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4・ファーストキス未遂
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しおりを挟む年が明け、さっそく次のコンペに向けて準備を始めることになった。
そして同じ頃、彼女のユキちゃんを紹介された。
都築の高校の同級生。
うちの専門学校と同系列の、道路の向かいにある短大に通っているそうだ。
都築は彼女を安心させたかったんだと思う。
わたしが絶対浮気相手じゃないと。
その頃、わたしはフットサルにハマっていて、日焼けで真っ黒、初対面の人からは、ほぼ確実に男と間違われるような外見をしていた。
一方の彼女は頭のてっぺんからつま先まで砂糖菓子でできてるような、可愛らしさ満点のザ・女の子。
彼女も安心しただろうけど、わたしも納得した。
逆立ちしたって、この子に敵うはずがないと。
「匡ちゃんから、久保さんのことはいつも聞いてます。大変でしょ? この人のわがままに付き合うの。制作のことになったら、他のことがまるで見えなくなっちゃうから」
「さすが、よくわかってるんだね。都築くんのこと」
「だって、コンペまでの間、もう何度も約束すっぽかされてますからね」
「うわ、ひどい彼氏だね」
「もう、あきらめてます。そういう人だって知ってるんで」
ユキちゃんは苦笑混じりでそう言った。
だいぶ都築に振り回されているんだろうな、彼女も。
でも、マウント取ろうとしているんじゃないとわかっているけど、ユキちゃんの、長年連れ添った妻のような口ぶりはわたしをチクチクと苛んだ。
「可愛いね。ユキちゃん」
後日、わたしが言うと「だろ」と都築は鼻の下を伸ばした。
くそ、思いっきり蹴飛ばしてやりたい。
「野犬がマルチーズに手を出したって感じ」
「うっせー、誰が野犬だよ」
「ああ、オオカミか」
「余計、凶暴じゃん。こんなに純情な男をつかまえて」
「どこが」
ユキちゃんのことなんて、ほんとは話題にしたくなかった。
でも、一生懸命平気な自分を演じた。
そうすることで、都築はただの友達だと自分自身に納得させるために。
そうやって、わたし自身はなんとか精神的に距離をおこうとしてはいたけれど、そんな抵抗もむなしく、日を追うごとに都築とわたしは親しさを増していった。
一言で言えば、ウマがあったのだ、彼とは。
口ゲンカは絶えなかったけれど、裏を返せば、それはなんでも言い合える証拠で、これほど、まったく気を使わずにいられる友達は、女子のなかにもいなかった。
平日、休日を問わず、頻繁にコンペの打ち合わせと称して話しこんだ。
パリコレのこと、映画のこと、将来のこと……いつまでも話題が尽きることはなかった。
都築はつねにわたしの一歩先を行っていた。
デザインに対する姿勢、考え、才能。
勉強になることばかりだった。
でもあまりにも一緒にいることが多くなって、わたしは逆に心配になった。
「最近、ちゃんとユキちゃんとデートしてる? 打ち合わせで会うの、平日だけのほうが良くない?」
都築は「いや、別に大丈夫。お前と話すの面白れぇし」というだけで、とくに態度を変えようとはしない。
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