初恋の呪縛

泉南佳那

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1・秘めた想い

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「誰に惚れようが自由だけど。恋愛にうつつを抜かして仕事をおろそかにしないでよ」
「へーい」
「ほんとにわかってんだか……」

「でも、朱利先輩ずるいなあ。都築さんとは仲いいし、室長には可愛がられてるし……男運サイコーじゃないですか」
「うーん、でも肝心な彼氏には恵まれてないからねぇ」

 何しろ、ここ6年、ずっとフリー。
 入社2年目、販売員をしていたころ知り合った大学生と付き合ってみたけれど、3か月で自然消滅。

 以来、恋愛とは縁遠い生活を送り続けていた。

 それが何故なのか。
 実は、心当たりはありすぎるほどある。

「ガード固すぎるんですよ、先輩。それか、いい男に囲まれすぎてる弊害かも。他の人がくすんで見えちゃうとか」

 そう。佐藤室長と女子人気を二分しているのが、この都築だ。

「ねえ、朱利先輩って、ほんとに都築さんと1回もやっちゃったこと、ないんですか?」

 思わずコーヒーを吹きだしそうになった。
 ストレートすぎるだろ。おい。

「ないない。天地神明に誓ってない」
「でも、専門学校時代からの知り合いなんでしょ」

「うん。まさか、就職先まで一緒になるとは思ってなかったけどね。腐れ縁ってやつかな」

「そんな腐れ縁、羨ましいすぎますって。でも、よくあんなテストテロン全開のイケダンと、長い間、清い関係でいられますよね」

 おのれは盛りのついた雌ネコかと、どついてやろうかとも思ったけど、まともに受け取るのも大人げないのでやめておいた。

「都築に言ったら大笑いされるよ。わたし、女と思われてないから」

「でも、『わたしたち、ただの友だちですから』とか言ってるふたりが、突然付き合いだしたりするのが世の常ですけど……」

「ないって。第一、奴にはパートナーがいるし。それに都築のタイプはわたしと真逆の、女子力高い系だから」

「じゃ、わたし、いけます?」
「うーん、ま、わたしよりは可能性あるかもね」

「ほんとですかぁ? じゃ、アプローチしてみようかな。先輩、後から文句はなしですよ」
「どうぞご勝手に、ってわたしが許可出すことじゃないし」


「おーい、久保」
 室長に呼ばれ、話はそこまでになった。
「ちょっと来てくれる?」
「はーい」

 デスクまで行くと、都築もまだそこにいた。
「これさ、ちょっと練り直しくれる? こいつ、しつこくてさ」

「えっ、検討してくれるんすか。やった」
「室長が根負けするなんて珍しいですね」
「まあ、こいつの言うことも一理あるからさ」
 これ見よがしにその紙をひらひらさせながら、わたしは都築に文句を言った。

「もー、ただでさえ忙しいのに、余計な仕事増やさないでよ」

「わりー。頼むよ。その代わり、売り上げ倍増、約束するから」
「言ったな。ちゃんと覚えとくからな。そのセリフ」

 わたしたちが言い合うのを横目で見ながら、佐藤室長がぼそりとつぶやいた。

「仲いいな、相変わらず」
「いやー、ただ付き合い長いってだけで。なあ」
「そうそう」

「とか言って、そのあうんの呼吸、ほとんど夫婦めおと漫才だけど」
 室長の言葉に、やめてくださいよー、とふたり同時に言ってしまう。
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