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3・出会い
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月のイメージというだけあって、クールで未来的だけどドレスらしいクラシカルな雰囲気もちゃんと残している。
たぶん、彼は頭に浮かんだデザインをダイレクトに絵に起こせるのだろう。
惚れ惚れするほどシャープでクリアな線がそれを物語っている。
「なあ、この服に合う帽子、作ってみたくない?」
一目見せればOKすると思っていたんだ。
どんだけ自信あるんだろう。
でも……このドレスが完成したところ、確かに見てみたい。
そして、わたしの作品がそこに加わる……のか。
「な、やろうぜ」
彼は腰をかがめて、長めの前髪を掻きあげながら、わたしの顔を覗きこんでくる。
やってみたいという気持ちと、無理だという気持ちが交錯する。
「でも、まだ1年だし。わたしたち」
「だから、余計にさ」と都築はすこし語気を強めた。
「グランプリ取ったらスゲーじゃん。伝説になる。でも、さすがに今から1人じゃ、作業量的に無理そうなんだ。頼む。力貸してよ。言ってみればあんたが俺をその気にさせたんだから、責任取ってよ」
「そんなこと言われても……」
うーん。
わたしは彼の姿をじっと見つめて考えた。
なんて自信家、なんて強引。
こんな人、初めて。
でも、この人に認められて、誘われるって……よく考えたらすごいことだよね。
そうだよ。
こんなチャンスをみすみす逃したら、後で後悔するのは必至だ。
「うん、じゃあ……わかった」
そう言うやいなや、都築の表情はパッと輝いた。
「で、でも自信ないから、明日までにラフ描いてくる。それ見てから都築くんが判断してよ。本当にわたしでいいかどうか」
その返事に満足したようで、都築は親しげに目を細めて頷いた。
そんな顔されちゃうと、今まで驚きが勝って引っ込んでいたドキドキが再燃して困る。
「いいよ。それで。じゃ、これ渡しとく」
都築はクロッキー帳を手渡した。
「あと、メルアド教えて」
「うん」
そして、授業が始まる直前、彼から早速メールが届いた。
――ラフ、楽しみにしてるからな!
ふーん。すぐにメール送ってきてくれるなんて、ちょっと意外。
本当の本気ってことなのか……
「朱利、何、にやけてんの?」
隣の席の友だちに言われ、わたしはあわてて携帯をしまった。
***
翌日、校内のカフェで待ち合わせ、徹夜で描いたラフを見せた。
「気に入らなければ、遠慮なく言って」
ちょっと緊張気味に念を押す。
彼は真剣な表情でページをめくりはじめた。
行きつ戻りつしながら、あるページを開いて、それをテーブルに置いた。
「俺の目に狂いはなかったな。とくに、これがいい」
それは十数点描いたなかで、わたしもいちばん気に入っているものだった。
都築はテーブルごしに手を伸ばした。
「改めて、よろしく」
「こちらこそ」
そのとき、気づいた。
あっ、指輪してる。
伸ばされた右手の薬指にシルバーのシンプルなリングが光っているのが目に入った。
イニシャルらしき刻印がされている。
どう見てもペアリングだよね、これ。
いるよね。彼女。
当たり前か。
外見も中身もこんなに魅力的な人だし。
いまさらそんなことにショックを受けている自分に呆れながら、わたしは彼の手を遠慮がちに握った。
「じゃ、また、メールするから」
「うん、わかった」
たぶん、彼は頭に浮かんだデザインをダイレクトに絵に起こせるのだろう。
惚れ惚れするほどシャープでクリアな線がそれを物語っている。
「なあ、この服に合う帽子、作ってみたくない?」
一目見せればOKすると思っていたんだ。
どんだけ自信あるんだろう。
でも……このドレスが完成したところ、確かに見てみたい。
そして、わたしの作品がそこに加わる……のか。
「な、やろうぜ」
彼は腰をかがめて、長めの前髪を掻きあげながら、わたしの顔を覗きこんでくる。
やってみたいという気持ちと、無理だという気持ちが交錯する。
「でも、まだ1年だし。わたしたち」
「だから、余計にさ」と都築はすこし語気を強めた。
「グランプリ取ったらスゲーじゃん。伝説になる。でも、さすがに今から1人じゃ、作業量的に無理そうなんだ。頼む。力貸してよ。言ってみればあんたが俺をその気にさせたんだから、責任取ってよ」
「そんなこと言われても……」
うーん。
わたしは彼の姿をじっと見つめて考えた。
なんて自信家、なんて強引。
こんな人、初めて。
でも、この人に認められて、誘われるって……よく考えたらすごいことだよね。
そうだよ。
こんなチャンスをみすみす逃したら、後で後悔するのは必至だ。
「うん、じゃあ……わかった」
そう言うやいなや、都築の表情はパッと輝いた。
「で、でも自信ないから、明日までにラフ描いてくる。それ見てから都築くんが判断してよ。本当にわたしでいいかどうか」
その返事に満足したようで、都築は親しげに目を細めて頷いた。
そんな顔されちゃうと、今まで驚きが勝って引っ込んでいたドキドキが再燃して困る。
「いいよ。それで。じゃ、これ渡しとく」
都築はクロッキー帳を手渡した。
「あと、メルアド教えて」
「うん」
そして、授業が始まる直前、彼から早速メールが届いた。
――ラフ、楽しみにしてるからな!
ふーん。すぐにメール送ってきてくれるなんて、ちょっと意外。
本当の本気ってことなのか……
「朱利、何、にやけてんの?」
隣の席の友だちに言われ、わたしはあわてて携帯をしまった。
***
翌日、校内のカフェで待ち合わせ、徹夜で描いたラフを見せた。
「気に入らなければ、遠慮なく言って」
ちょっと緊張気味に念を押す。
彼は真剣な表情でページをめくりはじめた。
行きつ戻りつしながら、あるページを開いて、それをテーブルに置いた。
「俺の目に狂いはなかったな。とくに、これがいい」
それは十数点描いたなかで、わたしもいちばん気に入っているものだった。
都築はテーブルごしに手を伸ばした。
「改めて、よろしく」
「こちらこそ」
そのとき、気づいた。
あっ、指輪してる。
伸ばされた右手の薬指にシルバーのシンプルなリングが光っているのが目に入った。
イニシャルらしき刻印がされている。
どう見てもペアリングだよね、これ。
いるよね。彼女。
当たり前か。
外見も中身もこんなに魅力的な人だし。
いまさらそんなことにショックを受けている自分に呆れながら、わたしは彼の手を遠慮がちに握った。
「じゃ、また、メールするから」
「うん、わかった」
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