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4・ファーストキス未遂
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でも、冷え切った身体には寄り添う都築の体温があまりにも心地良すぎて、わたしはそのまま動けない。
「ほれ」
都築はリュックからミネラルウォーターを出した。
口をつけ、むせないように気をつけながら、ゴクッと一口飲み込む。
酔った体内を冷えた水がすーっと滑っていく。
ものすごく美味しかった。
見上げると、覆っていた雲が流れ、月が煌々と地上を照らしだし……
なに、このロマンチックなシチュエーション……
もしかして、これ、夢?
願望が作り出した幻?
でも……
この感触、どう考えてもリアルだ。
何を思ったか、都築は肩に回していた手をわたしの頬まで伸ばし、自分のほうに向かせた。
彼の手は氷のように冷たかったけれど、触れられたところは、一瞬で熱を帯びた気がした。
「冷たいよ……手」
弱々しい抗議の声を無視して、都築はそのままわたしを見つめてくる。
ん? 目の焦点が微妙にあっていない気がする。
なんだ、酔ってるの?
そりゃそうだよね。じゃなきゃ、こんなことしないよね。絶対。
「お前、よく見ると可愛い顔してんのな」
「な、何言ってんの? 目まで酔っ払ってるんじゃない?」
もういたたまれないよ。こんなことされたら。
雷に打たれたみたいに心臓がビリビリ痺れて気を失いそう。
そう……
この1年余り、こんなシーンをどれほど夢見てきたか。
そして、いつも目が覚めると現実とのギャップに虚しさを覚えて……
これは夢じゃないけど都築の真意がつかめない。
もしかして彼女と間違えてる?
でも……そんなふうでもないし。
酔いと疑問で頭が沸騰してしまいそうなわたしに、都築はトドメの一言を放った。
「なあ、キスしていい?」
キ、キス!?
頭が真っ白になった。
白状すれば……
自分でも頭がおかしいんじゃないかと思うほど、望んでいた。
都築とキスしたいって。
出会ってからずっと。
でも、だから余計に酔った勢いでするのは嫌だった。
だって……
わたしにとっては……
大切なファースト・キスなんだから、これは。
相手が正気かどうかわからないままするなんて、嫌だ。
そんなウブで乙女チックなこと言ったら「柄じゃね~」って、大笑いされそうだから、絶対言わないけど。
だからわたしは彼の鼻をつまんで、言った。
「やだよ。酔っ払い」
ほんの一瞬、都築は今まで見せたことがない、とても切ない、傷ついたような表情をしたけれど、すぐにいつもの顔に戻って、言った。
「だよな」
そうして顔を見合わせて、笑った。
ロマンチックなムードはあっさり立ち消えた。
わたしは、都築が大好き。
この世で一番キスしたい人。
だから、間違っても冗談なんかでキスしたくなかった。
でも、もしも……
さっきの表情が都築の本心を表していたとしたら。
そして……
もし素面のときに告白されたら、そのときは……
はっきり告げる。
わたしも大好きだって。
期待してはいけないと思いつつ、それからしばらくは都築に会うと鼓動が早くなって困った。
でも数ヶ月後。
あの夜のことは、やっぱり酔いに任せたほんの戯れだったと、はっきり思い知ることになった。
専門学校を卒業してすぐ、都築とユキちゃんは結婚した。
「ほれ」
都築はリュックからミネラルウォーターを出した。
口をつけ、むせないように気をつけながら、ゴクッと一口飲み込む。
酔った体内を冷えた水がすーっと滑っていく。
ものすごく美味しかった。
見上げると、覆っていた雲が流れ、月が煌々と地上を照らしだし……
なに、このロマンチックなシチュエーション……
もしかして、これ、夢?
願望が作り出した幻?
でも……
この感触、どう考えてもリアルだ。
何を思ったか、都築は肩に回していた手をわたしの頬まで伸ばし、自分のほうに向かせた。
彼の手は氷のように冷たかったけれど、触れられたところは、一瞬で熱を帯びた気がした。
「冷たいよ……手」
弱々しい抗議の声を無視して、都築はそのままわたしを見つめてくる。
ん? 目の焦点が微妙にあっていない気がする。
なんだ、酔ってるの?
そりゃそうだよね。じゃなきゃ、こんなことしないよね。絶対。
「お前、よく見ると可愛い顔してんのな」
「な、何言ってんの? 目まで酔っ払ってるんじゃない?」
もういたたまれないよ。こんなことされたら。
雷に打たれたみたいに心臓がビリビリ痺れて気を失いそう。
そう……
この1年余り、こんなシーンをどれほど夢見てきたか。
そして、いつも目が覚めると現実とのギャップに虚しさを覚えて……
これは夢じゃないけど都築の真意がつかめない。
もしかして彼女と間違えてる?
でも……そんなふうでもないし。
酔いと疑問で頭が沸騰してしまいそうなわたしに、都築はトドメの一言を放った。
「なあ、キスしていい?」
キ、キス!?
頭が真っ白になった。
白状すれば……
自分でも頭がおかしいんじゃないかと思うほど、望んでいた。
都築とキスしたいって。
出会ってからずっと。
でも、だから余計に酔った勢いでするのは嫌だった。
だって……
わたしにとっては……
大切なファースト・キスなんだから、これは。
相手が正気かどうかわからないままするなんて、嫌だ。
そんなウブで乙女チックなこと言ったら「柄じゃね~」って、大笑いされそうだから、絶対言わないけど。
だからわたしは彼の鼻をつまんで、言った。
「やだよ。酔っ払い」
ほんの一瞬、都築は今まで見せたことがない、とても切ない、傷ついたような表情をしたけれど、すぐにいつもの顔に戻って、言った。
「だよな」
そうして顔を見合わせて、笑った。
ロマンチックなムードはあっさり立ち消えた。
わたしは、都築が大好き。
この世で一番キスしたい人。
だから、間違っても冗談なんかでキスしたくなかった。
でも、もしも……
さっきの表情が都築の本心を表していたとしたら。
そして……
もし素面のときに告白されたら、そのときは……
はっきり告げる。
わたしも大好きだって。
期待してはいけないと思いつつ、それからしばらくは都築に会うと鼓動が早くなって困った。
でも数ヶ月後。
あの夜のことは、やっぱり酔いに任せたほんの戯れだったと、はっきり思い知ることになった。
専門学校を卒業してすぐ、都築とユキちゃんは結婚した。
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