初恋の呪縛

泉南佳那

文字の大きさ
15 / 30
4・ファーストキス未遂

しおりを挟む
 そりゃ、わたしだって、都築といるのは楽しいけど。

 でも、ユキちゃん、ほんとに文句言わないのかな。

 自分の彼氏が、たとえ“見た目ほぼ男子”とはいえ、異性の友だちを作ったら面白くないに決まっている。

 自分でも不思議なのだが、いい子ぶっている訳じゃなく本心からふたりの仲を裂こうという気持ちはなかった。
 
 というか、ユキちゃんタイプを彼女にしている都築が、こんなガサツで男みたいな女を好きになるはずがないと、信じて疑わなかった。
 
 都築に限らず、自分が男子に好かれるなんてありえないという考えが長年、脳にこびりついていた。

 そうやって、人知れず涙ぐましい努力と諦めを重ね、少しずつ都築をただの友達だと思えるようになってきたとき。

 あろうことか、当の都築が、また、わたしの恋心に火をつけた。

 それは2年生のコンペの日、20歳のクリスマスイブの夜のことだった。

 2度目の挑戦ということもあり、わたしたちの作品はグランプリを獲得した。
 
 大方の予想通りとはいえ、勝利の味は格別で、周りからの祝福や称賛も思った以上に心地よかった。

 その興奮冷めやらぬまま、仲のいい友人たちと連れ立って居酒屋に繰りだした。

 そこで6時間粘った末、とうとう追い出され、とりあえずそこで祝勝会はお開きとなった。
 
「これからどうする?」
 なんとなく連れ立って横を歩いている都築に訊いた。

 このまま帰るのは惜しい気がしていた。
 都築も同じ気持ちだったらしい。

「もう少し飲みてえな」
「どっか店探す?」
「この時間じゃ、もう開いてねえだろ。そうだ、いいとこあるわ」
「どこ?」

 都築はイタズラを思いついた小学生みたいに目をきらめかせた。

「学校。忍び込もうや」

 わたしも親指を立てて応じた。

「いいね」

 酔っ払って気が大きくなってた。

 最高の気分の夜を、バカげたことをして締めくくりたかった。

 そこで、酒屋で缶チューハイを買い、学校を目指した。

 まず、買ったそばから、ひと缶開ける。
 プルトップを開けてぐいぐい飲む。

「あー、勝利の美酒はサイコー」
「こっちにもよこせよ」
「うん」
 
 もう一口飲んでから、都築に渡す。

「げ、もう半分もねーじゃん。その飲みっぷり、お前、もう性転換したほうがいいんじゃね」

「うるさい。どうせ、今だって女だと思ってないくせに」
 
 訳がわからなくなるほど、酔いたかった。
 この後ろめたさから逃げるために。
 でも飲んでも飲んでも、頭は冴えてゆく一方で。

 今晩だけだから。
 わたしたちにとって、特別な夜だから。

 わたしが、都築を独占することなんて、もう二度とないから許して。

 わたしは心の中で、ユキちゃんに詫びていた。



 夜もだんだん更けてきて、身体の芯まで凍りつきそうなほど寒くなってきた。

 でも、そんなことにはお構いなく、わたしたちふたりは、チューハイを煽りながら、街を闊歩して、野放図で気ままな夜を満喫していた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話

紫さゆり
恋愛
オムニバス形式です。 理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。 大人の女性のストーリーです。

コンプレックス

凛子
恋愛
需要と供給……?

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
政略結婚をすることになったオデット。 その相手は初恋の人であり、同時にオデットの姉アンネリースに想いを寄せる騎士団の上司、ランヴァルド・アーノルト伯爵。 拒否に拒否を重ねたが強制的に結婚が決まり、 諦めにも似た気持ちで嫁いだオデットだが……。

一億円の花嫁

藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。 父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。 もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。 「きっと、素晴らしい旅になる」 ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが…… 幸か不幸か!? 思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。 ※エブリスタさまにも掲載

恋愛の醍醐味

凛子
恋愛
最近の恋人の言動に嫌気がさしていた萌々香は、誕生日を忘れられたことで、ついに別れを決断。 あることがきっかけで、完璧な理想の恋人に出会うことが出来た萌々香は、幸せな日々が永遠に続くと思っていたのだが……

泡になった約束

山田森湖
恋愛
三十九歳、専業主婦。 夫と娘を送り出し、静まり返ったキッチンで食器を洗う朝。 洗剤の泡が立っては消えるその繰り返しに、自分の人生を重ねながら、彼女は「ごく普通」の日常を受け入れている。 愛がないわけではない。けれど、満たされているとも言い切れない。 そんな午前中、何気なく出かけたスーパーで、背後から名前を呼ばれる。 振り返った先にいたのは、かつて確かに愛した男――元恋人・佐々木拓也。 平穏だったはずの毎日に、静かな波紋が広がり始める。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

処理中です...