16 / 30
4・ファーストキス未遂
3
しおりを挟む
「ここなら登れそうだ」
裏口横の、ちょうど都築の肩ぐらいの高さの、低いフェンスの前まで来た。
先に都築が登って、降り……というより落ちる。お尻で着地したらしい。
「っう……」
「だいじょーぶ?」
そう言いながらも、笑いが込み上げてくる。
くっくっ。
腰さすってるし。
「ああ、ちょっとよろけただけ。ほら、掴まれよ」
「うん」
塀に登って、都築の手を握ってジャンプして降りた。
そのまま、手をつないだままで、校舎の裏側にある中庭を目指した。
都築と手をつなぐなんて考えられなかったけど、酔ってることを言い訳にそのままつないでいた。
「こんだけ暗いと、ここが学校とは思えないね」
中庭は建物に囲まれており、街のネオンや車のライトやビルの照明などから隔絶されていて、月だけが嘘みたいに明るく光っていた。
「うわー、けっこう見えるんだ、星……」
上を見上げたそのとき、急に酔いを感じてよろけた。
「きゃ」
「何、女みたいな声だしてんの」
「れっきとした女なんですけど」
「そうだっけ?」
そうだよと言って、都築のお腹をパンチした。
「うっ、おい、やめろよ。腹のなかのもん、全部、お前にぶちまけるぞ」
「いやー」
わたしは都築の手を振りほどき、声をあげて走りだそうとしたけれど、頭がくらくらしてその場にしゃがみこんでしまった。
「おい、大丈夫か?」
いつになく心配そうな、都築の声。
「……うん」
「吐きそう?」
「ううん、平気……ちょっとクラクラして」
彼はわたしの顔を覗きこんだ。
そして、驚くほど優しい声で「ちょっとあそこに座るか?」とベンチを指さした。
「うん」
都築に支えられてベンチに近づき、腰を下ろす。
「うわ、冷てー。やっぱ、寒みー。なあ、ちょっと、それ貸せよ」
都築はわたしがぐるぐる巻きにしていたショールを取り上げようとする。
「やだよ。カッコつけてそんな薄着してるのが悪い」
寒さで歯をガチガチ言わせている都築が、なんだかおかしくて、わたしはケタケタ笑った。
「何笑ってんだよ、貸せよ、なあ」
おなかの底からおかしくて、わたしは笑いつづけた。
やっぱり酔いが回っていたんだろう。
まったく笑いが収まらなかった。
「取れるもんなら取ってみ」
そう言って、ショールをぎゅっと握りしめた。
すると都築は、背後から手を回し、わたしの手をつかんだ。
「ほら、その手、離せって」
ん? これって。
バックハグ……されてる、みたいな。
背中に感じる都築の体温にとまどい、わたしは素直に手を放した。
都築はぐるぐるとショールをほどいてしまう。
「もー、寒いって」
「ほら、こうすりゃふたりともあったかいだろ?」
彼はふたり一緒にショールをかけ、わたしの肩に腕を回してきた。
「うん……だね」
今って、都築に肩を抱かれて……るんだよね。
頭がぼうっとしていて、夢の中みたいに現実感が希薄だ。
こんなことしてて、いいのかな。彼女持ちの男と。
裏口横の、ちょうど都築の肩ぐらいの高さの、低いフェンスの前まで来た。
先に都築が登って、降り……というより落ちる。お尻で着地したらしい。
「っう……」
「だいじょーぶ?」
そう言いながらも、笑いが込み上げてくる。
くっくっ。
腰さすってるし。
「ああ、ちょっとよろけただけ。ほら、掴まれよ」
「うん」
塀に登って、都築の手を握ってジャンプして降りた。
そのまま、手をつないだままで、校舎の裏側にある中庭を目指した。
都築と手をつなぐなんて考えられなかったけど、酔ってることを言い訳にそのままつないでいた。
「こんだけ暗いと、ここが学校とは思えないね」
中庭は建物に囲まれており、街のネオンや車のライトやビルの照明などから隔絶されていて、月だけが嘘みたいに明るく光っていた。
「うわー、けっこう見えるんだ、星……」
上を見上げたそのとき、急に酔いを感じてよろけた。
「きゃ」
「何、女みたいな声だしてんの」
「れっきとした女なんですけど」
「そうだっけ?」
そうだよと言って、都築のお腹をパンチした。
「うっ、おい、やめろよ。腹のなかのもん、全部、お前にぶちまけるぞ」
「いやー」
わたしは都築の手を振りほどき、声をあげて走りだそうとしたけれど、頭がくらくらしてその場にしゃがみこんでしまった。
「おい、大丈夫か?」
いつになく心配そうな、都築の声。
「……うん」
「吐きそう?」
「ううん、平気……ちょっとクラクラして」
彼はわたしの顔を覗きこんだ。
そして、驚くほど優しい声で「ちょっとあそこに座るか?」とベンチを指さした。
「うん」
都築に支えられてベンチに近づき、腰を下ろす。
「うわ、冷てー。やっぱ、寒みー。なあ、ちょっと、それ貸せよ」
都築はわたしがぐるぐる巻きにしていたショールを取り上げようとする。
「やだよ。カッコつけてそんな薄着してるのが悪い」
寒さで歯をガチガチ言わせている都築が、なんだかおかしくて、わたしはケタケタ笑った。
「何笑ってんだよ、貸せよ、なあ」
おなかの底からおかしくて、わたしは笑いつづけた。
やっぱり酔いが回っていたんだろう。
まったく笑いが収まらなかった。
「取れるもんなら取ってみ」
そう言って、ショールをぎゅっと握りしめた。
すると都築は、背後から手を回し、わたしの手をつかんだ。
「ほら、その手、離せって」
ん? これって。
バックハグ……されてる、みたいな。
背中に感じる都築の体温にとまどい、わたしは素直に手を放した。
都築はぐるぐるとショールをほどいてしまう。
「もー、寒いって」
「ほら、こうすりゃふたりともあったかいだろ?」
彼はふたり一緒にショールをかけ、わたしの肩に腕を回してきた。
「うん……だね」
今って、都築に肩を抱かれて……るんだよね。
頭がぼうっとしていて、夢の中みたいに現実感が希薄だ。
こんなことしてて、いいのかな。彼女持ちの男と。
1
あなたにおすすめの小説
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
ジャンヌ・ダルクがいなくなった後
碧流
恋愛
オルレアンの乙女と呼ばれ、祖国フランスを救ったジャンヌ・ダルク。
彼女がいなくなった後のフランス王家
シャルル7世の真実の愛は誰のものだったのか…
シャルル7世の王妃マリー・ダンジューは
王家傍系のアンジュー公ルイ2世と妃アラゴン王フアン1世の娘、ヨランの長女として生まれ、何不自由なく皆に愛されて育った。
マリーは王位継承問題で荒れるフランス王家のため、又従兄弟となるシャルルと結婚する。それは紛れもない政略結婚であったが、マリーは初めて会った日から、シャルルを深く愛し、シャルルからも愛されていた。
『…それは、本当に…?』
今日も謎の声が彼女を追い詰める…
アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚
日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる