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3・出会い
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しおりを挟む都築とはじめて言葉を交わしたのは、東都服飾専門学校1年の文化祭直後のこと。
当時、彼はクチュール専攻で、わたしはプロダクト・デザイン専攻。
専攻が違ったので、それまで接点はなかった。
ただ、わたしは一方的に都築を知っていた。
いや、おそらく彼を知らない1年女子はいなかっただろう。
何しろ、入学式の日から明らかに目立つ存在だったから。
190cmはありそうな長身にチャコール・グレーのスーツをまとった、モデルと見まがうその姿は、同い年とは思えないほど大人びていた。
その姿に心を奪われなかったといえば、嘘になる。
たまに校内で見かけると、遠くから目で追ったりもしていた。
クラスの子たちによれば、都築は先生方の間でも「数十年に一度の逸材」と目されているそうで……
とにかく、わたしにとってあまりに遠い存在だったから、親しく言葉を交わすようになるとは、これっぽっちも思ってなかった。
「久保あきとしって、このクラス?」
風の冷たい朝だった。
ホームルーム教室の前で、頭ひとつ分背の高い男子に声をかけられた。
見上げて驚く。
うわっ、都築くんじゃない⁉︎
えっ、なんで?
しかもよりによって、こんな風の強い朝に。
前髪が乱れまくってるし、たぶん鼻の頭も赤いはず。
内心ではドキドキしまくっていたけれど、なんとか顔に出さないようにして、わたしは答えた。
「久保ならわたしだけど、なんか用?」
都築は上から下へと視線を動かした。
そして、ちょっと首をひねった。
「お前が久保? 女だよな? それとも男?」
「女だよ。『あきとし』じゃなくて『朱利(あかり)』。昔からよく間違えられるけど」
「へえ、作品の印象で男だと思ったんだけどな。 まあ、どっちでもいいや」
都築は続けた。
「俺、クチュール専攻の都築。文化祭に出品してたあんたの作品、気に入ってさ。ねえ、俺と組んでコンペに出品しない?」
「コンペって? 今年の?」
「ああ」
そんなの、当然だろといった顔で都築は頷いた。
コンペは文化祭に次ぐ、この学校の名物イベント。
ファッションショー形式で行われ、採点を担うのは本校卒業生である著名なデザイナーたち。
学外でも知名度が高く、上位入賞すれば就職に断然有利なので、出品する学生はとても多い。
ただ、基本、参加者は2年生のみ。
それに締め切りまで、あと2カ月もない。
普通は1年かけて準備するものだから、どう考えても無謀な提案だ。
今からじゃとても無理じゃないの? と言おうとしたとき、都築は手にしていたクロッキー帳を広げた。
「なんかさ、久保の作品見たら、創作意欲が湧いてきちゃって。これ、デザイン画。月の女神ディアナのイメージ。で、久保に頼みたいのは、頭に飾る三日月をモチーフしたファシネーターなんだけど……」
断られることはまったく想定していないようで、都築は勝手に話を進めていく。
「ちょっと待ってよ。まだやるとも何とも言ってないけど」
「まあまあ。これ、見てって」
そう言って、わたしの鼻先に自分のクロッキー帳をつきつけた。
ずいぶん強引、と思いながら受け取り、そのページに目を落とした。
……すごい、何これ。
この人、本当に同い年?
一瞬、返事を忘れるほど、わたしはそのドローイングに見入った。
巨匠の作品として美術館に展示されていてもおかしくないほどの完成度の高さだ。
噂どおり、いや、噂以上にすごい人なんだ、都築くん。
クロッキー帳に描かれていたのは美しいドレープが特徴的な銀のイブニング・ドレスだった。
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