初恋の呪縛

泉南佳那

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4・ファーストキス未遂

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「ここなら登れそうだ」

 裏口横の、ちょうど都築の肩ぐらいの高さの、低いフェンスの前まで来た。
 先に都築が登って、降り……というより落ちる。お尻で着地したらしい。

「っう……」
「だいじょーぶ?」
 
 そう言いながらも、笑いが込み上げてくる。
 くっくっ。
 腰さすってるし。

「ああ、ちょっとよろけただけ。ほら、掴まれよ」
「うん」
 塀に登って、都築の手を握ってジャンプして降りた。

 そのまま、手をつないだままで、校舎の裏側にある中庭を目指した。
 
 都築と手をつなぐなんて考えられなかったけど、酔ってることを言い訳にそのままつないでいた。

「こんだけ暗いと、ここが学校とは思えないね」

 中庭は建物に囲まれており、街のネオンや車のライトやビルの照明などから隔絶されていて、月だけが嘘みたいに明るく光っていた。

「うわー、けっこう見えるんだ、星……」

 上を見上げたそのとき、急に酔いを感じてよろけた。

「きゃ」
「何、女みたいな声だしてんの」
「れっきとした女なんですけど」
「そうだっけ?」

 そうだよと言って、都築のお腹をパンチした。

「うっ、おい、やめろよ。腹のなかのもん、全部、お前にぶちまけるぞ」

「いやー」
 わたしは都築の手を振りほどき、声をあげて走りだそうとしたけれど、頭がくらくらしてその場にしゃがみこんでしまった。

「おい、大丈夫か?」
 いつになく心配そうな、都築の声。

「……うん」
「吐きそう?」
「ううん、平気……ちょっとクラクラして」

 彼はわたしの顔を覗きこんだ。
 
 そして、驚くほど優しい声で「ちょっとあそこに座るか?」とベンチを指さした。
「うん」
 都築に支えられてベンチに近づき、腰を下ろす。

「うわ、冷てー。やっぱ、寒みー。なあ、ちょっと、それ貸せよ」
 都築はわたしがぐるぐる巻きにしていたショールを取り上げようとする。

「やだよ。カッコつけてそんな薄着してるのが悪い」

 寒さで歯をガチガチ言わせている都築が、なんだかおかしくて、わたしはケタケタ笑った。
「何笑ってんだよ、貸せよ、なあ」

 おなかの底からおかしくて、わたしは笑いつづけた。
 やっぱり酔いが回っていたんだろう。
 まったく笑いが収まらなかった。

「取れるもんなら取ってみ」
 そう言って、ショールをぎゅっと握りしめた。

 すると都築は、背後から手を回し、わたしの手をつかんだ。
「ほら、その手、離せって」

 ん? これって。
 バックハグ……されてる、みたいな。
 
 背中に感じる都築の体温にとまどい、わたしは素直に手を放した。
 都築はぐるぐるとショールをほどいてしまう。

「もー、寒いって」
「ほら、こうすりゃふたりともあったかいだろ?」
 彼はふたり一緒にショールをかけ、わたしの肩に腕を回してきた。
「うん……だね」

 今って、都築に肩を抱かれて……るんだよね。

 頭がぼうっとしていて、夢の中みたいに現実感が希薄だ。
 こんなことしてて、いいのかな。彼女持ちの男と。
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