初恋の呪縛

泉南佳那

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6・想い想われ

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 12月に入った。

 会社の前には、毎年恒例の巨大なクリスマス・ツリーが御目見えした。

 近所の女子高生たちがスマホを手にして、笑いさざめきあいながら写真を撮っているのも、毎年繰り返される光景だ。

 バーゲンシーズンを控え、会社はまた慌ただしい時期に突入していた。

 その多忙の合間を縫いながら、わたしと千隼さんは逢瀬を重ねた。

 日曜日だった昨日も彼の部屋を訪れた。

 マンションは千駄ヶ谷にある。
 服装と同じで、部屋もスタイリッシュな家具で統一されている。
 
 神宮外苑のカフェで昼食を済ませて、マンションに戻り、心地の良いリビングでまったりと時を過ごすのがお決まりのデートだ。

「……朱利」

 わたしの膝枕で寝そべっている彼の腕が、わたしの首をとらえる。
 促されるまま、わたしは覆いかぶさるように彼と唇を合わせた。

「こういう不自由な態勢も悪くはないけど」
 千隼さんは起き上がり、もう一度、わたしの唇を捉える。

「このほうがいいな、やっぱり」
 そう囁きながら、丹念なキスを繰り返す。

 彼の舌はもうわたしの弱いところを熟知しているから、すぐに音をあげてしまう。

「ち、はやさん……ん、もう」
 
 彼は頭を斜めに傾げ、わたしの首筋に唇を這わせながら、そっと歯を立てた。

 わたしがびくっと体をこわばらせると、ふっと笑みをこぼした。

「跡、つけられるかと思った?」
「うん、少し驚いた」

 彼は額と額を合わせて、焦点が合わないほどの近さでわたしに囁く。
 
「見せびらかしたい気もあるけどね、朱利は僕のものだって」

 都築に、と言われるのかと思ったけれど、彼は何も言わずに、またわたしの唇を味わいはじめた。

「永遠にこうして朱利と戯れていたいよ」

 また、唇が合わさり、不埒な手が首筋から鎖骨、胸へと辿り、わたしの敏感な部分を探る。

 セーターの上から胸の先を爪で引っ掻くようにされ、わたしは思わず声を漏らす。

「あぁん」

「会社の連中は知らないんだな。朱利がこんな可愛い声で鳴くなんて」

 彼の手はセーターをたくしあげ、ますます容赦なくわたしを苛みはじめる。

「やん、あ、千隼さん」
「愛してるよ、おれの朱利」

 そんなふうに、ふたりでいるときの彼は、わたしをとことん甘やかす。

 一緒に過ごしていると、心も身体も蕩かされて、実体がなくなってしまいそうになる。

 その瞬間は、わたしのすべてが千隼さんで満たされていると感じる。
 
 それでもまだ、その気持ちを阻むものが、頑なに存在していた。
 まるで、氷にそのまま閉じ込められてしまった夾雑物のように。

 千隼さんと唇を合わせているとき、ふと蘇る、都築の言葉。

 ――なあ、キスしていい?

 わたしが心に抱いているのはあの日の都築の幻でしかない。
 それはわかっているのだけれど。

 忘れなくてもいいと、千隼さんは言ってくれたけれど。
 でも、このままでいいとは思えないし……


「よっ」
「うわ、都築」

 びびった。
 当の本人が目の前に突然現れて。

「何、幽霊でも見たような顔してんだよ。ちょうど良かった。お前のとこに行くところだったんだ」
「なんで?」

「久保に話したいことがあったんだよ。お前、24日なんか予定ある?」

「24日って、今月の?」
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