り出すように、けれど確かに届いた。
「僕は、ずっと……わからなかったんだ。どうしてあの婚約が破棄されたのか。なぜ僕だけが汚名を着せられ、国を追われたのか。でも、今ならわかる。これは、すべて最初から仕組まれていた。僕の魔力が高すぎてこの計画を邪魔する可能性があった。そのため外された。追放し、王家から離してしまえば、王家の血と魔族の花嫁が婚姻を結ぶのが簡単になる」
「その通りだ」
とヴェルトが応じた。
「“レヴァンシュ”の旧ルナティス家の古城には、岩宿と繋がる古の封印装置がある。開放には“聖王家の血”と“婚姻の儀”が必要。その式典が間もなく、帝国の祝祭として行われる。……止められるのは、お前しかいない」
アリスターは、ゆっくりと首を振った。
「……違う。僕だけじゃない。もう一人、止めてくれる人がいる」
その声には、確信があった。
「エリーゼだ。彼女は、僕の妻で、最強の剣聖だ。彼女となら、どんな封印も、魔族の策略も、斬り払ってみせる」
静かに、けれど確かに熱を帯びていくその声に、ソシエルは一瞬、驚き、そして頷いた。
ヴェルトは仮面の下で笑う。
「ならば、すべてを話せ。彼女にも真実を。封印が解かれるのは、“婚礼の日”。あの偽物の“花嫁”を止めなければ、第二の魔王の誕生が現実になる」
「わかった。ありがとう、ヴェルト。……そして、君も、ソシエル」
アリスターは、手にした指輪を握りしめる。
「今度こそ、守るよ。国も、人も。過去に奪われたものすべて、取り戻す」
その瞳は、過去ではなく、未来を見据えていた。
この夜を境に、運命の歯車は大きく回り始める。
偽りの婚姻式。魔族の策略。封印の鍵。
――すべてを、終わらせるために。
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