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2・意外な告白
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しおりを挟むその日の午後7時過ぎ。
取引先との電話を終え、わたしはカバンを手にして席を立った。
「お疲れ」と隣の麻央に声をかける。
「わたしも帰るとこなんで、ご一緒します」
そう言う麻央と連れ立って、オフィスを後にした。
「あー、お腹空いた。朱利先輩、ご飯行きません?」
「ごめん。今日ちょっと先約あって」
「えっ、デートですか? 朱利先輩にもようやく春が……」
「違うよ。仕事絡み。室長から朝、ちょっと付き合ってって言われて。たぶん恵比寿の店舗視察だと思うけど」
「いいなあ。たとえ仕事でも室長と二人きりなんて」
「本当は今日ぐらい早く帰りたいとこだったんだけどね」
先週までの忙しさで、部屋は散らかり放題。
朝、家を出るとき、今日こそ片付けたいと思っていたのだけれど。
「わたしも参加させてもらおうかな……。ん? でも、ちょっと待ってください。店舗に行くのなんて、勤務時間内でいいですよね……やっぱデートのお誘いですよ、それ」
「なんで室長にデートに誘われるのよ」
「なんでって、フリーじゃないですか。おふたりとも」
「あんたは何でもそっちに結びつけるよね。おっと、もう行かなきゃ。実は約束の時間、だいぶ過ぎてるんだ」
「何にしても、明日の報告、お待ちしてまーす」
はい、はいと適当にいなして会社の前で麻央と別れた。
待ち合わせの『El Topo』 に着くと、ここに腰を据えるつもりなのか、佐藤室長は奥の個室に陣取っていた。
軽く一杯飲んで、恵比寿に移動するのかと思っていたんだけど、違うのかな。
「すみません。遅くなって」
「何かあった?」
「出掛けに河村繊維さんから確認の電話があって少し手間取りまして。でも、もう解決済みです」
「そう、ご苦労さん」
わたしは室長の向かいに腰を下ろした。
「サングリアで良かったよね。久保、いつもこれだろ?」
「はい。ありがとうございます」
たしかに、いつも決まってサングリアを頼む。
そんなこと、覚えてくれてるなんて。
この気配りの細やかさがモテる秘訣かな。
「ほんとに美味しいんですよ、ここの」
「そう? ちょっと甘すぎるように思うけど」
なんでこの人がいまだに独身でいるのか、うちの会社の七不思議の一つだ。
特に独身主義だって話も聞いたことないし。
わたしが席につくとすぐ、いつものバイトの女の子がお酒と料理を運んできた。
「ありがとう」
室長が愛想良く微笑みかけると、日頃、無愛想でニコリともしない彼女が顔を赤らめ、ワントーン高い声で「どうぞごゆっくり」と言って去っていった。
へえ、今までそんなこと、一度も言ったことないのに。
わたしは思わず吹き出した。
「何?」
「なんでもないです。ただ若い子もポーッとさせちゃうなんて、室長の破壊力、相当なもんだなと思っただけで」
室長は意外そうな顔をして、目をまたたかせた。
「ポーッとって。興味を持つわけないだろう。あんな若い子がこんなおっさんに」
「またまたご謙遜を」
でもこの人が言うと、嫌味にならないところが不思議だ。
普通、これだけモテれば鼻にかけそうなもんだけど。
それにしても、彼のお眼鏡に叶うのは、いったいどんな女性なんだろう。
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